第9話 “創造”の使い手

 とある日の朝、起きてカーテンを開けると窓から日が差していた。


 “ふわあ〜”と、大きなあくびが出る。


「まだ眠いなー、でも起きるぞ!」


 バネのように勢いよく起き上がると、朝一からランニングに出かけた。

 

 公園を横切ると、そこには風船が木に引っかかって泣いている少女。


 俺は木に登って手を伸ばし、風船の持ち手を引っ張る。


「はい、どうぞ」


 風船を手渡すと、少女は泣き止んだ。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 俺は、少女に手を振って別れを告げる。


 さらに走って角を曲がると、階段には重たい荷物を背負ったお婆さんが。


「大丈夫ですか、良かったら持ちますよ」


 俺は大きな風呂敷を背に、階段を一気に駆け上がった。


「そうかい、ありがとうね」


「それじゃあ、お気をつけて」


(この身体、俺の元々の堕落した肉体と違って見違えたように動ける。動けるぞ……!)


 そうこうしているとまた景色は幻想の森林に移り変わり、結界からエネミーが出現。


(さあて、今日の敵の登場ですか。)


「なんでわ男の子がいるの……!?」 


(男の子……ああ俺のことか。)


 三人組の魔法少女が既に戦っていた、このアニメの世界観は世界崩壊の寸前。


 “残された最後の街、そんな現実に皆は気づきもせずに魔法少女は日々戦っている”、といった感じだ。


 この”最後の街”の外周を覆う結界の外からエネミーが現れるわけで、この森林の結界内はかなり広い空間なのだが。


 たまには、こうやって別の魔法少女たちと鉢合わせてしまうこともあるのだろう。


「ここは、俺に任せろ」


「無理よ……キューブもなしで!!」


 そう言う三人の魔法少女たちも、もうボロボロだった。


「あるんだなあ、それが!!」


『燃やせよ燃やせ、情熱の炎

ほとばしる熱意を全身に滾らせ

あらゆる困難を打ち砕く烈光の双剣

俺は流星火の魔法少女、空木蒼うつろぎそら


 キューブを展開して変身、双剣を創造。


「嘘……!?」


「今更だけど、このセリフってどうにかならないもんなのか……」


(男なのに魔法少女って、ちょっとおかしくないか?)


 相手の近くまで、一気に駆け寄った。


『対エネミー戦攻略23ページ』


『赤・黒色/体長三メートル/“斬”属性』


『キラー系エネミー』


 大振りの斬撃が斜めから放たれる、俺はその動きを真似るように双剣を振るう。すると力と力は相殺し、大きな音が響く。


「もう一撃だ!!」


 その隙をついてすぐさまにもう一度斬撃を繰り出す。相手もそれに反応するが俺は体をひねって柔軟に回避し中心に一撃を食らわす。


『キラー系は瞬発力が高い代わりに状態異常耐性が低い』


 後ずさりながら創造した毒瓶を投げつけ。


『備考:中型エネミーは炎が弱点』


 続け様に大量の灯油を投げつけ、マッチに火をつけ放り込む。


「着火だ、ファイアー」 


 キラーエネミーは全身、炎をまとって叫び上がる。外表は散り散りに焼け焦げた。


「ほらよ、混ぜるな危険ってやつだ」


 創造した化学反応。毒ガスが生じるが、エネミーの動きは鈍くならない。


「なんなの、この戦い方は……!?」


「ふふーん。あいつは”創造”のロゼリオの使い手、空木蒼うつろぎそらだッピ!!」


「え、あなたは……?」


「ボク? ボクはあいつのロゼリオに宿った妖精、ポッチだッピ!!」


「妖精? 確か妖精が宿る魔法少女は滅多に現れないんじゃ……!?」


「……それじゃあ、もうそろそろ仕上げといきますか。創造!!」 


 ロープを木に結び巨体の体をロープで締め付け、斬撃の動きを良く見て回避し、そのまま腕にワイヤーを絡めさせる。


「……創造。巻き取り機だッ!!」


 スイッチを押すと、エネミーの腕に締め付けられたワイヤーが更に食い込んでいく。


 ——“技”をも創造する。


【 斬烈 】


 切れ込みの一点に刃を集中させた一撃、体と腕を拘束された敵は動けない。


 巨大な腕が音を立てて、地面に落ちた。かと思ったら、全身であおるように。


「これでもう斬撃は使えないぜ、ほら来いよ」


(よし……!)


「何ふざけてるんだクソヤロー! 真面目にやれっピ!!」


「ポッチさんって、口悪いんですね……」


 攻撃をしようと前進してくる巨体。そのとてつもない力でロープに繋がれた大木を引き抜き、地面を引きずってやって来る。


 ——と思いきや、バランスを崩し転倒。


「腕も引きちぎられて、そんな大きなかせまで付けてちゃあ思うようにいかないよなあ〜」


「何なの、あれ……?」


「俺は、魔法少女のみんなを守るために来た、魔法少女(男)だ!!」

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