第16話 失踪事件を調査せよ!③
スキル【ディテクション・アイ】で屋敷内を見渡す。
壁を、柱を、床を透視して――――
「よし、見付けた」
そう言って俺は階段下の扉を指して、ミズハに場所を伝える。
そして、手薄になった衛兵の目を盗んで地下室へ入っていった。
蠟燭の照明に照らされた薄暗く細い階段を下っていくと、案の定人を閉じ込めておくのには持って来いの牢屋がいくつかあった。
その中には、麻で出来た粗末な服を着せられた若い女性らが閉じ込められていた。
「皆さん、助けに来ました」
そう言うと、牢屋に囚われていた女性達が「ありがとうございますっ!」「やっと帰れるっ!」と泣きながら騒ぐので、俺はそれらの声を手で制した。
こんなところで騒いで衛兵に見付かり、戦闘になるわけにはいかない。
「ミズハ、頼む」
「御意」
ミズハは俺の指示を受け牢屋の前に立つと、左腰に下げた刀をシュルリと抜き取り一閃。
牢屋の鍵の接続部分を次々と斬っていき、囚われた女性達を開放していく。
女性達は全員で十五人ほどで、これなら余裕で馬車に乗り切りそうだ。
「では皆さん、俺達のあとについてきてください」
「は、はい……!」
集団の中の誰かがそう答えたのを聞いてから、俺は女性達を先導して階段を上る。
階段を上り切り、ここからは身を隠すものがない。
来たときは俺とミズハの二人だけだったからバレずに移動できたものの、いくら警備が手薄になっているとはいえこの人数では間違いなくバレてしまうだろう。
そして、この女性達が手際よく部屋の窓から脱出し、屋敷を覆う高い塀を軽々と越えられるとは思えない。
なら、ここから馬車を置いてある屋敷裏手のところまでの最短ルート――直線の一本道を用意するしかない。
「ちなみにミズハ。ここから真っ直ぐ、壁と部屋と屋敷の塀をぶち抜けるか?」
流石に無茶言ってるな、と思ったが、ミズハは考える素振りすら見せずに「容易いことだ」と笑って見せた。
「ただ、そうなれば外に回っていた衛兵も戻ってきてしまうのではないだろうか」
「それは仕方ないな。俺が時間を稼ぐよ」
「そ、それはならぬ! 拙者も一緒に戦おう!」
「いや、ミズハはこの人達を無事に馬車まで送り届けてくれ」
そう言うと、ミズハが俺を心配するように今にも泣きそうな表情を浮かべるので、俺は苦笑交じりにミズハの頭を撫でた。
「大丈夫だって。これでも元勇者パーティーの一人だぞ? それに、時間を稼いだあとは、俺もさっさと合流するから、いつでも馬車を出せるように用意しておいてくれ」
「ま、まことであろうな? 絶対に無事に合流するのだぞ!?」
「やめろやめろ! それどう考えてもフラグだからっ!」
言葉一つに成り行きを左右する力はないだろうが、それでも心の持ちようというものがある。
俺は慌ててミズハの言葉を遮ってから、改めて心配するなと伝える。
「さ、ミズハ。ここから一直線に……頼むぞ!」
「しかと
ハッキリとそう答えたミズハは、地下室の扉から勢いよく屋敷のロビーに躍り出た。
異国情緒に溢れた目立つ格好のお陰か、今にも外で気を引いてくれているフウカとエリンの所へ駆け付けようとしていた衛兵が、ミズハを見付けるなり「ここにもいたぞぉ~!!」と仲間を呼ぶ。
しかし、既に抜刀の構えを取っていたミズハが、迫ってこようとする衛兵らに向けて、高らかに叫んだ。
「命が惜しくば寄るなぁッ! 今は手加減出来ぬ状況ゆえ、拙の刀の錆になりたくなければ引けッ!!」
「「「――ッ!?」」」
その言葉に込められた覇気に当てられた衛兵らは、矛先をミズハに向けながらも近寄ることを躊躇った。
ミズハはその隙に深く息を吸って――――
「――激流は、地を削ぎ岩をも砕くッ!!」
チィン! とミズハが鯉口を切った瞬間、ドバァッと荒波が生まれ、刀を振り抜くに合わせて前方に勢いよく激流が爆ぜる。
大水量の砲弾となった激流は、屋敷の床を抉りながら進み、壁も部屋も関係なしに砕き突き進んだ。
衛兵らが目を剥き口をあんぐりと開けたまま押し黙っている中生まれた、巨大な風穴。
「さ、拙についてこい!」
ミズハはそう言って女性らを先導し、生まれたどデカい大穴から馬車へと向かう。
しかし、固まっていた衛兵らも、流石にそれをみすみす見逃したりはしなかった。
我に返った衛兵らが、「逃がすなぁあああ!!」と叫びながら、女性らを捕縛しようと追い掛ける。
が。
「なっ、身体がッ……重い! 動けん!?」
衛兵らは突然に足を止め、中には膝を付いて悶える者すらいた。
俺はそんな彼らの前にゆったりと歩み出し、右手で長杖をアイテムボックスから取り出してから不敵に笑う。
「ここから先には行かせない。精々時間稼ぎに付き合ってもらおうか?」
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