第14話 失踪事件を調査せよ!①

 何だかミラの手の平の上で踊らされている感じがして癪だが、俺はセルティエで頻発している領民の娘の失踪事件について調査することにした。


 まぁ、黒幕が新領主――ガレフ・ルージャスであることは目星がついているので、あとはその証拠を掴めばいいだけ。


 調査はそこまで難航しないだろう。


 それに、多くの人からギルドにこの依頼が寄せられているとのことなので、依頼の達成報酬はかなりの金額になるはずだ。


 その金を使って何の店を開こうか……と考えるのはあとにしておき、俺はギルドの裏口付近である人物を待っていた。


 空が茜色から次第に暗い青色に移り変わり出した頃、目的の人物がギルドの裏口から出てきたので、声を掛ける。


「今上がりか? ルミナ」


「え、先輩? こんなところで何してるんですか?」


 目的の人物――ルミナが、その栗色の瞳を不思議そうにパチクリさせる。


「ちょっと聞きたいことがあって待ってたんだよ」


「あぁあああ! 聞きたいことで思い出しました! 先輩が連れてる三人の女の子は誰なんです……って、アレ? 三人は?」


「えっと、今三人は別行動なんだ。失踪事件について調べててな」


「失踪事件って、若い領民の女性が消えているってやつですか?」


「ああ。ずっとこの街に住んでて、なおかつギルド職員のお前なら、何か手掛かりになる情報を持ってるんじゃないかと思ってな」


「もぅ、先輩ったら。また危ないことに首突っ込んでるんですね? 心配掛けないでくださいって言ったばかりなのに……」


 ごめんごめん、と俺は苦笑いを交えながら謝る。


 すると、ルミナが「仕方ないですね……」と呆れ半分といった表情で話し出す。


「この失踪事件が起こり始めたのは、領主が代替わりしてすぐのことです。新領主であるガレフ様が無茶な税を領民から巻き上げるようになってから、街の活気も下がっていって、治安も悪くなったからですかね……こんな事件が起こり始めたのは」


 ここまではミラから聞いた話の通りだな。


「ですから、最近では出歩く人はかなり減っていて……何でも、夜になると怪しげな人影が街を走り回っているらしいんですよ。まぁ、噂ですし、この事件と関係あるかはわかりませんが……」


「なるほど。夜に人影……」


「先輩、調査するのは良いですけど、本当に危ないことはナシですからね?」


「わかってるって」


 俺はルミナに感謝と別れを告げてからこの場を後にする。


 そして、新しく取得しておいたスキル【念話】で、現在別行動している三人に呼び掛ける。


「三人とも、聞こえるか?」


『ええ、聞こえるわ』

『しかと聞こえるぞっ』

『はい、聞こえます』


 三人の声が、直接頭の中に響いたように聞こえた。


 俺は、徐々に暗闇に支配されつつある空を見上げながら言った。


「今から南地区にある噴水広場で合流だ。夜に、尻尾を掴む――」



◇◆◇



 時刻は二十四時を過ぎてしばらくたった頃。


 完全に夜闇に沈んだ中、俺達は南地区の住宅街の裏手にある、入り組んだ細路地を張っていた。


 俺、ミズハ、エリンは建物の屋根から路地を見下ろす形で。フウカは武器を持たず一般人を装って、細路地を歩く。


 餌であるフウカに“獲物”が食いつくのを根気よく待っていると――――


「……」


 フウカの前の方から一人の男性が歩いてきた。


 特に変わった様子はなく、ただ夜道を歩いているだけ。別にそんな人がいてもおかしくはない。


 フウカも万が一に備えてその男に警戒はしているだろうが、表向き特に気にした様子を見せることなく、その男の隣を通り過ぎようと足を進め――――


「掛かった」


 そう呟いた俺の視線の先――二人の男路地の物陰から飛び出してきて、背後からフレンに襲い掛かる。


 正面から人を歩かせ注意をそちらに向けさせる。そして、死角から奇襲。


 明らかに素人の手口ではない。


「だがまぁ、相手が悪い」


 フウカの背後僅か数メートルにまで二人の男が近付いたところで、フウカはため息を交えながら言う。


「なるほどね。こうして若い女の子を攫っていくわけ? 最低ね」


「「――ッ!?」」


 キュルッ! と靴底を鳴らしてキレ良く振り返ったフウカが、右足回転蹴りを繰り出す。


 突然の動きに不意を突かれた男二人は、一瞬動きを止めつつも、やはり手練れのようで、片方の男はすぐに身体の正面に腕を持ってきて防御姿勢を取る。


 しかし――――


 ダァアアアンッ!!


「ぐはぁっ!?」


 残念ながらフウカの蹴りの勢いは殺しきれず、防御姿勢を取った男は大きく後方に吹っ飛び、地面を何度かバウンド。


 そのまま昏倒したのは語るまでもないだろう。


 そして、ッ真横でその威力を目の当たりにしてしまったもう一人の男は、本能的にフウカと自分との力量差を悟り、絶望したように佇む。


「何被害者みたいな顔してるの――よッ!」


 フウカは言いながら男の腹に容赦なく拳をめり込ませ、その場で意識を刈り取った。


 二人を制圧完了。しかし、まだ一人残っている。


 最初フウカの正面から何気なく歩いてきていた男だ。


 ただ、既に意識を失った二人の男がフウカに襲い掛かっている間何の動きもなかったということは、恐らく本人に戦闘能力はないのだろう。


 すでにフウカの視界から逃れ、一人必死に路地を走って逃げていた。


 しかし、それを易々と見逃す俺達ではない。


「逃がしません」


 屋根の上で、エリンが矢を引き絞る。


「風よ――」


 矢に風のベールを纏わせて、射出。


 矢はまるで目標に向かって吹き抜ける風に乗っているかのように、細路地を滑らかに飛んでいき、狙い違わず男の足元に突き刺さった。


 そこから巻き起こる突風。


 ある程度威力は抑えられているが、男はあっさり吹き飛ばされ、建物の壁に身体を打ち付ける。


 そんな様子を眺めていた俺の隣でミズハが…………


「拙の出番がないではないかぁ……」


 そう、寂しそうに呟いていた。

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