第21話 喫茶店開店!①
「――よし、開店準備オッケーだな」
喫茶店をやろうと言い出してから、二か月弱が過ぎた今日、俺はシックなカウンターキッチンの中から店内を見渡して一つ頷く。
本当に良い店が完成した。
温かみを感じさせるクリーム色の壁に、傾斜が魅力的な赤茶色の瓦屋根。
一階は喫茶店に、二階は住居として利用できる。
セルティエの少し外れにある小高い丘の上――近隣にモンスターが生息しておらず安全で、街から徒歩数分で来れるこの場所にいざ喫茶店を建てようとしたとき、意図せぬ間に伝手が出来ていた。
前領主ガレフに囚われていた女性の一人は実家が建設業を営んでおり、助けてもらったお礼として格安でこの立派な喫茶店を建ててくれたのだ。
それだけではない。
食材も、助けた女性の中に生鮮食品を取り扱っている店を経営している人がいたのだ。
それ以外のものは行商屋から仕入れる手はずになっているが、それもその女性の伝手だ。
そして――――
「お掃除もばっちりですよ」
「サンキュー、エリン」
ふふっ、と笑って頭を傾けるエリン。
エリンを含めた、俺やフウカ、ミズハが着用している制服も、助けた女性の中に仕立て屋がおり、お礼として作ってもらったのだ。
エリンのは白いシャツに緑のベストとリボン。黒いスカートは膝下辺りで揺れており、清潔感バッチリだ。
いつもメイド服なせいか、あまり違和感がない――それどころか、完全に着こなしてしまっている。
「ね、ねぇ。もうちょっとサンドイッチ作り置いておいた方が良いんじゃない?」
「い、いや、フウカ。お前そう言って既に三十人前のサンドイッチ作り置きしてるだろうが。今日は開店初日だし、そこまで客も来ないだろうから心配する必要はないと思うぞ」
「そ、そうかしら……」
まぁ、開店初日で緊張と不安を感じてしまうのは仕方のないことだ。
顎に指を当てて「うぅん……」と唸っているフウカは、俺と一緒にカウンターキッチンに立っている。
白いシャツの上には落ち着いた赤色のベストと、真っ赤なリボン。黒いスカートは三人共通で膝下丈だ。
二人ともに合ってるなぁ~、と心の中で感心していると、もう一人似合っている少女――ミズハがカランカランと喫茶店の出入り口の扉を勢い良く開けて外から帰って来た。
開店時どれくらいの客が来るのかを把握するために、ミズハには外を少し見てきてもらっていたのだ。
白いシャツの上に重ね着されたライトブルーのベストと、首元の青いリボン。
何を慌てているのか、黒いスカートの上から手で膝を押さえて息を切らしていた。
「どうしたミズハ、そんなに慌てて?」
「わ、若っ……! 一大事だ!」
そう言ってミズハは今さっき入ってきた扉を開けて見せた。
そして、扉の先の光景を見て、俺だけでなく、恐らくフウカとエリンもミズハが慌てている理由を悟っただろう。
「なっ、何だこの行列は!?」
「そ、そうなのだ! この人数を店内の座席で賄うのは到底不可能……!」
いかがいたすか若っ!? とミズハが焦っているので、俺は一旦キッチンを離れてミズハの肩に手を置いて落ち着かせる。
「安心しろ。念のために外に出す用の座席とテーブルを用意してるだろ? 今から屋外席を作るぞ」
「あ、あいわかった!」
私も手伝います! とエリンが名乗りを上げたので、俺とミズハとエリンの三人で倉庫から屋外用の座席とテーブルを運び出し、店の前に新たな食事スペースを設ける。
その間にフウカには店内の最終確認をさせている。
「フウカ! 問題ないか!?」
「ええ! 大丈夫なはずよ!」
少し声を大きくして店の外から確認を取ると、店内からそうフウカの返事があった。
「ご主人様、席の配置も完了しました」
「若、いつでも構わぬ」
「了解!」
俺はミズハとエリンを店内に戻してから、列をなしていた客に向かって直った。
すぅはぁ~、と一度深く深呼吸をしてから、通る声で言った。
「お待たせしました! 『喫茶アライム』開店ですっ!!」
俺の名前と三人の少女の正体――スライムを掛け合わせた店名。
そんな店の開店を祝うかのように、列をなしていた客達が騒めく。
そして、順番に店内へ――入りきらない客は屋外の席へと案内する。
何とか最初に並んでいた人達は店内外全ての席を使って捌ききれたが、ポツポツと遅れてやって来る新規客は、少し待ってもらうしかない。
「フウカが過剰に作り置いてた三十人前のサンドイッチ……すぐになくなったな……」
俺はキッチンで忙しくしながら、苦笑いを浮かべる。
「ちょっと! ニヤけてないで急いでちょうだい!」
「す、すみません!」
……まったくどっちが飼い主かわかったもんではないが、確かに別のことに意識を割かれている場合ではない。
大量に入る注文を捌くために、キッチン担当の俺とフウカは死ぬ気で手を動かす。
そして、どんどん作っていく料理をミズハとエリンがせっせとテーブルに運んでいく。
どうして初日からこんなに客が多いんだろうか?
――と、疑問に思っていたら、妙に女性客が多いことに気付くと同時、そのほとんどがこの前ガレフに囚われていたところを俺達で助けた人達であることを理解した。
な、なるほど……通りで……。
正直ビラ配りなどで宣伝をしてもあまり手ごたえが得られなかったのを感じていたが、この女性達が恩返しのつもりも含めて、知り合いに声を掛けてくれたのだろう。
情けは人の為ならずってのは、確かヤマト国のことわざだったはずだが、こうして本当に恩が返ってくるというのはありがたいことだ。
まぁ、そのお陰で、当初の目的である、のんびりまったりなスローライフを送るということからは、遠のいている気がするのだが…………。
「もう、アラン!? ブレンドまだ?」
「す、すまん! もうちょい待って!?」
再びフウカに怒られるのだった――――
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