窓辺
窓辺の台には書物がある。窓からの風に頁は繰られてゆく。最初から最後まで、また最初に戻ってまた最後へと、繰られてゆく。ただこの眼が機能しているのなら、その書物の頁はどれもこれも白紙である。死んだ魚の腹のような白である。
壁の高いところに切り取られた窓にカーテンはない。窓の向こうには水のいろのあかるい空が広がっている。
あるときふいに、白いチュチュをつけたバレリーナがやってきて、書物を前に、鳥を主題にした舞を舞う。やがて鳥が翼を折りたたんでねむる場面がくると、舞い手は器用に脚を伸ばして座り、両腕を床につけて貝のように体を折りたたんだ。いや、そうではない。ただやはり、そこには書物があるだけだ。そしてやはり風が、白い頁を後ろに前に、繰ってゆく。
ただそれだけのことだ。
眼窩の街 富永夏海 @missremiss
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます