栗拾いデスマッチを幽霊と
秋雨千尋
栗拾いは愛のために
高校教師の
霊はボコボコに殴られたような顔をしている。
「現世に恨みを持つ者か?」
霊は首を振り、条架に詰め寄って手を握った。
瞳をうるませながら告げる。
「陰陽師の方、どうか力をお貸しください」
条架は今年で28だが身長は160センチそこそこ。見下ろされながら話されてちょっとムッとした。
だが美人だったので許した。
「俺は見習いだが、やれる事はやろう」
「ありがとうございます。今から栗拾いデスマッチに一緒に参加してください」
「なんだその物騒な競技は」
「このあたりの霊たちが集まって、主催者のポルターガイストで縦横無尽に飛びまくる栗を拾い集めるのです」
「霊だから当然、痛くもかゆくも──」
「あるのです。主催者は強力な地縛霊。栗に尋常ではない霊力を込めているのです」
霊の体がボコボコなのは練習したからだそうだ。
条架は密かな企みの元に、ジャージに着替えていそいそと現場に向かった。
栗拾いデスマッチ会場は大盛況。
参加者は30人ほど。みんな殺気立っている。
「なあ、これ優勝賞品なんなんだ?」
「《声》です」
「声?」
「私のような低級霊でも、生きている者に声を届ける事が出来るのです」
条架は首をかしげながらも、呪文を唱えて彼女の体にバリアを張る。自分の体にも同じように張り、準備万端。
栗拾いスタート!
主催者の恨みつらみがこもった栗が霊たちを次々とぶちのめしていく。
条架チームは体に当たって落ちた栗をせっせと集めるが、掃除機を改良した武器を持ち込んだ霊が優勢だ。どんどん吸い込まれていく。
「君は拾い続けろ。俺が何とかする」
条架は素早く近付き、中身がカラの栗に式神を入れて吸い込ませた。そして中から爆発させた。
元清掃員の霊は吹き飛んでいった。
条架が戻ると、彼女の栗を横取りしようとしている元愛人業の霊がいた。セクシーなバスローブ姿にドキドキしつつも割って入り、成仏させた。
しかしこれは目立ってしまった。
陰陽師がいるぞ、と会場がざわめいたので、条架は自分の栗を彼女に渡して素早く退散する。
離れた場所で様子を占っていたが、どうやら無事に優勝出来たようだ。
ふわふわとやって来た彼女から深い感謝を受けた。
「声を手に入れてどうするんだ」
「今日は特別な日なんです」
朝になり、彼女と共に着いたのは小学校だった。
カラフルな国旗が飾り付けられて、陽気な音楽が流れている。
彼女は赤い体操帽を被った少年を見つめる。
暗い顔をしながらも、一生懸命にラジオ体操を行い、障害物競走をして、応援をして、ダンスを踊り、まり入れをしている。
彼女はずっと応援しているが、騒ぎが大きくて届かない様子だ。
最後のクラス別対抗リレーが始まった。
少年は最後から二番目。真剣な表情で走るが、つまずいてしまった。
彼女がグラウンドまで飛んでいく。
「立って、たけし!」
これはハッキリ聞こえたらしい。
少年は声のした方を見て、目をうるませて立ち上がり、走り出した。ビリになってしまったが、なんとかアンカーに繋げた。
条架はアンカーに向けてとんでもない追い風を与えた。彼はビュンビュンと飛ぶように追い抜いていき、ついには優勝してしまった。
少年のクラスはお祭り騒ぎ。
途中に転倒があったことなど忘れてアンカーの爆走を褒め讃えた。
彼女はすっと観客席に向かい、歳をとった女性と若い男に何か囁いている。
条架が尋ねると困ったように笑った。
「母には、感謝と謝罪を。夫には、愛している事と、たけしを大切にしてくれる方なら再婚してもいいと伝えてきたの」
条架は黙り込んだ。
陰陽師・条架家の者が一人前になるには「愛し合う存在」が必要だ。
初恋もまだの条架は、彼女に恩を売って愛を得ようとしたのだが、どうにもそんな隙間は無いらしい。
少しガッカリして。
幸せそうな彼女の笑顔に、つられて笑った。
「はあ、いつか会えるだろうか……特別な誰かに」
見上げた空はどこまでも真っ青で、気晴らしにちょっと空でも飛んでみようかという気持ちにさせた。
終わり。
栗拾いデスマッチを幽霊と 秋雨千尋 @akisamechihiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます