第3話 僕が行方不明になった日
電話ボックスには古い電話帳と飲みかけの炭酸水の泡が抜け切ったものが残されていた。
酷く汚くて掃除もされていない、ここだけ世界が違うのだろうとさえ思えた。
僕は藤堂にやめた方がいいと言われたが、好奇心が勝ち、お金を入れて194と押し、受話器を取った。
電話はかかり、母の声を聞くことができるのかもと期待感があったが、出たのは見知らぬ男の人だった。
彼は言った。
『もしもしあの世相談の空我ですが、どのようなご用件でしょうか?』
僕は驚きつつも追加の10円玉を入れながら答えた。
『あの、亡くなった母に会いたくて電話したのですが』
すると、彼は言った。
『山藤秋様ですね。お待ちしておりました。あなた宛にメールがあるので読ませていただきます。『秋へ、母です。あの世は素晴らしいほど四季がありません。だから、今がいつなのかは分かりません。私はあなたに謝らなければいけません。私はあなたの父に殺される前にある人と浮気をしてしまいました。あなたにはとても悪いことをしたと思っています。こんな私に会いたいと思うのなら会いに来てください。後のことは空我さんに頼んであります。それではあの世で会いましょう』終わりです。もし...会いたいなら今から手配しますがどうしますか』
僕は電話口で藤堂に見えないように静かに涙をこぼした。
そして、彼に言った。
『お願いします。母に会わせてください』
すると彼は電話口で書類に何かを書き殴る音をたてながら言った。
『では、これからあなたは魂になり、人から離れます。人はこちらで瞬時に回収します。そのためにあなたの前にある炭酸が抜けた炭酸水をひと口飲んでください。心配しないでください。その炭酸は今まで、ここに来た人みんな飲んでいますし、新品の炭酸が抜けた炭酸水ですから』
そんなこといっても信じられなかったが、もうすぐお金もつきそうだし、信じるしかなかった。
僕は言われるがままにひと口飲んだ。
すると、僕が消えたのか。
電話ボックスが消えたのか分からなかったが、明らかに手が透けていた。
藤堂に声をかけるまもなく僕はこの世から消えてしまった。
藤堂は電話ボックスにいる僕に背を向けて飴を舐めていた。
電話ボックスから受話器が外れる音がしたため、電話ボックスを見ると山藤が消えているのに驚き、電話ボックスの中を探すがどこにも彼はいなかった。
藤堂は大急ぎで、山藤の家に行き丁度帰って来た山藤の父親に伝えた。
彼の父親に亡くなった母親に会いに行ったんだと思いますと告げると彼の父親は酷く怒った。
山藤の父親は彼が行った場所をひとつひとつ確かめて、警察にも捜索願を出した。
テレビでも山藤秋が行方不明になったことが報道された。
だが、どこを探しても彼は見つからなかった。
山藤の父親は最後に会った藤堂優太くんに話を聞いた。
すると、電話ボックスの噂を聞き、山藤の父親は自分でも電話をしてみたが繋がらなかった。
山藤の父親は酷く落ち込み、食も進まなかった。
再婚相手は夫を慰め、きっとその辺で遊んでるだけだと言った。
その言葉に彼は怒り、お前は今まであいつの何を見てきたんだと叱責した。
山藤秋の父親にとって、彼は大切な息子ではなく物だったのだ。
1人で息子を育てているその称号が欲しくて、親権も取り、かわいい妻も手に入れた。
だが、息子がいなくなった今残されたのは子供がいなくなった可哀想な親ということだけだった。
数年経っても山藤秋が戻ってくることはなかった。
周りは電話ボックスの神隠しと言った。
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