外国
耳のない国があったとして、当然その国には音もなかった。口のない国があったとして、当然味がなかった。眼がなければ色彩がなく、皮膚がなければ手触りがなかった、つまりシルクやレーヨンなんてものがない。上等なベルベットも、麻と綿の区別もない。
彼らは内臓があふれないように針の服を着ていた。皮膚がないってのはそういうことだ。囲っておかなければ、体の中の熱いものがどんどん流れ出てきてしまう。そうなれば、彼らのささやかな領土はすぐにいっぱいになってしまう。だから彼らは針を繋げて身にまとわなきゃならなかったし、国のなかから優れたやつを慎重に選び出して服職人を任じなきゃならなかった。割りのいい仕事だったが、かなりの慎重さが求められたね、国家の存続に関わる問題だったからだ。だから腕の悪い奴はすぐに処刑されたーーつまり服を脱がされたのさ。
そんな不便で野蛮な時代が数世紀続いたあと、彼らもさすがに学んだ。服を着ることを放棄するときが近づいていた。何千回目かの建国記念日の朝、最初のひとりが自発的に服を脱いでしまうと、たしかにちょっとした騒ぎにもなったし論争も巻き起こった。でもそれも長くは続かなかった。倫理は変化を迫られていたし、勇気は試されていた。革新的な発想の転換が求められていたんだ。
それで彼らは服を脱ぐことにした。あとにはこの、肥沃な土壌が残ったというわけさ。
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