赤髪の少年はアスランと名乗った。


「いいか? 化け物といえば、この世に化け物は二種類いる。殺しても簡単に死なねぇあいつらと、もう一つはあれだ」


 とある廃墟に身を隠しながら、アスランは一点を指差す。


「……あれは?」


 アスランが示した場所は頂上が崩れかけたタワーだ。


 その入口を銃で武装した大人たちが厳重に取り囲んでいる。


「……カタリス治安維持部隊。治安維持なんて名ばかりの、クソみたいな連中だ。ああやって、僅かに残った食料を独占してるんだ」


 アスランが吐き捨てるように言った。


「いつもは警備が厳重で近づけねぇけど、今日は手薄になるらしい。女の店に行くんだと。だから、乗り込むなら今夜だ」

「……え?」

「お前、俺の仲間になりたいんだろ? 化け物あいつらを殺せば、仲間と認めてやるよ」

「殺すって……」

「出来ないのか? ま、俺は一人でもやるけど」


 アスランはポケットから短銃を取り出した。さらにセィフティレバーを外しながら、言葉を重ねる。


「こんな時代に生き残ってる人間なんざ、俺を含めて、禄でもねぇ。でも、ララ……俺の妹は違う。たった一人の家族だ。俺は死んでもララを守りたい。だから、狩られる前に狩る。治安維持部隊やつらも、人間の皮を被った化け物も」


 銃のグリップを持つ手は、血管が浮き出る程に握られていた。


「……僕もやる」


 ついに、僕は答えてしまった。


 妹への愛を語りながら、冷たい瞳の奥に淡々と憎しみの焔を灯す彼の不安定アンバランスさが放っておけなかったのかもしれない。


 アスランは僕の返答に、やや驚いた表情をした後。


「交渉成立だ」


 とんでもない密約を交わしてしまったと、僕が後悔するよりも先にアスランが行動に出た。


 まず、彼は石を投げて見張りの意識を入口から逸らした。


 そして、音の音源を探す兵士の背後からジリジリと近づいてその首を絞め落とした。


 もう一人の首は、見様見真似で僕が取った。当然だけど、最期の瞬間まで温かった。


「銃を向けてくる人間は全て敵だ。だから、銃を向けられる前に殺すぞ」


 殺した兵士から銃と武器を奪い、建物の中に入る。敵の数は、十人も居なかった。


「な、なんだ?! お前ら……いったいどこかぐはっ?!」


 アスランは小柄な身体を活かしながら、あっという間に敵を倒していった。


 相手が完全に油断していたとはいえ、物凄い強さだ。

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