雑貨店


 ……いや、その話をするまえにほんものの宝物というのがいったいどういうものなのかってことをきみにきちんと伝えておいたほうがいいだろうね。たとえばこんな昔話さ。つめたい石畳の上にその老婆がとうとう横たわったとき、あの街は変わった。バースデーケーキをカットするときみたいに、じつに大胆にまっすぐに亀裂が入って、たまたまそこに居合わせた気の毒なひとびとはその後永遠に行方知れずになった。街全体に凄まじい衝撃が走りすべての灯りは消えて建物の大半はがらがらと崩れた。鋭く尖った石の破片や、あるいは有害なガスの類にやられてしまわないようにひとびとは眼を覆って走ったものだ。それでなくとも恐怖のせいで誰もかれもまぶたをぎゅっと閉じていたがね。そんな中、ついさっき息絶えたあの老婆の、もう光がすっかり消えたがらす玉のような瞳だけがすべてをみつめていたのさ。ほら、ここにあるこれがそれだ。水晶体のこちら側から特別の光を当てれば、幕の上にそのときの様子を映すことができるよ。もちろん君が望めばの話。

 何かを得たいと思うなら何かを差し出さなきゃならない。そんなことはどんな馬鹿にだってわかるはずだ。簡単な交換の話だ。わざわざこんなところまで来たってことはさ、きみがルビーだのダイヤだの、世の中のけちどもが躍起になって集めたがるそんな二流のぶつを求めてるわけじゃないってことくらい、じゅうじゅうわかってる……ああぼくはね、きみが何を欲してるかってことに関してはちっとも興味がない、ただきちんと支払って欲しいってだけだ。こっちだって慈善事業じゃない、そりゃあなんだって売ることはできるよ、望み通りの色の皮膚や手垢のついてない新品の名まえ、傷ひとつない経歴だってぼくはきちんと用意できる。まだ見たことのない夢、まだ見たことのない未来と過去、どんなものだってここにはきちんと揃ってる。もちろんさ、信用してくれていい。

 いったい何の話をしていたんだっけ?

 そう、ぼくの商品は正真正銘の超一流だけれどその分やたらと骨が折れるんだ、馬鹿どもが指をまっくろにしてまで一枚一枚数えたがる、あんな紙切れなんて糞の役にも立ちゃしない、割に合わない、ぼくはそんなもの欲しくない。さあ、ほんものの宝物の話をしてあげるよ。ある双子の話さ。彼女たちは元から双子だったんじゃなかった、ほんとうは三つ子だった。けれどその三番目の姉妹ときたらふたりの肩のところにまたがるようにしてちょこんとへばりついていたんだ。じつにチャーミングなお姉さんというわけさ、手足はなくちょっとちいさめのオレンジみたいな出で立ちで、一対の瞳がいつもせわしなくあちこちをきょろきょろしていた。でもその命も長くは続かなかったね。だって右の妹と左の妹は非常に仲が悪かったんだもの。ふたりは早く離ればなれになりたかった。だからまんなかでいつでも自分たちをつなぎ合わせてるちびの姉が居なくなっちまえばいいって、ふたりともそう思ってた。だからある晩、ふたりして自分の肩にナイフを突き立てたんだ。

 ちっちゃな姉さんは悲鳴ひとつ上げなかったよ――だって最初から口なんてなかったんだものね――しばらくの間、罪つくりな妹たちはその姉さんを小さな桐の函に入れて大事に仕舞い込んでたそうなんだが、ついこの間やってきて、そら、そこに置いてった。新しい名まえと引き換えにね! そうさ、たぶん真新しい人生ってものを生きてみたくなったんだろう。新しい名まえ、新しい人生。全部いちから始めてみるってのはいいもんさ。だが安くない。だからぼくは、このすばらしい姉さんを頂戴したんだ。

 さあもう一度言うけどさ、こういうのがほんものの宝物ってもんだよ。おわかりかな? じゃあ早速、きみがいったい何を欲しがっててその代わりに何をぼくに呉れるのか、お訊かせいただこう。

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