25-5 手紙




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 拝啓

 親愛なる 上杉令也さま


 卒業の日となりました。

 時が経つのは早いと、

 身にしみて感じております。

 二年生がいちばん早かった、

 いや長く感じた。

 どちらでしょう? 

 両方ですね。


 わたしがはじめて、

 上杉くんのことを知ったのは、

 一年生の最初の日、入学式です。

 新入生代表の、

「宣誓」をしたのをおぼえていますよね? 

 あなたは素晴らしい「宣誓」をしました。

 きっとこの人は頭も良くて、

 行動力もある人なんだなあと。

 なんとなく気になりました。


 上杉くんは一年A組、

 わたしはとなりの、B組だったのです。

 選択科目がおんなじだったので、

 特別教室でいっしょに授業を受けていました。

(あなたはわたしの存在など、

 知らなかったでしょうけど)


 一年生のときから、

 成績はいつもあなたが1位でしたね。

 職員室に貼られるテストの順位表を、

 毎回チェックしていました。

 わたしは数学だけは得意です。

 だから、わたしが1位になり、

『上杉令也』の上に『今井雪』の名前がくれば、

 わたしの存在に気づいてくれるかも。

 と作戦をたてました。

 それを目標に数学だけは勉強していたのに、

 一度も勝つことができなかった。

(くやしかったです)


 一年生のころは、

 登校中。廊下。体育館。グラウンド。

 あなたを見つけては遠くからながめてた。

 ちょびっと憧れていました。

 ときめいていました。

 いまにして思えば、

 わたしには、

 それだけで充分だったのです。



 二年生になりました。

 同じクラスになれて超絶よろこんだ。

 超絶うれしかった。

 あなたがもつ冷静で孤高な存在感に、

 どんどん魅了されていました。

 けれど、言葉を交わすこともなく、

 切ない日々でもありました。

 だけど、よかったのです。

 そのままで。

 わたしの片恋のままで。

 自己完結の片恋のままでよかったのです。


 一学期のおわりに、

 文化祭の代表になることが決まった。

 あの日の授業のことは、

 いまでもおぼえています。

 勝手に運命を感じていました。

(神様も少しは良いことをする。と見直した)


 夏休みの会議室、

 いろんなことがありましたね。

 なつかしいです。

 平静をよそおっていたけど、

 いつも心臓がバクバク、

 ドキドキ、いっぱい、いっぱいでした。

(会議室ではすこし、

 はしゃぎすぎてしまった。反省)



 文化祭はやりとげました。

 それからは会話する機会がなくなり、

 さびしかった。

 だけど教室で目が合うと、

 一瞬だけ、ほほ笑んでくれた。

 そのたびに、

 わたしのハートがぴょんと飛びはねてた。

 二人だけのアイコンタクト。

 秘密の儀式のようで、にんまりとしていました。


 その後、下校時に、

 あなたがわたしを、

 待っていることに気づきました。

 わたしは放課後、

 あなたを探しました。

 そして思い切って、

 勇気をだして、

 人生ではじめて、

 自分から男の子に声をかけた。

 緊張のあまり、死にそうでした。

(体育館。なつかしいです)


 あなたとの距離がだんだん近づいてきた。

 並行して、絶えざる不安が、

 わたしの胸を重くしていきました。

 わたしの感情はゆれていたのです。

 なので教室で話すのも、

 休日のお誘いも、お断りしました。

 あなたと、

 適度な距離をたもち続けたかったからです。

(古い表現をすれば、

 友だち以上、恋人未満。かな?)


 けれども、

 自分のうちに渦巻く葛藤に対応できなかった。

 そのせいで、夜、眠れなくなりました。

(成人病のはじまりです)



 図書室での勉強も楽しかった。

 毎日がテストでも良いと思いました。

 メールのやりとりも楽しかった。

 あと、誕生日プレゼント、

 男の子からもらったのは初めて。

 内心は感激していたぞ。

(後生、大切にします)


 自分の誕生日を、素直にお祝いできたのは、

 生まれてはじめてでした。

 とてもうれしかったです。



 翌日のクリスマスイヴ。

 いっぱい笑わせていただき、

 ありがとうございます。

 踊り場の演奏会、とってもステキでした。

 一生忘れません。

(あの時は泣いてしまった。

 うまく理由は言えませんが、うーん。

 現実と虚構の、衝突。みたいなものかな)


 あと、実はあの日は部活をサボり、

 教科書を忘れたフリをしました。

 嘘をついてごめんなさい。

(クリスマスイヴの嘘です)


 ゆっくりと話しをしたかったのです。

 上杉くんとしっかり話しをつけて、

 けじめの日としたかったのです。

 だから、内申同盟の破棄を申し出ました。

(結局のところ、

 うまくいかず、中途半端になってしまった)



 おぼえていますか? 

 帰り道のこと。

 あなたは、

 わたしの手をにぎってくれた。

 うれしかった。

 心からうれしかった。

 ずっとつないでいたいと思った。

 それなのに、わたしは逃げました。

 ずっと逃げ続けました。

 ここで逃げないと、

 あなたを完全に好きになってしまう。

 本当に、

 本当に、

 後もどりできなくなる。

 そう思ったからです。 


 だから、上杉くんのことは、忘れよう、

 完全に忘れなければならないと。

 そう己に、誓いました。


 そのため、わたしは記憶喪失になった。

(記憶喪失のため、

 失礼な対応をしてしまい、ごめんなさい)




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