2
明け方。僕とアスランは、水を汲みに洞窟から出ようとした。
その時、目の前に大きな影が塞がった。
と、同時にアスランが後ろにぶっ飛んだ。
「お前だな?! あれは、お前の仕業だろ」
男が凄まじい剣幕でアスランの襟首を掴んでいた。
「アジトからお前が出てくるのを見たって奴が居たんだよ」
「……言い掛かりはよせよ、証拠もねぇのに」
「証拠だァ? あんだけ人を躊躇無く殺せんのは、少年兵の生き残りのお前くらいだ」
「はっ、買い被り過ぎ」
「なんだと!」
「兄貴! どうやら、ここにはないようです」
「ちっ。おい! 明日までに返さねぇと、お前の大事な妹ちゃんを八つ裂きにしてやるからな!」
兵士は目だけぎょろり動かしてとララを睨みつけ、取り巻きと共に去っていった。
痩せ細った身体と異様な瞳のギラつきは、とてもじゃないが正気の人間に思えなかった。
「兄さん、危険なことはやめてって」
「大丈夫だって。あんなん、ただの
「でも、」
「ウィンク! 水汲み行くぞ」
「う、うん」
川は洞窟から30分程歩いた所にあった。
「……少年兵だったんだね、アスラン」
「まぁな」
家族を食べさせるにはその方法しかなかったと、アスランは言った。
その答えを聞いて合点がいった。
アスランは、何故か大人の人間を化け物と呼んで憎んでいる。
軍隊では敵に対し、「人間」ではなく、滅ぼすべき「悪人」だと教え込むと父さんから聞いたことがある。
恐らく強い洗脳状態でなければ、兵士として戦えなかったのだろう。思えば彼も戦争の被害者だ。
「ララは身体が弱いんだ。兄として、栄養のあるもん食べさせてやらなきゃいけないんだ。その為なら、俺は人殺しでも何でもやる。でも、この国にはもう食べる物なんて」
「じゃあ、探しに行こう!」
「……は?」
「ここよりもっと食べ物がある国。探せば絶対に見つかるよ!」
「この前まで世界中で戦争してたんだぞ。そんな場所あるわけ……そうだな。探すか。こんな腐った町で腐りかけていくのは俺も嫌だし。何より、濁ってねぇ綺麗な水も飲みてぇし?」
「決まりだね!」
洞窟に帰って、カタリスを出る旨をララに話した。
「私は兄さんの言うことに従うわ。だって、兄さんを信じていれば間違いないもの」
ララは快諾してくれた。
「どうせなら、東……太陽が昇る方角へ行ってみよう!」
そして、次の朝が明け切る前。治安維持部隊からくすねた一頭のロバの上にララを乗せて、僕たちはカタリスの町を出発した。
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