旅の最初こそは順調だった。


 食料に困ってやむを得ずロバを解体した頃、ララが体調を崩した。


 僕とアスランは交代でララを背負った。


「お前、見かけによらず力持ちだよな」

「まあね。頑丈だって父さんのお墨付きだから」

「頭以外はな」

「ララ、アスランが虐めてくる!」

「ふふっ」


 ララは徐々に背中の上にいる時間が長くなった。


 瓦礫の中からビスケット缶を拾ったこともある。ビスケットは、3人で分け合って食べた。


 ララには2切れ。僕とアスランは1切れずつ。それも僕にとっては楽しい思い出だった。


 とある日は、寝床に丁度良い廃車を見つけた。


「僕が見張るから、2人は眠ってて」

「俺がやるから、寝てろよ

お前の見張りは信用ならない」

「じゃあ、交代で」

「駄目だよ! 3人一緒じゃないと、私寝ないからね!」

「……分かったよ、皆で寝よう」


 ララを真ん中にして寄せ合って眠った。狭い車内だったけど、よく眠れた。


「……雨だ!」


 髪の毛にぶつかった小さな感触に僕は顔を上げた。


「酸性雨か」


 アスランが渋い顔をした。


「まだ世界が平和だった頃は、皆がどんなに願っても、雨なんか降らなかったのに。神様は酷いよな。こういう時だけ降らせるなんて」


 荒れ地には雨除け可能な建物なんてなく、暫く酸性雨に打ち付けられた。


「お前……頭」

「?」

「なんでもない」


 不自然に言い淀むアスラン。


 ララの調子は悪化の一途を辿るばかりだし、僕も視界がノイズがかかったようにくらんだりする。


(酸性雨の所為で、ハゲてしまったらどうしよう……)


 せめてもの救いは東に進むにつれ、草木の割合が増えたことだ。


 いつかは楽園にも辿りつける。それを考えることで憂鬱さを吹き飛ばした。

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