明け方。僕とアスランは、水を汲みに洞窟から出ようとした。


 その時、目の前に大きな影が塞がった。


 と、同時にアスランが後ろにぶっ飛んだ。


「お前だな?! あれは、お前の仕業だろ」


 男が凄まじい剣幕でアスランの襟首を掴んでいた。


「アジトからお前が出てくるのを見たって奴が居たんだよ」

「……言い掛かりはよせよ、証拠もねぇのに」

「証拠だァ? あんだけ人を躊躇無く殺せんのは、少年兵の生き残りのお前くらいだ」

「はっ、買い被り過ぎ」

「なんだと!」

「兄貴! どうやら、ここにはないようです」

「ちっ。おい! 明日までに返さねぇと、お前の大事な妹ちゃんを八つ裂きにしてやるからな!」


 兵士は目だけぎょろり動かしてとララを睨みつけ、取り巻きと共に去っていった。


 痩せ細った身体と異様な瞳のギラつきは、とてもじゃないが正気の人間に思えなかった。


「兄さん、危険なことはやめてって」

「大丈夫だって。あんなん、ただの麻薬ドラッグ中毒者の戯言だよ」

「でも、」

「ウィンク! 水汲み行くぞ」

「う、うん」


 川は洞窟から30分程歩いた所にあった。


「……少年兵だったんだね、アスラン」

「まぁな」


 家族を食べさせるにはその方法しかなかったと、アスランは言った。


 その答えを聞いて合点がいった。


 アスランは、何故か大人の人間を化け物と呼んで憎んでいる。


 軍隊では敵に対し、「人間」ではなく、滅ぼすべき「悪人」だと教え込むと父さんから聞いたことがある。


 恐らく強い洗脳状態でなければ、兵士として戦えなかったのだろう。思えば彼も戦争の被害者だ。


「ララは身体が弱いんだ。兄として、栄養のあるもん食べさせてやらなきゃいけないんだ。その為なら、俺は人殺しでも何でもやる。でも、この国にはもう食べる物なんて」

「じゃあ、探しに行こう!」

「……は?」

「ここよりもっと食べ物がある国。探せば絶対に見つかるよ!」

「この前まで世界中で戦争してたんだぞ。そんな場所あるわけ……そうだな。探すか。こんな腐った町で腐りかけていくのは俺も嫌だし。何より、濁ってねぇ綺麗な水も飲みてぇし?」

「決まりだね!」


 洞窟に帰って、カタリスを出る旨をララに話した。


「私は兄さんの言うことに従うわ。だって、兄さんを信じていれば間違いないもの」


 ララは快諾してくれた。


「どうせなら、東……太陽が昇る方角へ行ってみよう!」


 そして、次の朝が明け切る前。治安維持部隊からくすねた一頭のロバの上にララを乗せて、僕たちはカタリスの町を出発した。

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