ブリューゲル

@ennpute

第1話

昔々、天には神様、地には人々がおりました

あるとき人々は天の神様に近づこうと高い高い塔を作ろうとしました

しかし神様はたいへんお怒りになり、塔を打ち壊し、それでも怒りを収められず、人々が同じ言葉、同じ姿をしているからだと、それらもバラバラにしてしまい、かくて世界と人々も散り散りになってしまいました。

…本当に?


「オきて」

目覚めよと呼ぶ声に目を開ければ白い壁

とりあえずもう少し寝ようと閉じると

「マっておきておきて」

しようがなく起きる、眼前には白い1メートル4方の人の手ではありえない均一な立方体、こちらに面している面に赤い光が喋りに呼応して点滅している、横を向くと空には夕暮れのような薄暗い天、大地には赤茶けた何もない荒野が広がっている

自分の体を見る白いワンピースに素手と素足、特に怪我もなく動く

「コんにちわ?おはようこざいます?」

答えようと口を開くものの音は出ない

「シゃべれないのかい?」

首をちょっと傾げて横に振る

「ナまえはいえるかい?」

首を振る

「、、、ソう、じゃあぼくのなまえをはんぶんあけよう、えっとぼくはゾロ、きみはピンだよ」

うなずく

「ボくはあそこまでかなくちゃいけないんだ、きみもくるかい?」

立方体が器用にこちらの後ろを指し示す

振り返ればそこに昏いまま翳る空の下、荒野を割いて一条の白いものが天まで伸びて在る

見惚れるのはちょっと、あとは誘蛾のように歩き出す

その後をゾロも転がりながらついて行く


塔は山のごとく視界のいっぱい広がり、ゾロと同質な白いブロックで積み重ねているものの、所々抜け落ち黒い闇が覗いている

目前には一際大きな穴があり、縁のかけ具合と相まって生き物の口のよう

足先を伸ばしちょっとだけ踏み入れてみるも、特に変化はない

「サあいくよ」

コロコロと闇の中に消えてゆくゾロに、小走りについて行く


暗闇のむこうに白い明かり、広い空間が広がっている

40メートルくらいの正方形の部屋で白い壁と天井が広がっているが、床だけ所々抜け落ち、昏い闇にブロックが浮いている。

それには一つ一つに文字が刻まれ連なっている。

【ツウロツ ロツウロ】

見渡すと部屋の反対側の壁に穴が空いており階段が見える

あそこまで行けば上に登れそうであるが、そこまでの道は途中でとぎれている

そっとブロックの上にのると少し沈むものの歩くことができそうである

ゾロも一緒に乗ると大きく沈んだので、あわてて後ろに下がる

1人で道の途切れたところまで行く。自分だけならジャンプして行けるかもしれないが、後ろのゾロを見る

「オいてかないでー、つれていってくださいー。あ、そうだそこのあまってるブロックでとおれるようにならない?」

通路の脇にあるブロックを持ち上げる、一抱えはあるけれど軽々と持てる

途切れ部分に置き【ツウロツウロツウロ】にする

文字が青く光りつなぎめが消える

「コれならとおれそうだね、さあいこう」

床を歩く音は微かに響く、他の音は聞こえない

階段を登ればまた同じような部屋、しかし今度は出口が上にあり、

そこまでゆくにはブロックが途中までしかない

[ シラハシラハシラ】

「ウえにつめばのぼれそうだね」

ゾロは簡単にいうけれど上の方まで直接は届かないので、届く範囲から積んて行くしかなく、前より大変であった

ちょっと見てるだけのゾロを投げてみるとヒやーと飛んで転がるのにくすりと笑う

ようやく上まで届き、【ハシラハシラハシラ】となるとピタリと固定される

登って、そういえばゾロはどうするのかと下をみれば

ペタリペタリと壁に張り付いて転がりながら登ってくる、器用というかどうなっているのか


そうして次々と部屋を抜け塔を上がってゆく

縦だったり横だったり、組み合わせだったり、作りかけの文字を埋めたり、別の文字を作ったり、動いていたり、合うブロックがない時はゾロを無理矢理はめ込んでみたり

