第09話 美少女スライム、最強でした②
モンスターの群れが奇襲を掛けてきた――そんな事態に、野営の準備をしていた皆の手は止まり、場に緊張感が走った。
客のおよそ三分の一を占めていた冒険者と、護衛依頼についていた冒険者が率先して武器を手に取り、客を後ろに庇う。
俺自身に戦闘能力はほとんどないが、これでも元勇者パーティーでエンチャンターを担当していた冒険者だ。
ここで俺が出ないで誰が戦うんだ。
俺は加勢すべく前線に向かう。そして、そんな俺の後を三人が追い掛けてきた。
「お、おい、お前ら。まさか戦闘に加わるつもりか?」
「それ以外の何があるっていうのよ」
「ついに拙者の腕の見せ所だな!?」
「私はいつでも主様のお傍にいますから」
そうフウカ、ミズハ、エリンが口々に応える。
どうやら考えを変える気はなさそうだ。
いくら進化したとはいえコイツらはスライム。
ゴブリンの群れをざっと見渡した感じ、中には魔法を使って攻撃してくるゴブリンシャーマンや、弓兵であるゴブリンアーチャーまでいる。
そして、最奥には堂々と構える巨体――ゴブリンキングの姿も。
どうやらゴブリン達は、この馬車が野営するタイミングを狙って計画的に奇襲作戦を立てていたらしい。
そんなゴブリン達相手に、この三人が戦えるだろうか。
俺は不安を抱きながら三人の表情を見るが、彼女らの表情に迷いはなく、どこか余裕すら感じさせられた。
「はぁ……わかったわかった。なら、お前らは取り敢えず客と馬車の守りを優先してくれ。危ないと思ったらすぐ撤退すること。良いな?」
「もちろん!」
「御意!」
「かしこまりました」
三人の歯切れ良い返事を聞いて、俺は戦闘が繰り広げられている場所に、三人は客と馬車が集まっている方に駆ける。
冒険者達が何とか戦ってくれているものの、統率の取れたゴブリンの群れを前に防戦一方。
これは……護衛の冒険者以外は三人と一緒に守りに専念してもらった方が良いな。
柄ではないが、俺はこれまでの戦闘経験をもとに指示を飛ばすべく、大きく息を吸って叫ぶ。
「護衛役の冒険者は前に出ろ! 残りの冒険者は客と馬車の守りに集中だ! 戦力差は、俺の支援魔法で埋めるッ!!」
俺は声を張ってそう伝えつつ、アイテムボックスの中から一本の長杖を取り出し、クルリと右手で回転させたあと身体の正面に構える。
すると、背中越しに一人の冒険者の驚愕に満ちた声が聞こえてきた。
「え、嘘だろ。あの大きな青色の宝玉が付けられた長杖に、紺色のフード付きローブ……」
俺はそんな声を聞き流し、眼前に迫ってくるゴブリン達を見据える。
俺の魔力に呼応して杖の宝玉が輝きだし、足元に大きな魔法陣が展開される。
そして、ゴブリン達に向けて杖を掲げる。
「上級範囲拘束魔法――【グラビティバインド】ッ!」
身軽に駆けてきていたゴブリン達の足が、急に地面に埋まった。
まるで爆発的に体重が増加したかのようで、ゴブリン達は自重によって動けなくなり、ギャーギャーと騒ぎ立てる。
その様子を見て確信に至ったのか、一人の冒険者が俺の正体を高らかに叫んだ。
「ゆ、勇者パーティーのエンシェンター! アラン・オーフェンだッ!!」
元ね、元。
と俺は心の中で苦笑交じりにツッコミを入れる。
そして、ゴブリンの拘束を緩めることないまま、続けて魔法を発動。参戦している冒険者全員の足元に魔法陣が展開された。
「支援・強化魔法――【フィジカルブースト】【プロテクション】【ファストアクション】……」
俺は次々に支援魔法を発動させていき、冒険者達の戦力を底上げすべくバフを掛けていく――これこそ、エンシェンターとしての務めだ。
防戦一方だった冒険者達が、バフを掛けられて押し寄せるゴブリン達を押し返し始めた。
俺が【グラビティバインド】で動けなくしているゴブリンらも、勢いを取り戻した冒険者達が片付けていく。
「い、行けるッ!」
「力が漲るぜぇえええ!!」
「このまま押し返せぇえええ!!」
「「「おおぉおおおおおおおッ!!」」」
冒険者達の気迫に満ちた声。
実際のステータスだけでなく、士気が高まったことにもよって、戦闘が安定する。
しかし、人より知能が低いとはいえ、劣勢な状況に何もしないゴブリンではない。
前衛で戦線を支えるゴブリン達の後方に構えていたゴブリンシャーマンが、高く放物線を描く軌道で【ファイアボール】を放ってきた。
目前の戦闘に意識を割かれていた冒険者達は、死角である頭上からの攻撃に対応できず、もろに喰らってしまう。
何人か回避した者もいたが、やはりダウンしてしまった冒険者達の間を抜けてゴブリン達が迫ってくる。
ゴブリンシャーマンの攻撃をもろに受けても死人が出なかったのは、やはりあらかじめ俺がバフを掛けていたのが功を成したのだろうが、貰ったダメージは決して小さくない。
「ちっ、ここで戦力が削られるのはキツイぞ……!?」
そう、俺が舌打ちをしたとき――――
「もうっ、見てられないわね――ッ!」
俺の脇から赤い残像が躍り出てきて、高く高く跳躍。
「ちょ、フウカ!?」
驚く俺の視線の先――フウカが宙に身を投じていた。
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