第15話 見習い雄大にだって事情はある
今日の夜のイベントのために準備をしていた。
今日は大量の氷が必要だった。
その氷を魔法で浮かせて、水にするそして雨となりかっぱ人の前に降って来る、それがメインのイベントだった。
このイベントをするのは白桜さんだった。
白桜さんは照明の動きを確認するために少し舞台から離れた。
舞台には秋と同じ見習いの雄大が氷の準備をしていた。
秋は手袋をはめて氷をひとつずつ運んでいた。
そんな秋の様子を見ながら秋の背中に向けて雄大は声を掛けた。
『あのさ、秋くんだよね。俺、雄大。なんでさ、君は入団出来たの?ここに入るの難しいんだよ』
秋は背中で返事をして、雄大を見ずに氷を運びながら話した。
『雄大くん、ふーん。なんでここに入れたのかは正直分からない。団長に聞いてみたら良いじゃん』
雄大は自分を見ない秋に心底腹が立った。
白桜さんについてるただの金魚のふんがどうしてこんなにも俺を無視しているようで、本当にイライラした。
秋は雄大のことを知っていた。
白桜さんから雄大のことを聞いたからだった。
白桜さんが言うには、雄大はものすごく劣等感が強いらしい。
彼は転生前にヤングケアラーだったらしい。ヤングケアラーのことは、ニュースで取り上げられていたから意味は知っていた。
彼はもう家族を介護したくなくて噂の電話ボックスを通じて昔好きだったおばあちゃんと繋がって転生してきたらしい。
その後、転生して来て1年後に介護をしていた母が自殺したそうだ。
母にあの世で会うのは気が引けて結局会わず、あの世橋で歩いていたところこのサーカス団の入団試験を目にして自分を変えたいと思い、入ったらしい。
彼は自分がしたいことが今まで出来ないままだったから劣等感が強いみたいだから、秋みたいな小さい子が雄大と年の離れた子から優しさをもらうとものすごく雄大はイライラするかも知れないから、話す時は素っ気なく話した方がいいよと白桜さんからアドバイスされていた。
だから、秋は素っ気なく雄大に話していた。
だけど、どう話しても雄大は秋に対してものすごくイライラしているようだった。
秋はこの殺気を背中で感じながらも黙々と氷を運んだ。
そんな時、礼夢(れいむ)が来た。
礼夢は後ろから秋に抱きつき言った。
『この辺、ピリピリしてるよ。雄大、もっと秋に優しくしなよー。秋くん、本当は秋くんとバディになりたかったな。そしたらこのプニプニした頬っぺたを毎日触れたのにな。あっ、雄大もう行こう、次の作業があるから』
礼夢は無理矢理ぎゅっと雄大の手を引き、舞台から上手へ行った。
礼夢は秋に手を振って、雄大に無理矢理お辞儀をさせて、出て行った。
するとピリピリしていた空気が一瞬にして変わった。
礼夢さん、変わった人だなと秋は思い、手を止めていた氷を運ぶ作業をまた始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます