第1話

 そういえば自己紹介がまだだったね。


 僕の名前は天川空。


 両親が言うには天の川の良く見える夜空の下で、ミルキーウェイが混じりあい、僕が生まれたから付いた名前だそうだ。


 年齢は17歳になった。


 みんなもご存知、ギャルゲーの主人公と同い年である。


 何故って?


 おいおい、これだからにわかは困る(誰だよお前は)。


 ギャルゲーには必ずと言っていいほど小悪魔系後輩や、実はむっつりな先輩生徒会長が出ると言っても過言じゃない(過言)。


 すなわち!


 ギャルゲーの主人公には先輩も後輩も登場させることができる、高校2年生である17歳がBEST OF BEST(英語18点)であることが証明されている。


 これは◯ックスフォード大学でも論文が出ている確実性のあるものだ。


 だが悲しいことに、僕の主人公一致度は目にかかるくらいの前髪や、可愛い幼馴染、曲がり角で女の子とぶつかったことがあるくらいであり、ギャルゲーの主人公とは程遠い存在である。


 この物語はそんな僕こと天川空がギャルゲー主人公に転生するために努力するお話である(違います)。





 ―――――――――――――――――――――――





 ピピピピ ピピピピ


「うーん。あと5分」


 ピピピピ ピピピピ


「だから世界は5分前にできたんだってばぁ〜」


 バシッ


 3害種の神器の1つ『目覚まし時計』を止め、戦略的撤退二度寝を執行する。


 人類が一度も勝てない存在に僕が勝とうなど、あまりにも傲慢、暴虐無人、何妙法蓮華経なことである。


 だから世界よ、どうか許して欲しい。


 せめてもの抵抗として布団は顔まで被るから!!


 ガチャ


 扉の開く音が聞こえる。


「空!いい加減起きなさい!」


 実は僕には隣の家に100人いたら103人くらい振り向くほど可愛い幼馴染がいる。


 言葉も態度もクールな彼女だが、僕と一緒にいるくらいだ。


 きっと……おそらく……多分だけど……優しい女の子である?


 いや本当だよ?


 ほらこの目を見てよ。


 やべっ、眠くて目が開かんわ。


「ほら!何をふざけてるのか知らないけど顔洗ってきて!朝ごはんもできてるからね!!」


 ところで唐突だが、毎日部屋まで来て朝起こしてくれたり、朝ごはんを作ってくれる幼馴染は男のロマンであるというには共通認識でいいだろう。


 僕的にはエプロンをつけて、何も入ってない鍋をかき混ぜるタイプとかも好きである!!


 異論は認める!!


「変な顔してないでせかせか動く!!」


「ふわぁ〜。分かったよ、お母さん」


 まぁ、そんなこと現実で起きるわけないけどね。


 パパッと準備を整え、朝ごはんである食パンを咥えながら学校に行こうかなーと考えていると、掴み損ねてテーブルから落ちてしまった。


 だが、ここで奇跡が生まれた。


 なんと食パンはジャムを上にして落ちたのだ!!


「お、お前ってやつは!!!」


「・・・」


 食パンは笑っていた(笑ってないです)


 世界の法則を凌駕した食パンであったが、結局汚いと母親に捨てられた。


「僕……お前のこと、一生忘れねーから!!」


「・・・」(はよ学校行けや)


 泣く泣く僕は新しい食パンを食べ、靴を履き、家を出た。


 ヴァンパイア族である僕はいきなり浴びせられた太陽に目が眩むも、直ぐにそんなものとは日にならない光へと目を奪われた。


「おはよう空」


 青空が嫉妬するような笑顔が出迎えてくれる。


 そこには触ってしまうと消えてしまいそうなほど綺麗で、氷のような蒼色のミディアムヘアーをくるくる弄るとんでもねー美少女がいた。


「おはよう冷華れいか。今日もかわいいね」


「…………ええ、ありがとう。さ、早く学校に行きましょ」


 彼女の名前は雪月冷華。


 先ほど話しためちゃんこプリティーな幼馴染である。


 まさか全部嘘だと思ってた?


 幸運ながら本当にいるんだよなぁ〜これが。


 まぁそれはさておき


「さっきからどしたの?」


「少し気になって……。なんで目元が赤いの?」


 今朝の記憶が蘇る。


 力を振り絞り、床が汚れないようにした戦士。


 だが結局、母さんの無慈悲に捨てられてしまった悲しき最期。


 またしても目頭が熱くなってしまう。


「ふっ、偉人ってのは偉業を成し遂げたとしても、時には迫害されてしまうことに涙を禁じ得なかったんだ」


「なにバカなこと言ってるの?どうせ食パン落としたとか大したことない理由なんでしょ」


「ど、どうしてそれを!!」


 なぜ知ってるんだ!!


 隠しカメラか?


 な、なななんてことだ!!僕だって冷華の家にカメラを置きたいのに!!ずるいぞ!!


 なら僕も早速冷華の家に


「そんなことしたら普通に殺すから」


「しゅみません」


 どういう事だ?


 なんで冷華は僕の考えが分かる?


