4-3 内申同盟の締結
「──我が 守護なる星座 ジェミニよ
神の名のもと──
荒ぶる 冒険者が集い 聖戦に真向かう
天地神明に誓い 血の同盟を交わす時──」
絶句した。
ぼくは、心を奪われてしまった。
今井雪の詠唱。
それは透きとおった美声で、
まるで、白銀の教会で奏でる、
賛美歌のようだった。
彼女の風姿は、
まるで神に帰依する聖女におもえた。
「フフフッ……」
突如、低音の濁った声色が、
ぼくの耳に入り込んだ。
ゾッとするような悪魔的な笑い声。
そのため、ぼくは我を取り戻した。
出所は、もちろん今井の口からだった。
ぼくは、恐る恐る質問した。
「今井、さっきの祈りみたいのは、なんなんだ?」
「我らの、血の契約を、神々に捧げたの」
今井の雰囲気が歴然と変わった。
声のトーンが少し低く、厳しい物言いだ。
横の小嶋は、
目を丸くして石のように固まっている。
この状況に対応できないのだ。
「おおっ! 感じる。魔力が。
おのれらの両眼に、
魔力が、ほとばしっているのが!」
らんらんと目を光らせ、
今井はしゃべりだした。
アニメの声優みたいな口調で。
「知ってた。知ってた。わたしは知っていました」
ぼくは、今井と目を合わせた。
晴れ晴れとした笑顔で、白い歯をこぼしている。
「今井、知っていたとは、どういうことだ?」
ぼくはきいた。
「わたしは今日、
この、内申同盟が結ばれると知ってた」
「えっ、君は事前に先生から、
代表になる三人を教えられたのか?」
彼女を問いただした。
「ちがう!
あなたは消去されたの。消去されたの。
300年前の記憶を、奴らに、暗黒の力によって」
「は? 暗黒の力、なにそれ?」
「暗黒竜王の魔力よ」
今井の口がとまらない。
「いまこそ、我らはパーティーを組み、
暗黒竜王を倒し、世界を平和にせねばならん」
今井は何かのキャラを演じているようだった。
それも冷静で頭脳派のキャラだ。
小嶋がやっとで正気を取り戻し、ぼくの方を見た。
作り笑いで返した。
「いにしえの同盟が、再び締結された。
今生でこそ、
約束を、成就する時がきた」
今井は見たこともない指の形で、
キメポーズをしている。
そこから、
アニメのクールな主人公さながら言った。
「同志たちよ。よ・ろ・し・く……!!」
「……はい」
呆れながらも、
返事をする他なかった。
人を見かけで判断してはいけないと、
ぼくは改めて強く深く痛感した。
今井は神仏を信仰する敬虔な使徒なのか。
いやちがう。
先ほどの言動から察するに、
今井は、中二病だ。
思春期の少年少女が、過度な自己愛をもち、
自分を、
特別で選ばれた存在だと信じ込んでしまう。
今井は、そんな中二病にちがいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます