第9話 責任①
ブラックマーケットを探し回った末、ついに見つける。
看板に『ジャンク屋』と書かれた、古ぼけた二階建ての住宅。
『わたしの代わりに兄の面倒を見てほしい』
そう言った武器商人の願いを叶えるために、たどり着いた場所だった。
「あの子の兄、か……」
ぽつりと呟きながらリーチェは店へ足を踏み入れる。
狭い店内は古式拳銃が散乱していて、値札は倒れている。
カウンターに人の姿はなく、営業しているようには見えない。
まるで何者かが暴れ回った後のように、荒れ果ててしまっていた。
(みかじめ料の徴収……。見たところ、事後)
事情は理解しつつ、長方形状の店の奥へと進んでいく。
すると、店の突き当たり。窓際の方から声が聞こえてくる。
「くそっ! お金を渋ったからって、あいつら……」
「こら。人を怨むな、身を怨め。って、いつも言ってるだろ」
「分かってるけどさ、ゼウスはエリーゼが大事にしてたペットなんだよ」
見えたのは、頬にガーゼを貼られている黒髪で褐色肌の少年。
それと、手当てをする灰色の着物を着た白髪のおばさんだった。
(あの少年が例の……。声をかけるなら、早い方が良さそうね)
なんでもない出会い。刺激もドラマチックの欠片もない平凡な邂逅。
「忙しいところ、ごめんなさい。あなたに少し用があるんだけど、いい?」
それが、エリーゼの兄。ジェノ・アンダーソンとの初めての出会いだった。
◇◇◇
ジャンク屋二階。ガラクタが転がる物置部屋。
木製の長机の上には、紙袋と空き瓶と二つの空のグラス。
トマトジュースで一服しながら、名前と肩書きを名乗った後のこと。
「その……。殺し屋のリーチェさんが僕に一体、何の用なんですか?」
向かいに座る少年ジェノは、顔色を曇らせながら尋ねた。
無理もない。いきなり殺し屋がきたら、怖がるに決まってる。
本来なら、もう少し時間をかけて、ゆっくりと打ち明けるべき話。
「……これを見て」
だけど、回りくどい話は好きじゃない。
紙袋から新聞を取り出し、記事の一面に指を差した。
「えっと……エリーゼ・アンダーソンが、クラブ『ディーノ』の火災で焼死!?」
がっくりと肩を落とし、ジェノは椅子にもたれている。
急に家族の訃報を受けたら、普通は落ち込むに決まってる。
「落ち着いたら、ここに連絡をちょうだい。出来る限りの面倒は見るわ」
今は死を受け止める時間が必要かもしれない。
そんな気を遣って、黒い名刺を置いて去ろうとする。
「……待ってください。面倒を見てくれるなら手伝ってくれませんか?」
だけど、腕を掴まれた。その上で凄まれた。
力は大したことない。目を見張るのはその精神力。
希望捨てていないような目。何かを画策したような眼差し。
「手伝うって何を?」
瞳に吸い込まれそうになりながら、気付けば、そう聞き返していた。
「クラブ『ディーノ』はマランツァーノファミリーの直営店。妹が何らかの事件に巻き込まれたに決まってる。だから、近くにあるマランツァーノの邸宅に乗り込んで、直接事情を聞いて、死の真相を確かめます。それを手伝ってください」
ジェノが語るのは、あまりにも無茶苦茶なお願いだった。
弱気そうな顔に似合わず、どこか根拠のない自信に溢れている。
割に合わないにもほどがある。適当な理由をつけて断ってやればいい。
「……いいわ。ただし、実力を試させて。連れていくかは見てから決める」
そう思っていたのに、引き受けてしまっていた。
割に合わない以上の何かを、この子に感じたからかもしれない。
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