窓辺


 窓辺の台には書物がある。窓からの風に頁は繰られてゆく。最初から最後まで、また最初に戻ってまた最後へと、繰られてゆく。ただこの眼が機能しているのなら、その書物の頁はどれもこれも白紙である。死んだ魚の腹のような白である。

 壁の高いところに切り取られた窓にカーテンはない。窓の向こうには水のいろのあかるい空が広がっている。

 あるときふいに、白いチュチュをつけたバレリーナがやってきて、書物を前に、鳥を主題にした舞を舞う。やがて鳥が翼を折りたたんでねむる場面がくると、舞い手は器用に脚を伸ばして座り、両腕を床につけて貝のように体を折りたたんだ。いや、そうではない。ただやはり、そこには書物があるだけだ。そしてやはり風が、白い頁を後ろに前に、繰ってゆく。

 ただそれだけのことだ。

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眼窩の街 富永夏海 @missremiss

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