第16話 氷と雪は同じくらい冷たかった
照明の動作が終わり舞台に白桜さんが帰ってきた。
彼は辺りを見回して言った。
『なあ、雄大はどこに行ったんだよ。2人で氷の作業してたのになんでいないんだよ。秋、何か知らないか?』
秋は口を開いて言った。
『雄大さんは礼夢さんが連れて行ってしまいました』
白桜さんはすぐ戻ると言って、舞台を後にした。
その間に秋は氷を手袋をつけて運んでいた。秋はあることを思い出していた。
秋がまだ転生してくる前の現世で小さい頃に雪を見て手袋をつけて、遊んでいた時に家の中ではよく怒鳴り声が響いていた。
母と父は秋が作った雪だるまに目もくれず、2人はいがみ合っていた。
父は母にお皿を投げつけて、母は倒れ込み頭から血を流していた。
僕は父の前で母に大丈夫?と声をかけようとしたら、父は決まって言うんだ。
『お前はこんな母親の味方か。こいつは俺のいないところで若い男と会っていたんだぞ。それでも、味方するのか』
母親は秋に話すのはやめてと言ったが、父は僕の前で母がその男と不倫をしていたこと永遠と話をした。
僕はその時確か6歳ぐらいだった。
『不倫』という言葉が分からず、よなよな真夜中にその言葉を調べた。
父の言っている意味がやっと理解できた。
でも、父の味方にはなれなかった。
母は僕にとってとっても大切な人だったから。
母がやってはいけない行為をしたといっても僕にとってはただ1人の家族だから、母を嫌いにはなれなかった。
雪は日が当たると溶けてしまうように、母と父との関係も溶かしてしまったのかなと思った。
だから、今でも雪の日は母と父の喧嘩を思い出す。
でも、あの世には春夏秋冬が存在しないと思うと、僕はとても嬉しく思う。
あの日をあの時のことを思い出さないで居られることがとても僕にとって都合が良かった。
そんなことを考えていたら、白桜さんが帰ってきて言った。
『そろそろ昼休みにしよう。氷は魔法で固めておくから。そういえば、どうしたの?ぼーっとして何か思い出した?』
僕は白桜さんを見て言った。
『昔のことです。昔、雪が降っていた頃に僕の父と母は喧嘩をしていて、僕は雪で遊んでいました。父は母にお皿を投げつけて母の頭には皿が当たって血が出ていました。僕は母を守ろうとしました。でも、父は今度は僕に母の悪い部分を話しました。僕は幼かったけど、母のした行為は許せることではありませんでしたが、母を嫌いにはなれませんでした。あの世には雪はありませんが、氷の冷たさであの時のことを思い出してしまいました。すごく寂しかったなって事も思い出したんです』
白桜さんは後ろから秋の背中をぎゅっと抱きしめて言った。
『あの世に来て良かったと私は君を思わせたいよ。そのために少しずつでいいから、君のいた現世のことを教えてくれるかな。苦しかったこと、楽しかったことなんでもね。そしたら、多分もっと君は強くなれるよ』
秋は白桜さんに、はい。と言い一緒に昼ごはんを食べに行った。
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