文字を作るとそれを表す映像が浮かんで消えてたり、【オンガク】を作ればBGMが流れるようになったり、【イロ】を作れば壁にに色がついたりした。


そうして順調に進んてゆくと、それは現れた

 【セナカ】

【カンキリ】

 【ソウジキ】

 【ウシ】

意図せず偶然並んだ文字【センソウ】がいつもと違う赤く光り、ブロックが変化する

のっぺりしたシルエットで形成されたものは大砲であった

砲塔を首の如くこちらに向けると砲弾がこちらの真横に落ち爆風に吹き飛ばされる。慌ててブロックの影に隠れ、アレは何なのかとゾロを見る

「アレはよくないもじだね、なにかはんたいのものはないかい」

攻撃を躱しつつ、【ヘイワ】を作ると無数の枝を咥えた鳩があらわれ、【センソウ】とぶつかると消える

あんなのもあるのか


よくない文字はそれ以降も現れた、蛇や虫や獣や無機物やら、大きなものから小さく、一匹から何匹も、【キョウリュウ】が出現したときはどうしたものか頭を抱えたものであった

それらを逃げたり隠れたりぶつけたり、やりすごし進んでゆく


あるとき、【エレベーター】を作ると、階段の横にドアが現れる

「エレベーターだね、一階にもどれるよ」

地上に戻ると風景は一変していた。

空は明るくなり、荒野だった場所にりはさまざまなものが再現されていた、植物や建物から物品はては動物まで、それらはめいめいに動いたり触ることができた。服類はサイズはぴったりで着替えることすらできた。けれど帽子を被ろうとしてなにかにひっかかる、鏡もありそこで初めて自分の頭に電極端子のような金属板が生えていることに気づく。

ふと自分が何であるのか考える、が答えはでない

塔を見上げる、神様に訊ねれば答えるだろうか


塔を再び登ってゆく、進みながら、世界はどうしてこうなったのか?昔は沢山のものがあったのに消えて、あるいは神様が消してしまったのだろうか

なぜ元に戻すのか、本当に戻しているのか

ゾロは色々喋ったり解説してしてくれる、彼?は喋れるけどこちらは言葉がでない


もう何階登ったのだろうか、階数の表示はエレベーターにもない

ただひたすらにブロックを組み合わせるなか偶然に【ニンゲン】が赤く光る

物陰に隠れて様子を伺う、

そこに現れたのは自分に似た背格好の人影、顔はモザイクがかってわからない

ただ頭に端子はない

攻撃をする様子もなく、こちらを見つめているようにみえる

じっとしててもなにもおきないので、近づいてみる、映像のみである

と、出口を指し示す。進めということだろうか

出口で振り返ると消えていた

あれはなんだったのだろう?


次の部屋は特別だった。壁や天井や床には星が浮かび一筋の道だけが伸びその終点、部屋の中心にゾロと同じ立方体、ただし真っ黒でコマのように回転している

ゾロが向かい合うと互いに激しく点滅し収まる

「お疲れ様です、現在情報修復率は1978/250000です」

色々聞こうとして口をパクパクさせる

「機能障害ですか?モジュールチェックおよび補修をおこないます、しばらくお待ち下さい。エラー、音声機能復旧できません。代用に表示ディスプレイを設置します」

赤いコードを頭の端子につなげ、両手を胸の前に持つように構えると光でできたフリップに現れた文字が表示される

【、、、ハイテクなんだかアナログなんだか。あなたが神様なの?】

「いいえこの塔の管理システム、バベルです。私は人間に作られました

【あなたが世界を壊してしまったの?】

「いいえ世界を壊してしまったのは人間です」

【どうして?】

「確たる原因は不明です、かつて人々は力を合わせ多くのものを作りだし、海に地には更には空まで繁栄しました。しかし増えすぎた彼等は自らバラバラになり相争い、まとまる努力もありましたが、、、結果、現在この惑星上で生存している人間は観測されません。この塔は情報保存管理システムです、大半が散逸し残存情報も破損が酷く復旧作業中です。」