「顔に出ているからよ」


 なるほど。


 長年(5秒)の謎が解けたぞ。


 そんなたわいもない話をしていると、いつの間にやら学校の近くに来ていた。


 すると


「お、おはよう雪月さん」


 一人の男子生徒が彼女に話しかけてきた。


「・・・」


「あ、あのー雪月さん?」


 彼女は男子生徒を無視して歩き続ける。


 そんな彼女の態度に流石に腹が立ったのか


「無視することはないだろ!!失礼と思わないのか!!」


 男子生徒の大きな声により、周りがこちらに注目が集まる。


 なんかヤバそうな奴に絡まれちゃったなぁ〜。


 ん?


 待てよ?


「……ハッ!!」


 もしやこれは……絶好の場面なのでは!?


 このタイミングで助けにに入ったら、僕超カッコよくね!!


 IQ53万と砂糖で構成された脳が導き出した答えに頷きながら、僕は勇気ある一歩踏み出


「失礼?私の記憶が正しければ私はあなたと話した記憶がないわ。あなたが一方的に話し掛けて来たことはあったけれど、あれは会話と言わないわ。それに、私は今彼と話していたの。そんな中、急に割り込んで話しかけてくる知人とすら呼べない男。さらに大声を出して周りに迷惑までかけるような人に対して返事をする義理はないわ。本当に常識のない男ね、気持ち悪い」


 珍しく声を大きめに喋った冷華。


 その言葉を聞いた人々は男に向かって奇異的な目を向け始める。


 男子生徒は顔を赤くして何か言いかけたが、結局言葉に詰まり逃げ出した。


 僕は初めの一歩も踏み出せなかったが、周りの人も歩き出さずにヒソヒソと喋り始めた。


「さすが『氷の女王』」


「可愛い顔して言うことえげつないよな」


「踏まれたい」


 彼女こと雪月冷華はそのクールな言動から『氷の女王』と呼ばれている。一見畏怖の目で見られてそうだが、実際は可愛い顔とのギャップにより多くのファンが存在し、ファンクラブまでできているそうだ。ちなみに僕は会員番号0001である。


「もう少し優しく言ったら?」


「嫌よ。下手に良く見せると言い寄ってくる人が多いの。希望を持たせない方が彼らのためよ」


 逆効果の人も結構いるんだけどね。


「それに、私は好きじゃない人とは話してたくないの」


 ふーん


「じゃあ僕と話してくれるのは僕のことが好きってこと?(ニヤニヤ)」


 少し軽口を言ってみると


「へ?」


 彼女の顔が急激に赤くなる


「え?あ?その……例外もあるんじゃないかしら?」


 何故疑問系なのか。


 冗談だったのだが、まぁ嫌われてはないだけ御の字だ。


 てかこれワンチャン好かれてね?


 え?


 結婚でもする?


 そんなありえない想像をしていると、前方から人影が歩み寄ってくる。


「やぁ、冷華ちゃん。空君。おはよう」


「「おはようございます」」


 彼はサッカー部キャプテンでありながら生徒会長も務める旬先輩。


 イケメンで運動神経抜群であり、学力も常にTOP。


 ファンクラブまでできているそうだ。ちなみに僕はレジスタンスの会員番号0001である。


「何やら周りが騒がしいけど何かあったのかい?」


不躾ぶしつけな男子生徒が急に話しかけてきたので、追い払った結果こうなりました」


「ええ!?また随分と……待って、それだと僕も怒られちゃうのかい?」


「先輩は別に大丈夫ですよ?普段からよくお世話になっていますし、先輩を無下にしたら私の方が怒られてしまいます」


「ははは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


「当たり前じゃないですか。先輩のことは信頼してます」


 普段は無愛想な彼女の顔が「ふわっ」と微笑みかけるように緩む。


 ズキッ


 そんな音が聞こえた気がした。


「空君、急に『ズキッ』なんて言ってどうしたんだい?」


「いえ、何でもないです」


 まぁ自惚れが解けるなんて一瞬だ。


 それにしても、冷華と先輩が話しているの見るとどうしてこんなに心がモヤモヤするんだろう。


 そんな疑問は晴れないまま旬先輩も混じり、3人で学校へと向かう。


 暫く軽い雑談を交わし


「それじゃあまたね」


 先輩の教室は別なので途中で別れる結果となった。


 ふむ……これは


「何だか雰囲気がずシリアス寄りだったし、そろそろネタを挟むべきかな?」


「急に何言ってるの?あなたは常にふざけているのだから大丈夫でしょ」


「何を言ってるんだ!!僕はいつだって本気で生きてる。ふざけたことなんて一度もないよ!!」


 全く。なんて失礼なんだ。


「・・・」


 肩を殴られた。


 グーで。


 咄嗟にパーを出したら二発目がブローに打ち込まれた。


 強烈なパンチで腹を抱える僕と、その様子を見て笑う冷華。


 こうしてふざけ直しても、胸の中には鋭い針が刺さったままだった。

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ハーレムになりたい男VSハーレムになりたくない女 @NEET0Tk

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