第04話 美少女スライム爆誕!
夜明けを告げる曙光が地平線の彼方からこの世界を照らし始めたばかりの、まだ薄暗さが残る早朝。
俺の意識がゆっくりと浮上してくる。
徐々に手足の感覚が呼び起こされて、呼び……起こされて……?
手が、動かない。そして、重い。
アレか? スライム達が寝ている間に縮むのを忘れてデカくなってしまったのか?
いや、そういう類の重さではなかった。
巨体に圧し潰されている感覚ではなく、何か身体に絡み、乗っかっているような……。
加えて、スライムの柔らかさではない気がする。
手や足、胴体に押し付けられるこの柔らかさと弾力。おまけに手触りを表現するならば、ツルツルではなくスベスベ。
それに、妙に甘くて良い匂いが鼻腔をくすぐってくる。
一体何だこれは、と俺はその正体を確認するべく薄っすらと目蓋を持ち上げる。そして、寝たまま頭だけ持ち上げて、自分の身体の上に乗っているものを確認する。
緑色。
何だやっぱりスライムか、と心の中で呟いた直後、一気に覚醒した思考が否を唱える。
「いや、スライムじゃないッ!?」
俺は裏返り気味な声を上げてしまった。
正体う不明の何かに身体が拘束されていて上体を起こすには至らなかったが、やっと意識が鮮明に覚醒したところで自分の置かれている状況を確認する。
自分の上には掛け布団……に包まった人間。
こちらに癖の掛かった淡い緑色でミディアムの髪を生やした頭を向けており、顔までは見えないが雰囲気でかなりの美人であることが察せられる。
次に俺の右腕を拘束するように纏わりついている何かに視線を向けると、それも人間。
濃紺の長髪を持つ、こちらもまた精緻に整った顔に白い肌と、類稀な美少女。
もはや何が何だかわからないままに、最後左側を見ると、案の定そこには俺の左腕を抱き締めるように寝る美少女の姿があった。
燃えるような赤い髪に、きめ細やかな白肌。
そんな三人の美少女は、揃いも揃って生まれたままの姿。
安心しきった表情ですやすやと寝息を立てている。
……な、な、なっ!?
「なんじゃこりゃぁあああああッ!?」
バッ! と力任せに起き上がり、掛け布団ごと三人の少女達を跳ね除ける。
「きゃっ!?」
「なにっ!?」
「にゃっ!?」
――とそれぞれ赤、青、緑の少女は床に放り出されて呻き声を上げるが、実際呻きたいのは俺の方である。
「な、何だ俺!? 追放されて寂しくなって、昨晩女でも買ったかッ!?」
い、いやいやいやいやッ!
俺は十七歳で確かにそういうことに興味がないわけでもない年頃だが、そういう類のことはまだ早いとわかっている!
昨晩は酒も飲んでないはずだし、酔ってはないはずだ。
と、何かと言い訳を並べていくが、実際俺の目の前にはこうしてあられもない姿の美少女が三人もいるわけで……。
「お、俺は、遂に超えてはいけない一線を越えてしまったのか……ッ!?」
俺が頭を押さえて罪悪感に打ちのめされていると、「痛いですよぉ……」と緑の少女の声が唸る。
「あ、悪い……」
「まったく。急にどうしたっていうのよ」
そう不満気に口を開いたのは赤の少女だ。やや吊り上がり気味の紫炎色の瞳をこちら見向けてきた。
「い、いや……朝一番に見る光景があまりにも衝撃的すぎてな……」
すると、今度は青の少女が眠たげに目を擦りながらも、なぜか遥か東方ヤマト国の伝統的な座り方である『正座』をしながら言う。
「
「わ、若っ!? 俺が!?」
そ、それは確か、ヤマト国での、若い自分の主君を示す言葉だった気が!?
つ、つまり、俺がご主人様ということで…………
「うあぁあああああッ!? 記憶はないけど、俺は主従プレイとか高度な遊びをしてしまったのかぁあああああッ!? 本当に記憶にないけどぉおおお!?」
まったくもって。これっぽっちも記憶にないけど、やってしまったことは仕方がない。
「き、きちんと差損駄文のお金はお支払いしますので……えっと、いくらでしょうかね?」
こんな美少女を三人も買ったんだ。かなりの金額になるだろう。
まぁ、勇者パーティーとして冒険をしてきたおかげで、金銭的にはかなり余裕があるので問題はないだろうが……。
「遊んだ分のお金? 何言ってんのよ貴方」
赤の少女が怪訝に眉を顰めながら「どういうこと?」と青、緑の少女にもそれぞれ視線を向けて尋ねるが、二人とも首を傾げる。
「い、いや……どういうことは俺のセリフなんだが……」
と、俺はそこまで言って、ふと冷静になった。
「……あれ? 赤、青、緑……」
この際裸がどうとか構うことなく、順番に少女達を見ていく。
本能的に、俺とこの少女達が絆のようなもので結ばれていることを自覚し、俺は「あっ」と声を漏らした。
「も、もしかしてお前ら……スライム……?」
そう尋ねると、三人は、この人何を言っているんだろう? とでも言いたげな表情で顔を見合わせる。
そして、赤、青、緑の少女が揃って口を開いた。
「もしかしなくてもスライムでしょ」
「もしかしなくてもスライムだろう」
「もしかしなくてもスライムですよ?」
「やめて!? その、さも当然のような表情向けてくるのやめてっ!?」
――そんなこんなで、ここに、美少女スライムが爆誕した。
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