第三章 偽りの楽園
1
僕たちは何とか山の中に洞窟を見つけて、そこへ避難した。
雨が地肌を打ち付ける音はその日も一晩中続いた。
「来るな!!」
僕はアスランの大声で目を覚ました。
「私は兵士じゃないよ! ほら、武器も持っていない」
見ると、老爺が両手を前に出して何やら弁明していた。
「……何しにきた」
「その格好はカタリスか?……なんと、ここまで逃げてきたのか……子供達だけで」
「だから、何だ」
「よかったらおじさんの所に来なさい。温かい食べ物も寝床も分けてあげるから」
「嘘だ! 大人が俺たちのことなんか助けるわけない。ララ、ウィンク、騙されるな! これは罠だ」
「嘘じゃない。もし、私が君達を殺すつもりならとっくに殺しているはずだ」
「……だからといってあんたが俺たちを殺さないとは限らない。今すぐあんたが化け物じゃないってこと、証明しろ」
「化け物? ……ああ」
老爺は果物ナイフを取り出して、手のひらを傷つけた。傷口からはつつつと真っ赤な血が流れた。
「どうだね? 血は青いように見えるかい?」
「いや。どろっどろに真っ赤だな」
「ははは、そりゃ年寄りだからね」
老爺はカラカラと笑った。
「残念ながら、貧乏でね。君の言う化け物は飼っていないよ……犬なら飼っているけどね。君たちを見つけたのもこの子だ」
老爺に頭を撫でられた狩猟犬が誇らしげに一鳴きする。
「アスラン、おじいさんの家に行ってみようよ! 悪い人じゃなさそうだよ」
「おや、君は……」
「こいつは、俺たちの仲間だ」
「ウィンクルムです」
「そうか、ウィンクルムか……」
老爺は僕を物珍しいものを扱うかのように見た。
僕はその視線に気付かず、アスランの方を顧みる。
「アスラン」
「けど……」
「でも、このままここに居たって、ララの身体は良くならないよ?」
「……っ。おい、じいさん! 変なことしたら殺すからな」
アスランは渋々と言った様子で了承した。さすがにララの体調を思えば、背に腹は代えられないと判断したようだ。
おじいさんは貧しい小屋だと言ったが、根無し草だった僕たちからすれば、彼の家は
パンとジャガイモのスープにヤギのミルク。久しぶりの豪華な温かい食事を頂いた。
「好きなだけここに居なさい」
おじいさんは甲斐甲斐しく僕たちの世話を焼いては、そう言ってくれた。
アスランは、寝たきりのララの世話を僕たち以外にさせなかったけど、おじいさんは気にしていないみたいだった。
でも、それも時間の問題で、いつかは打ち解けてくれるだろう。
そんな風に僕が楽観的に考えていた時。
とうとう、アスランがおじいさんを殺した。
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