2章30話 本能との共存
門をくぐると目の前に鬼化した俺がいた。
『なあ、血をくれよ。美味いよなぁアレは。とてつもない快感と満たされる食欲。何故飲まない。いや、飲んではいるか。直接飲むのは怖いか、知り合いに怖がられるのは怖いか。』
無意識に避けていた事をずかずかと話す俺の姿をした鬼、だが確かにその通りなのだ。吸血だって母さんの血をもらっていただけ。自分で飲んだのは最初に父さんにためしたときだけだ。
とてつもなく美味しくてずっと飲んでいたかった。でもそんな事言えなかった。これ以上変わるのが怖くて。
『本心隠して本能の力が使えるか!?使えるわきゃないだろ!だから心の中の世界で力使えなくなんだろうが!!』
「それでも俺は・・・」
『みんなに追いつきたくて仕方ないんだろう!?みんなに必要とされたいんだろ!?違うなら何で銀嶺の願いを受け入れたんだ?可哀想、この人は必要としてくれる。助けられれば自分がみんなに追いついたと実感できる。そう思ったろ?」
「違う!ただ助けたい、そう思ったらから・・・」
『いや、違わない。お前は能力がない頃から誰かを助け誰かのそばにいようとした。それはいつか能力がない自分が誰の目にも映らなくなり、幼馴染にすら置いていかれることへの恐怖故のことだ。自覚くらいはあるだろう?』
「そんなわけ!・・・ない、とは言えない。」
能力がないといわれた時、あの時から俺は自分のいる価値を、意義を探して色んな人の手伝いを始めたんだ。
『誰かを助け、誰かに必要とされ誰かにそばにいて欲しい。それがお前の偽りなき本心だ!』
「そうだ、俺は何になっても何をしても他の人と同じところに行きたい。もう能力がないせいで置いてかれるなんてもう嫌だ!」
『なら、血を吸うくらいわけないはずだ!』
「そうだな、今更だ。女になっても受け入れてくれて血を吸うくらい気にしないでくれる人達がいる。ならもう大丈夫。ありがとう、鬼の俺。」
力をもらってあのクソ野郎を一緒に倒そう。
◇
綾は京ちゃんに雪に言われたことを伝えた後、後を追って病院にやってくる。そして、銀嶺の病室にやってきた。
「紅さん!雪君は!?銀嶺さんは!?」
「今、この子の魂に潜って呪いを払おうとしてる。でも、魔力が少なくなってる。」
(お願い、二人とも無事に戻ってきて……)
綾はベットに雪ちゃんの手を握って無事に帰ってくるように願った。すると、雪の体からツノが生えて来た。
「マズイ!【絶血離界】」
「紅さん!?一体何を!」
紅が雪の周りを血のドームで覆った。綾は強制的に雪と離れさせられた。
「魂の世界にいるのに鬼化したって事は門を開けたということよ。あのままだと鬼の能力が辺り一体を傷つけることになっていたから。」
◇
今ならあれができる気がするッ【鬼化】+【血液操作】+【吸血】
雪の角が血のような赤い色に染まっていく。
「【侵血鬼】ここでなら周りを気にすることもない。一度はオーバーヒートしかけたこの技今なら使える!」
ツノは真紅に染まり手には吸血効果のある爪、足には爪と同じ吸血効果のある武装が履かれている。
死神は奪った魔力を溜めて放とうとしていた。
「すぐに終わらせる!」
正面から死神に向かって走り出す。
「kyakyaaaAAAa!」
おそらく未来を見たであろう死神は笑う。俺が今から放つ自分の攻撃に当たる光景を見たからだ。それは正しい。何故なら!
「【吸血爪】!この爪は魔力を切り裂く!うらぁぁぁぁぁァァァァァァ!!」
特大の魔力弾を切り裂いて俺は死神に迫る。
「シャァッ」
死神の鎌が俺を貫くために振るわれる、が跳び蹴りをして鎌を持つ右腕ごと砕く。
「いい加減あの姉妹に返せーーーー!!クソ死神が!!」
今度はしっかり仕留めた感触がしたな。鬼化を解除……あ、これ倒れるなぁ
鬼化を解くとゆっくり世界から離れる感覚がした。
◇
「ぁれ、ここは?」
怜は気がつくと自分の部屋ではなく病室にいることに気が付く。
「あ、気がついた?どう体の具合は?」
すると、隣から声が聞こえた。
「貴方は?それに私どうしてここに?」
「私は血桜 紅。雪の母親よ。貴方は呪いの発作で雪に運び込まれたの。それでどう?呪いは雪が解いたの、だから貴方と貴方の妹さんは解放されたわ。」
(え?解放された?妹も?血桜さんに?)
怜は自身の太ももを確認すると長年あった紋様が消えていることを確認して、本当に解放されたのだと実感した。
「あの、雪さんは?」
(助けてくれたならお礼しないと。それに、ここまで運んでくれたことも。)
「あの子は貴方を助けるために使った能力の後遺症でね、ちょっと別室にいるのよ。」
「後遺症!?あの!どちらの部屋に!?」
「あー入らないでって言ってたけどいいか、左の部屋だよ。」
「雪さん!」
怜は急いで紅に言われた病室に走る。慌ててドアを開ける。普段なら声をかけたりノックするのだが急いでたためするのを忘れる。
すると目に入ったのは綾の腕に吸い付いて恍惚としている雪の姿だった。
「はぁはぁ、んっちゅうちゅう、ぷはぁ、あやぁもっとぉちょおだぁい?」
「いいよ!もっとあげる!はぁはぁ私の腕に吸い付いておねだりする雪ちゃんかわいぃぃぃ!ハァハァ」
本来は使えない力を使ったため本能が強く出た結果だった。紅や怜では無く綾を求める辺り雪の本心はそういうことなのだろうか。
怜はその世界に驚いたがそれが自分達の為に戦った結果なのだから帰る訳にもいかず立ち尽くす。
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