第2章 仮面サーカス団への入団
第9話 最初の手伝いは失敗に終わった
玉田は秋に手招きして、サーカス団の中へと案内した。
するとさっき仮面を被り、魔法を唱えていた髪の長い長身の男が挨拶した。
『私は白桜(はくおう)と言う。これからよろしくね』
玉田はそんな挨拶をする白桜にしっしっと邪険にした。
玉田は白桜に言った。
『こんな小さい子に優しさという武器を使うな。もうあっちに行け』
白桜はチッと舌打ちして出て行った。
それを玉田は見て、僕の方を見て言った。
『あいつは人たらしでかまってちゃんなんだ。噂話も不幸な話も大好きで、きっと君の家族の関係性もきっと大好きだと思う。だけど、覚えていてほしい。優しさというのは紙一重だってことをね。ここにいる団員たちはみんなそれなりに傷を抱えている。でも、強くなってやるという気持ちがある人が多いからこのサーカス団は周りから一目置かれているんだ。だから、君も強くなれ』
秋ははい。と大きな声で言った。
玉田は倉庫から仮面を取り出して秋に渡して言った。
『これは、魔法が入っていないただの仮面だ。今日は三途の川橋でやる最後の公演だ。君も見習いとして、白桜の手伝いをして欲しい。これは仮面サーカス団としての決まりだから、一応仮面を被ってくれ。よろしく頼むよ。もうすぐ公演が始まる。最初は白桜だから、さあ行くんだ』
そう言って、玉田は秋を送り出した。
秋は仮面を被り、舞台の上手側にいる白桜さんの隣に立った。
白桜さんは僕を見て言った。
『頼むから変な真似はしないでくれよ。臨機応変に動いてくれないとこっちも困るから。さあ、舞台に行くぞ』
舞台に上がる白桜さんは、まるで魔法使いみたいだった。
僕がする役割は一つだけ。
魔法に使うステッキを渡すだけだった。
白桜さんはお客さんに素敵な星空を見せている時に、そっとステッキを渡すはずが僕は床で転んで音を立てた。
するとお客さんは白桜さんの素敵な星空から僕を見て笑った。
白桜さんは小さな声で仮面越しに『使えないな』と言うのが聞こえた。
床に落ちたステッキを白桜さんは拾い言った。
『私の助手は少しおっちょこちょいなんですよ。さあ、続きを始めましょうか』
床に倒れていた秋を白桜はゴミを見る目で言った。
『もういいよ。あとは私がなんとかするから、神聖な舞台にもう踏み込まないで。どっかで休んでな』
秋は小さな声でハイと言い、舞台から姿を消した。
秋は仮面を被ったまま泣いた。
あの時、ちゃんと渡せていたら舞台で笑われることもなかったのに。
白桜さんのことを優しくて良い人だって思ってたのに、言われた言葉は僕を傷つけるような言葉ばかりで、本当に優しさって紙一重だなと感じたのだった。
僕がもっとちゃんとしていれば臨機応変に出来ていたら、こんなに泣くこともなかったのにと自分を恨んだのだった。
これが仮面サーカス団の洗礼だと僕は思った。
僕が強くならなきゃこのままじゃダメだとさえ思った。
白桜さんの舞台が終わり、控え室で休んでいると秋が訪ねてきた。
白桜は扉を開けて秋を出迎えた。
秋は白桜に言った。
『今日はすいませんでした。僕明日からもっと頑張ります』
白桜は秋に向かって待っていたパンをぶん投げて言った。
『1日1日が勝負なのに明日なんてない。今日でここを去るのに、一つの失敗を明日取り返すなんて無理だ。やるならちゃんとやれよ。君みたいな小さな子に出来ることだと思って任したのにそれさえできないなら、もう舞台からもこのサーカス団からも消えろ。お母さんのもとで暮らせばいいだろ。』
秋は落ちていたパンを白桜の顔めがけて投げて言った。
『僕はここで頑張ります。母のもとへはもう戻れないんです。僕は確かに周りに比べたら劣ってると思います。でも、僕が小さいから任せたとか同情心なんて入りません。今度は絶対上手くやります。だから、もう母のこととか家族のことを言わないでください』
白桜はごめん、言いすぎたと言い謝り言った。
『お前には嫌なこと言ってごめん。次はよろしく頼むよ』
そう言って彼らは和解して、2人で綺麗なパンを分けて食べた。
そんな様子を玉田はじっと観察していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます