第06話 個性豊かな美少女スライム②
都合の良いことに、今滞在しているこの街は商業都市だ。
大きな河川に整備された広い道といった風に貿易路が整っており、国内各地の商品だけでなく、他国の品までも流通している。
まさに、三人の少女の装備を整えるには持って来いの場所というわけだ。
ただ、外套一着を纏っただけの少女三人は、嫌でも行き交う人々からの視線を集めてしまう。
「最初の買い物は服だな……」
「そんなに私達の裸を他の人に見られるのが嫌なの? 何、独占欲でも湧いてるの?」
「ばっ、そういうんじゃないって!」
「ま、別にそれでも良いけどね。実際貴方は私達の主人なわけだし?」
すまし顔で肩を竦めてそんなことを言ってくる赤の少女に、俺は「だから違うって……」と再度否定しておいた。
そうこうしているうちに、目的の店に到着。
ここには日常生活用の服から、冒険者用の装備まで幅広く取り扱っている店で、見慣れたデザインから、他国の伝統衣装まで取り揃えられている。
流石に貿易が盛んに行われる商業都市というだけあって、品物はどれも上質なものだ。
「いらっしゃいま……せ……」
笑顔で接客してきた女性の店員が、俺の後ろについてきた三人の少女の格好を見て絶句し表情を崩壊させているので、俺は慌ててそれっぽい事情をでっちあげる。
「あ、いや、ね!? 道中でモンスターの群れに襲われたんだ!? いやぁ、死人は出なかったものの、コイツらの大半の装備がなくなってな!? あ、あはは……」
「何を言うか若っ! 拙らがそこらのモンスターに引けを取るわけ――むぐぅ!?」
「ちょぉっと黙ってようかぁ?」
青の少女が余計なことを言いそうだったので、俺は咄嗟にその口を手で塞いで黙らせる。
俺の誤魔化しを信じてくれたのかそうでないのか……店員さんが何とも言えない表情を浮かべて「ごゆっくりぃ……」と店の奥へと下がっていったあと、俺は青の少女を解放してから皆に言う。
「ほ、ほらお前ら。好きな服探してこい」
「はいはい」
「御意に」
「かしこまりました」
赤、青、緑の少女はそれぞれ店内の奥へ足を進めていった。
俺はホッと胸を撫で下ろし、三人が服選びを済ませるまで待つこと十五分。
どうやら試着室で選んだ服をすでに着させてもらったらしい三人が、店内に置かれた椅子に座って待っていた俺の前に戻って来た。
「ん。選んだか――って、何だこの異国情緒溢れる取り合わせッ!?」
俺は三人の格好に突っ込まざるを得なかった。
まず赤の少女だが、これは東の大国――チャイナン帝国の伝統衣装のデザインを踏襲したものだ。
朱と黒を基調とした上下一体型のドレスはしっかりと身体のラインに沿っており、膝丈のスカート部分には左右に長くスリットが入っている。
流石にそれだけでは素足の露出が多いと思ったのか、その細く長い脚は黒いタイツに包まれていた。
まぁ、タイツで隠されているからこそ余計に色っぽくも見えないこともないんだが……。
「な、何かいやらしい視線を感じるんだけど……?」
「そんな視線は向けてない!」
俺はコホンと一つ咳払いし、改めて赤の少女を見てから頷く。
「まぁ、なぜその服を選んだのか気になるところだが、結構似合ってると思うぞ?」
「ふ、ふん。当然でしょ?」
素直な感想を言ったつもりだったんだが、赤の少女はそっぽを向いてしまった。
続いて俺は、青の少女へ視線を移す。
うぅん、これまた異国の伝統着……。
紺色の着物に鼠色の袴。上から空色の法被を羽織っており、しっかり足元まで草履。首元には白いスカーフが巻かれていた。
恰好を意識してか、濃紺の長髪もやや高めの位置でポニーテールにされている。
「武士かっ!?」
「ど、どうだろうか若。拙も似合っているだろうか……?」
感想を求めるのが気恥ずかしいのか、首元のスカーフで口許を隠しながらチラチラ視線を向けてきて青の少女が尋ねてくる。
「ま、まぁ……その口調と言い雰囲気と言い、お前にピッタリって感じではあるな。似合ってるぞ」
「ふふっ。ありがたき幸せ」
もじもじとしていた青の少女は、褒められて安心したのか、嬉しそうにはにかんだ。
「では、ご主人様。最後は私ですね?」
「そうだな。んじゃ、一つ聞こう。なぜメイド?」
「もちろん、ご主人様に誠心誠意お仕えするためです」
「な、なるほど?」
白いシャツの上からは黒いベストを着用し、膝下辺りまでの黒いスカートの上からは、白いエプロン。そして、黒タイツに黒靴……と、清潔感と動作性を兼ね備えたような服装だ。
くせっ毛な淡い緑色の髪の毛はミディアムで、右横の髪が三つ編みにされていた。そして、頭上には猫耳が生えていて――って、猫耳ッ!?
「お、おい……その猫なケモミミはどうした?」
「あ、コレですか? 生やしてみました」
「は、生やす?」
緑の少女の意思に従ってピクピク動いているようなので、明らかに付け耳ではない。
確かにスライムってどんな形にもなれそうだし、こうやって疑似ケモミミを作ることも可能なのかもしれない。
「ま、まぁ、良いんじゃないか? とてもよく似合ってる」
「恐縮です」
そう言って軽く頭を下げる緑の少女の姿は、確かに本物のメイドだった。
「よ、よし。想像の遥か斜め上をいった買い物だったが、まぁ良いだろう。その服の他にも着替えを買っておくとして……次は武具店だな」
そんなこんなで会計を済ませたあと、俺とスライム三人娘はこの店を後にした――――
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