第8話 二度目の人生を謳歌します

『対エネミー戦攻略5ページ』


「右方向に敵が二体」


『小型通常砲弾エネミー』


『”弾”には”斬”』


 速攻で二匹のうちの一匹に近づき、双剣の斬撃二連続をお見舞いさせる。


「おらっ、ヒットアンドアウェイだ!!」


『敵の砲弾は視覚頼り』


 創造で生み出した粉袋を空中に投げ上げ、双剣で粉袋を二つに切り裂き。


 白い粉が空中に飛散、辺りの視界をどんどん悪くしていく。


「どうだ、これで見えねえだろ」


 すぐさま追撃の一打を喰らわせるが、粉が切れて視界が開けてきた。


「……これで十分だ」


 木々の壁を蹴って方向転換、加速して放たれる双剣の一振りは。


「とりゃあ!!!」


 一撃で、幻想の景色は日常へと戻った。


「ここに来てからもうじき二ヶ月か、創造にも大分慣れてきたっぽいな」


 いつもの帰り道、夕焼け空を歩く。


 いつエネミーと戦闘させられるか分からないため、常に気を張っていないといけない。


 でも、それが苦にならない理由がある。


 アニメ最終回、魔法少女の五人は死んだ。


 別にアニメなのだから、いつでも彼女たちの笑顔を巻き戻して”見返す”ことはできる。


 ——でもそれじゃ駄目なんだ。


 最後に笑ってなかったら嫌なんだ。


 終わりがあると分かっている日常はとにかく辛くて、寂しくて仕方がないんだ。


「でも、そんな記憶に釣られて俺までしょげていたら運命なんて変えられない」


 決めた、俺は今日から脱ネガティブを決行する。徹底的に欠点を克服してやる。


 ——正面から彼女たちと向き合うために。


 そうだ、この世界を救えるのは俺だけしかいない。


「じゃあ、まずは笑顔からだな」


 有言実行、即断即決。無理矢理に、無表情な頬を吊り上げた。


「あとはこの環境を楽しむこと」


「つまり、俺は二度目の人生を謳歌します」


(なんか、どっかのラノベタイトルっぽいけど……まあいいか。)


 食料買い出しで荷物パンパンになったかばんを背負って日が暮れる前には家に着いた。


「いい筋トレになったかな……?」

 

「じゃあ作るか!」


 荷物を床に投げ捨てた後、意気揚々で立ったのは台所の前。


「腕がなるぜ」


「こういうのは基礎を大事にするのがポイントだよな!」


「ええっと、まずネギをみじん切りにして

フライパンに胡麻油。……よし今だ!」


 卵を流し込み、一気に強火でサッサッと。


「ほうっ!」


 振り上げたフライパンは米を飛び出たせ、空中で見事な円を描いた。


「もう一回、ほうっ、ここで塩胡椒にだし、最後にネギだ」


「……完成!!」


 皿の上には、紅生姜がトッピングされた巨大なドーム状のチャーハンが乗っている。


「……完食!!」


 食レポは、ありません。これはただのチャーハン、家庭の味です。


「ところでさあ、ポッチ。組織と連絡取る方法、知ってたら教えてくれないか?」


 ポッチはすぐにキューブから、ヒョイっと現れた。


「ボクがなんでもやってくれると思ってない? 残念、買い被りだよーん」


 ポッチの口調は、やっぱり相変わらずのウザさだった。


「そうか、このピラピラした戦闘服をどうにかして欲しかったんだけどなあ」


 男でも着れる感じのデザインではあるのだけれども、やっぱり魔法少女の服を着るなんてのは、恥ずかしいんだよ。


 アニメでも、組織がどこにあるかなんていう描写は無かったから本当に困りもんだ。


 畳に寝転び、コーヒーをちみちみと飲みながら日記に筆を走らせていた。


『対エネミー戦攻略』


 前から読むと攻略本、裏表紙から見ると、日記、それが俺のつけているノートの正体。


 TVをつけたが今の時間にはアニメはやっていなかった、満たされた腹でゴロゴロしていたらいつのまにか眠りについていた。






 

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