第二章 洞窟の少女

 そこは、家というより、洞窟だった。


「お帰りなさい、兄さん! あら、お客様?」


 綺麗な赤髪を肩まで伸ばした色白の少女が僕らを出迎えた。


「ララ、紹介するよ。こいつは、えっと……」

「僕はウィンクルム。よろしくね!」

「ええ、よろしく」

「今夜はご馳走だぞ! なんと、ニシンの缶詰だ」

「わぁ! すぐご飯の準備するわね」


 ララは年季の入った小さなストーブを点火させて、鍋を沸かした。火種は、枯れ草を燃料代わりにしているらしい。


 そして、ボトルの中の薄茶色に濁った水を鍋に注ぐ。


「え? これを飲むの?」

「そうだけど?」

「何だよ、沸騰させてんだから問題ねぇだろ」


 兄妹の反応に僕は唖然とした。


(そっか人間はこんな水も飲むのか……)


 ララの手際は良く、あっという間に三人分の食事が揃った。


「……お前も、食え」

「いいの? 貴重な食料なのに」


 僕は驚いた。あれ程苦労して得た食料を当たり前のように分けてくれようとしていたから。


「俺はお前を信じる。だから、お前も俺たちだけを信じろ」


 アスランは言った。


「分かった」


 頷いて返事をする。僕は今日、初めて父さん以外の人間の優しさに触れた。


 燃料の節約の為に早めに寝床についた。地べたに絨毯を敷いただけの寝床はゴツゴツしていて決して寝心地が良いとは言えなかった。


 だからか。


 昼間、この手で絞め殺した人間の呻きと体温が何度も脳裏にフラッシュバックした。


(……う)


 胃の辺りに不愉快な感覚がある。


「どうしたの? 眠れない?」

「ごめん、ララ。ちょっとトイレ」

「外出て、右だよ」


 厠に辿り着いた途端、僕は吐き戻してしまった。


 消化しきれなかったニシンの缶詰が丸々穴の中に姿を表した。


「あ〜、もったいない」


(せっかくの栄養素が……)


 土を被せて汚物を埋めて、すぐに兄妹の元に戻った。


 彼らに余計な心配はさせたくなかったからだ。

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