告白

19-1 告白




 コロン。

 朝早くスマートフォンがなった。

 内申同盟のグループLINEからだ。

 半年ぶりだった。




──────────────────

 



【内申同盟】


 小嶋『明日、終業式がおわったら、

    グラウンドの一本桜で待ちあわせ! 

    2年生のラスト! 

    内申同盟の、緊急議会だぜ!』

 

 上杉『了解』


 今井『了解』



─────────────────




 紺碧な空に木蓮が咲いた。

 真白い花びらは、

 心に堆積した想いを知っているようだった。

 校舎とグラウンドをつなぐ小道には、

 木蓮の木が立ち並んでいる。

 そこを抜けると、

 右手に大きな一本桜があった。

 樹齢50年の立派な桜だ。

 太い幹は恐竜の足みたいに黒光りし、

 梢には爪をおもわせる、蕾をつけている。



 終業式を終え、

 ぼくと小嶋と今井は、桜の下に集った。

 フェンスに寄りかかり、

 グラウンドを見渡した。

 乾いた風が吹き砂埃が上がる。

 ユニフォーム姿の運動部が、

 ボールを追いかけ奔走していた。


 内申同盟の三人で、

 顔を合わせるのは文化祭のとき以来だった。

 ぼくは右、小嶋はまん中、今井は左、

 会議室の席と同じ位置だった。

 ぼくは、今井と目を合わせず、

 きまりの悪い雰囲気だった。

 初めて言葉を交わした時の状況と似ていた。

 夏休み前の授業、その日の放課後に、

 三人だけが教室に取り残された。

 そして、内申同盟を結んだ。

 あの時のことを思いだした。



「2年生、終わっちゃったなー」


 小嶋が足元の土をこすりながら話した。


「ああ、早いな」


「うん」


 リズムよく屈伸をしながら小嶋がきいてきた。


「2人は将来、

 なんか、したいこと決まってんの?」


「小嶋は?」


 右を見て、ぼくは聞き返した。

 風のせいで、

 ブレザーからネクタイがとび出ていた。


「そうだなー、

 おれは元気な嫁さんもらって、

 ガキにかこまれて、料理屋でもするかー」

 

 小嶋らしいなと思った。

 

「上杉ちゃんは?」

 

「決めてないけど。弁護士か、国家公務員かな」

 

 おもいついた選択肢を適当に言った。


「ハッハッハッ、上杉ちゃんらしいな。

 世直ししてくれよ。今井ちゃんは?」


「雲」


 即答だった。

 チラリと今井のほうに目だけやった。

 つんとした顔をして、

 長袖の制服から、手の甲が半分だけでていた。

 そして、今井はしろい顔をあげた。


「わたし……、

 将来なんて。考えたことない」


「そうだよな、おれだって、わかんねーよ。

 まあ、おかげで楽しい2年生だった。

 3年生になっても よろしくな!」


 いつもの陽気さで小嶋はガッツポーズをした。

 

「ああ、頼むよ」

 

「わたしこそ、ありがとうございました」



 カキィ────ン! 

 クリーンヒットの快音がなった。

 バッターが猛スピードで走る。

 ボールがこっちの方へ飛んできて、

 そばのフェンスに当たった。

 小嶋はボールを拾い、それから、

 野球部のユニフォームの円へ混じっていった。












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