4-2 内申同盟の締結




「小嶋、今井、

 三人で、同盟を結ばないか?」



「上杉ちゃん、同盟って、なんやそれ?」


 小嶋がぼくを見て、きいてきた。


「課題を円滑に進めるための、

 約束をしようってこと」


 そう答えると、

 小嶋はふんふんと首を縦に振った。

 椅子にゆっくりと腰を下ろした今井、

 その顔色が少し変化していた。



「同盟の内容、教えてください……」


 顔を机に向けたまま、今井が言った。

 だからぼくは、二人にむかって

 同盟の内容を宣言した。



「──我々は、

 生と死の真理を学ぶため、助け合い協力する」



「上杉ちゃん、それ、どういう意味だ?」


 小嶋が首をひねった。


「ようは、自殺管理法について、真剣に考え、

 団結しよう。そんなとこだ」


 簡潔に言い直すと、小嶋は納得した模様。

 今井は熟考している面持ちだった。

 最初よりは、顔つきが若干やわらいだけど、

 まだ、ぼくとは目を合わせない。



「いいじゃん! 同盟、結ぼうぜ。

 今井ちゃんはどうよ?」


 今井は少し顎を上げ、小嶋の方を見た。

 口元に微笑をうかべている。

 OKのサインだろう。

 しかし、まだまだ、ぼくとは目を合わせない。



「よし、決定だぜ!

 同盟の名前はなんにするんだ?」


 小嶋がきくと、すぐさま今井が口をひらいた。



「内申同盟よ。内なるものを申す、同盟……」


 うっすらと笑みをたたえていた。

 あわい花びらのような唇をしていた。

 内申同盟。

 課題を成功させれば内申点が上がるし、

 ぴったりな名称だと、ぼくは思った。


「よし。内申同盟の締結だな」


 言いながらも、ぼくは内心ほっとしていた。

 気がつけば、体が熱くなっている。

 教室はクーラーの余韻が消えていた。

 真夏の暑気が、ガラスを越えて満ちている。

 吹き抜けの中庭から、4階の廊下をつたい、

 ブラスバンド部の金管楽器が聞こえた。


 今井は席を立った。

 それから、かしこまった態度で、

 ぼくと小嶋に質問してきた。


「上杉くん。小嶋くん。

 本気で、わたしと同盟を結ぶのね?」


 ほそい声で深刻さを帯びていた。


「ああ」


 ぼくはうなずく。

 ちらりと彼女と目が合った。ドキッとした。


「わかった、静かにして。詠唱するから」


「詠唱、なにそれ?」


 ぼくはおもわず口をついてでた。


「上杉くん、静粛に……」


 その真剣さに気圧され、ぼくは黙った。

 今井は胸元のスカーフに右手をあて、

 左手を前に差しだした。

 ちいさな、しろい手だった。


「手をかさねて」


 目をとじて、ささやいた。

 まぶたは伏せられ、

 そこには、二重の美麗な曲線が刻まれている。



「おう」


 小嶋は、今井の手に右手をおき、

 ぼくは、小嶋の手に右手を重ねた。

 そして、今井はミステリアスな人相で、

 スウーッと鼻から空気を吸い込み、

 詠唱した。




「──我が 守護なる星座 ジェミニよ


 神の名のもと──


 荒ぶる 冒険者が集い 聖戦に真向かう


 天地神明に誓い 血の同盟を交わす時──」










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