第03話 スライム達を育て始めてみた

「そら、食え食え~」


 早速テイムした三匹のスライム達に、食事をさせていた。


 食べるのは、スライムの口(?)が届く低い位置にある葉っぱだ。


 かれこれ三時間はこうやってスライム達が黙々と葉を食べ続けている姿を眺めているだろうか。


 スライムを延々と眺める俺――そんな姿を客観的に想像してしまった俺は、何だか可笑しくなって笑えてきてしまった。


「けど、まぁ……これからどうしたもんかね」


 もう冒険者としてやっていくつもりはない。ただ、どこかでのんびりまったりと平穏な暮らしを送りたい。


 だが、生きていくためにお金は稼がないといけないし、住むところもどうにかしなければならない。


 しばらくは勇者パーティーの活動中に稼いだ金で充分生きていけるが、それも有限。


「うぅ~ん。帰るかなぁ~、セルティエに」


 セルティエ――それは、俺が育った街。故郷と言うやつだ。


 孤児だった俺を育ててくれた孤児院が併設されたギルドのある街で、今いるこの街からはだいぶ距離があるが、まぁのんびり帰ればいいさ。


 その道中で、このスライム達も育てていく。


 聴覚器官があるのかどうか知らないが、俺は黙々と食事を続けるスライム達に声を掛けた。


「よし、お前ら。これから、俺の故郷を目指してボチボチ帰っていこうか」


 スライム達が一旦食事を中断し、その場でぷにょぷにょ飛び跳ねて見せる。


 これは……俺の言葉に反応しているのだろうか?


「……誰だよ、スライムには知能がないとか提唱した奴」


 俺は思わず苦笑を湛えてしまった――――



◇◆◇



 三匹のスライムをテイムし、育て始めてからかれこれ一週間が経過していた――――


 のんびりスローライフを送る予定を立てている地――故郷のセルティエに向かうべく、馬車に乗って街を転々としながら乗り継ぎをし、その道中でスライムの育成も行っていた、のだが…………


「いやぁ、成長しすぎでは?」


 雑魚モンスターは成長速度が速いのか、初めは延々と草を食べ続けていたスライム達も、徐々に虫、小動物を喰らい始め、今では人の背丈など優に超える四、五メートル級のビッグスライムに進化していた。


 現在、中型モンスターをスライム達が各々食しているところだ。


 だが、やはり手強いモンスターもおり、スライム達が手間取っているときは、俺の支援魔法で俊敏性を強化したり防御バフを付与したりして手助けしていた。


 まさか、支援魔法が人間以外にも作用するとは思っていなかったが、考えてみればモンスターにデバフが掛けられるのだから、バフが掛けられるのも道理だろう。


「それにしても、成長速度早すぎだけど」


 これまでに見たことのない程立派に成長したスライムを見詰めながら、俺は呟く。


 その巨体はもちろん圧巻だが、それ以上に深みのある色合いや音うオーラが、貫禄すら醸し出していた。


 ビッグスライムに進化した当初は、この巨体でどうやって馬車に乗るんだと心配したが、このスライム達は通常のスライム大に縮んでくれる。


 まったくもって便利な身体だ。



 ――この成長速度の原因が、俺がいつの間にか所有していた固有スキル【天眷てんけんの加護】の仕業であることに気付くのは、もう少し先の話である――



「そろそろ日が落ちてきたな……」


 元々薄暗い森の中だが、見上げると茂る木の葉の隙間から茜色に染まった空が窺える。


「よーし、お前ら。そろそろ街の戻るぞ。明日も朝一版の馬車に乗るから、さっさと夕食を済ませて早く寝ないとな」


 返事のつもりなのか、その場で巨体をぷにょぷにょバウンドさせて見せたスライムは、みるみるうちに身体を通常サイズへと縮めていく。


「うん。間違いなく知能あるな、これ」


 俺は世間の常識に抗う確信を得ながら、三匹のスライムを後ろに引き連れて街へ戻っていった。


 夕食を取ったあと、宿のベッドに入る。


 この人懐っこいスライム達がベッドに潜り込んでくるのはもういつものことで、俺はその柔らかな感触を身体に感じながら眠りについた――――

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