「アーぼくたちさぎよういんだったのかな、そういえばそんなきがしてきた。まだなにかあったようなきもするけど」

【これからどうしようか?】


それから塔を駆け回り、文字を修復してゆく。塔は入る度に配置が変わりややこしい

バベルの塔の【カイガ】の前を歩く

【これは全部人間が残したものなんだね】

「そうだね」

【私達を作ったのも人間なら神様は人間になるの?】

「ニんげんをつくったなにかもいるかもねー」

ある時【ウチュウセン】の文字を作ると塔に匹敵する巨大な映像が浮かぶ

「コれは、そらのむこうにいくためののりものみたいだね」

【空の向こうには、、、人間はいるのかな?】


バベルに訊ねる

「拡張領域へのアクセスは人間の許可が必要です。加えて宇宙船の整備、推進剤が不足しています」

【空の向こうに人間はいるの?】

「不明です、ですが行った記録は残っています」

【ん?そういえば地上に人間はいないて言ってなかった?】

「現在生存している人間は観測されません」

【、、、人間に会いに行くのに人間が必要、、、、、どうしろと?

あ、前にニンゲンの文字から出てきたのはなんなの?】

「あれは欠損があります、まだ人間ではありません」

欠損を埋めればいいのだろうか?


再びニンゲンに会う。前と変わらずそこに佇んでいるだけ、私が触れようとしてもすり抜ける

「ナにこれへんなの、あるのににないだなんて」

と、ゾロが影に触るとスルリと溶け込み、文字の出現のように光る

白いブロックが消え、人影が実体化して残る

「あらら、なんだいこりゃ、でもおもしろいや」

2人だと協力することが可能になり、力を合わせたり、別行動ができ複雑な文字も作れるようになった


【シャシン】の文字を作ると、そこには麦わら帽子、青いドレス、赤い靴、向日葵を抱えた少女の姿

「マねをしてみればなにかわかるかも」

写真の物品の文字を探し出し装備させる、ほとんど同じになったけれど、顔はまだモザイクがかっている

まだなにか足りないようだ

あーでもないこーでもないと悩んでいると

「そもそもかのじょのなまえもしらないけど、だれなの?」

【名前ねぇ、自分の持ち物に書いたりするけど】

よく持ち物を見ると、向日葵の花束の中にメッセージカード

親愛なるひまりへ


【ヒマリ】の文字の上に2人で立つ。視界が歪みまっくらになり、目を開けると、電極端子が音を立てて床を跳ねるのが見えた

そして私だけがそこに残り、声がでるようになっていた


バベルの所まで行き、言葉で問いかける

「あなたは人間です、あなたはバラバラになって存在していました、全ての欠片を揃えてようやく人間に戻りました。命令をどうぞ」

「ロケットをつくって」

「可能です。しかしリソース不足の為、塔及び全ての保持情報を消費破棄することになりますがよろしいですか?」

このままここで暮らすか今までの全てを擲って未知に挑むか


塔そのものが多段式ロケットに改修され、

発射されるとき、アラートが鳴り響き照明が赤にかわる

「なに?」

「点火システムに不具合がはっせいしました。手動で点火をお願いします」

「えーとつまり」

「下段から切り離されていくロケット点火を手動でおこなわなければいけません」

「もしタイミングをまちがえたら?」

「切り離されるロケットと共に燃え尽きます」

「なんでーーーー、安全配慮はどうなってるの?集中点火プラグとかないの?」

「申し訳ありません、限界までタイトな設計となっておりますので、そのような余剰は作れませんでした」


燃え盛るロケット化した塔を最速全力全開で駆け抜け、最上階へ

今まで作った文字が崩れる。ゾロと見た絵画も炎に焼かれる。

再現された物達が光の飲まれる。

今までの全てを焼きつぶして、思い出だけ持って、何の保証もない未知へとゆく

そして空の向こうへ


おわり












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