第20話 そうだ、喫茶店をやろう!③

 メニューにはAランチとBランチ、Cランチ、日替わりランチがある。


 俺は日替わりを注文し、フレンはAランチ、ミズハはBランチ、エリンはCランチと、全ての料理を味わうため、全員バラバラにした。


 そして、俺は注文したランチが運ばれてくるのを待ちながら店内を見渡していた。


「カウンターは一人席。他にも対面式の二人席に四人席、俺達が座っているようなソファー席も少しあるのか……」


「座敷はないのか?」


「お前は相変わらずだな……」


 思考がヤマト風味なミズハに突っ込みつつ、俺は再び視線を店内へ移動させ、気付いてしまった――――


 俺がしばらくその一点を見詰めていると、机の下でフウカに足を蹴られた。


「痛い」


「何見惚れてるのよ」


 ああいう女性が好みだったかしら? とフウカが冷たい眼差しを向けてきて、それに便乗するようにミズハやエリンも不満げに眉を寄せた。


「ち、違う違う! 別にあの女の人を見てたわけじゃなくて――いや、見てたんだけどもそうじゃなくて……」


「じゃあ、何なのよ」


「服だよ服」


「服?」


「ああ。ここのウエイトレス達は全員制服だろ? 統一感があって良いなと思ってさ」


 ストライプ模様が施されたスカートに白いエプロン――そんな制服をここの喫茶店のウエイトレスは皆着用している。


「俺達が喫茶店開くときも、何か制服作っても良いかもな」


「あぁ、良いですね制服! 奉仕精神を胸に、皆さんでメイドになりましょう!」


「それはまた別の嗜好になりそうな気がする……」


「では若! 皆で和服を着て給仕するというのはどうであろうか!?」


「完全に異国なんだよ……」


 提案は嬉しいが、エリンもミズハも思考が個性的と言うか、偏り過ぎているところがあるので、申し訳ないがその提案は却下させてもらおう。


「まぁ、この二人の意見は置いておくとして、制服を作るのは私も賛成よ」


「だろ? ちなみにどんなのが良いとかあったりするか?」


「そんなに凝ったモノじゃなくて良いと思うけど……そうね、同じデザインでそれぞれ色違いにしてみたらどうかしら? やっぱり私達ってイメージカラーがあるじゃない?」


「なるほど……フウカなら赤、ミズハなら青、エリンなら緑って感じか」


「ええ」


 その提案は大いにアリだな。と言うか、むしろそれが最適化だろう。


「んじゃ、制服に関してはその方向で……っと、ランチが来たな」


「お待たせしました。こちらが日替わりランチになります」


 ウエイトレスはそう言って俺の前にプレートに乗ったランチを置いてから、フウカの前にAランチを置いた。


 一度カウンターに戻って持ち切れなかったBランチとCランチも持ってくると、それをミズハとエリンの前に置いた。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい」


「では、ごゆっくりどうぞ」


 ウエイトレスが去っていったあとで、俺達はそれぞれに運ばれてきた料理を見る。


 どれもランチと言うことでそこまでのボリュームはないが、栄養バランスはもちろんのこと、見栄え良く彩り豊かに作られていることがわかる。


「ん、美味い」


 俺はBLTサンドを口に運んで租借し、飲み込んでからそう感想を呟いた。


 ベーコンの味がしっかりと感じられ、レタスは新鮮でシャキシャキとしており、トマトの酸味がそれらの具材と絶妙なハーモニーを奏でている。


 ……とまぁ、詩的な感想を考えてはみたが、とにかく美味しいのだ。


「このホットケーキも美味しいわよ」


「ほえぇ……って、え? くれるの?」


 フウカが一口大にカットしたホットケーキをフォークに差してこちらに向けてきていたので念のため確認すると、フウカは少し眉を怪訝に寄せて「それ以外何があるのよ」と言ってきた。


「そ、そうか。じゃあ、遠慮なく……。ん、これも美味いな!」


「でしょ?」


 ハチミツとバターの甘さが上品で、ふわっふわの生地の触感がたまらない。


「それにしても、フウカって甘いものが好きなのか? なんか意外だな」


「べ、別に好きってわけでも……ないこともないけど……」


「好きなんじゃん」


 素直に認めればいいのに、と俺は内心でツッコミを入れつつ、何だか可笑しくて頬が緩んでしまった。


 笑われたフウカは少し唇を尖らせてから、再びホットケーキを口に運び始める。


「はい、ご主人様。このフレンチトーストも美味しいですよ?」


 そう言って今度は俺の左隣の席に座っていたエリンが食べやすい大きさにしたフレンチトーストをフォークに刺して差し出して来た。


 さっきも言おうと思ったが、正直こうして食べさせられるのはむず痒いというか……何だか気恥ずかしくて居たたまれない気分になるのだが、コイツらは良かれと思ってやっていることなので拒むわけにもいかない。


「あむ……うん、これもいけるな!」


「ふふっ。ご主人様ったら、そんなに私との間接キスの味がお気に召したので?」


「ぶっ――!?」


 俺が思わず吹き出しそうになっていると、エリンがクスクス笑いながら「冗談ですよ」と言ってくる。


「ちょ、ちょっとエリン何言ってるのよ! こ、こっちまで意識しちゃうじゃないの!」


「あら、フウカさん。私はてっきり貴女がわざとやっているものだとばかり……」


「そ、そんなワケないじゃない!? んあぁあああ! 貴方が変なこと言うから気にしてなかったのに何だか恥ずかしくなってきた!」


「初心ですね~」


 やめてやめて?

 俺もお前らの使ったフォークに口を付けた身として恥ずかしくて死にそうになるから。


「む? さっきから何をそんなに騒いでいるのだ?」


 ここで、先程まで黙々と目の前のランチに集中していたミズハが視線を上げて聞いてくる。


「えっとですね、ミズハさん。私とフレンさんが主様と――」


「――あぁ~! なんでもないわよ、ミズハ? ただ、ここの料理は美味しいわねっていう話!」


 エリンの言葉を必死に誤魔化そうとするフウカ。


 結局ミズハはこの一連の会話が何のことだったのかを理解することなく、店を出るまで頭上に疑問符を浮かべたままであった――――

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