🍮🍮🍮(ep04)
猫鰯
犯人は、おまえだ!
深く、深~~く、ため息をついた。なぜなら……
「誰だよ、俺のプリン食ったヤツは?」
風呂上がりの楽しみにとっておいたプリン。カラメルソースとか生クリームとか余計なものがかかっていない、卵と牛乳と三温糖だけで作った極上のプレーンなプリンだ。
「犯人は、おまえだ!」
そう、『誰だよ』と言いながらも犯人は一人しかいない。それはわかっている……うちの
「いいじゃないよ、プリンくらい。犯人とか言っちゃって、大げさね」
「いいわけないだろ。何で勝手に食うんだよ。超久々なプリンなのに!」
牛乳は八ヶ岳高原の濃厚絞りたて低温殺菌牛乳。卵は
地元の洋菓子店が一日限定数で販売しているプリンで、開店と同時に売り切れ必至の、俺みたいな会社勤めの人間にはほぼ入手不可能な一品だ。
「誕生日プレゼントにもらったんだぞ、これ……」
――数少ない友人達が、俺の為に手配してくれたプリン。
――こっそりと好意を寄せているあの娘が選んでくれたプリン。
――ゆるせねえ。こればかりは親と言えども許せねえ!
「大げさねえ。ほら、100円あげるからコンビニで買ってらっしゃい」
「ちょ、今時100円でコンビニプリンが買えると思ってんのか?」
「ったく、うるさい子ね。じゃ、500円あげるから母さんの分も買ってきて」
「なんだよ、まだ食う気かよ。って、そうじゃなくて。どうしてくれんだよ、俺のプリン」
「何が『俺のプリン』よ。どうせあの娘絡みなんでしょ?」
「う……」
くそ、読まれてる。いやそもそも何で勝手に俺の物食うんだ? あの娘から貰ったのがわかっていて食うって事は、そこに何かしらの意図でもあるのか? 破局させようってのか? まだ始まってもないけど。
「大体何よ、あのプリンは。カラメルも何も乗ってなかったじゃない」
「それがいいんだよ、牛乳のコクと卵の旨味を三温糖が上品にまとめてんじゃねえか」
と、味の解説をしながらも、俺は食べてないからわからないんだけど……
「上品だか赤貧だか知らないけど大げさすぎ」
「な……うっせ、給料安くて悪かったな。だ、大体、今は給料の話は関係ないだろ」
「給料が良ければプリンひとつで騒ぎゃしないよ」
……騒ぐんだよ、俺は。悪いか。
「そもそも味しなかったよ、何もかかってないし」
「だから、プリンそのものの味を楽しむんだよ。この味音痴が!」
「親に向かって味音痴とか何言ってんだい。私が味音痴ならアンタも味音痴だよ」
なにそのめちゃくちゃ理論は……
「あんた、プリンに醤油かけてウニの味とかやってたじゃない」
「……何年前の話だよ、それ」
「麦茶に牛乳いれてコーヒー牛乳とかもやってたわね」
「だから話そらすなって!」
だめだ、屁理屈じゃ勝てん。こればかりは流石俺の親だ。風呂上りだってのに、余計な汗かいてしまったわ。
「もういい、風呂入ってくる!」
「今出たばかりでしょ。ガス代の無駄よ」
あ~もお、ムカつくな。今度寝ている時に“ねりからし”を鼻に詰めてやろうか? などと考えている時、玄関のドアが開いた。妹が帰って来たらしい。
「ただいま~」
「おい、珠子、聞いてくれよ」
「……兄貴いつから裸族なんだよ。服着ろ、アホ圭太」
我が妹ながら口が悪い。この母親にしてこの子ありだな。って俺もか。まあ、確かにバスタオル一枚だけどさ。そんな事はどうでもいい。
「プリンがさ、俺のプリンがさ~」
「なんかわからんけどうるさい。プリンならやるから」
と言って、あの洋菓子店の紙袋を手渡してきた。
「……これは。え……マジか!? なんでオマエが持ってるの?」
「お得意先の人にもらったんだ」
その時、俺には妹が天使に見えた。なんなら女神でもいい。
「なんかその人、私に気があるらしいけど~」
「あら珠ちゃん、そんな人からもらって大丈夫なの?」
「ああ、いいのいいの。イイ人だよ、どうでもイイ人」
「……ひでぇ」
「とりあえずくれるって言うからさ。ヤツ自体はノーサンキューのアウトオブ眼中」
その時、俺には妹が悪魔に見え……。
でも、奇跡的にお目当てのプリンが手元に舞い込んできた。あの娘がくれたものじゃないけど、そこは気の持ち様って事で。
「これで明日、ちゃんと感想を伝えられる……」
「ちょと、兄貴なんで半泣きなのさ」
「圭太ったらね……」
……解説しないでくれ。
「なるほどね。で、兄貴」
「なんだよ」
「何かけるの? 冷蔵庫にカラメルも生クリームもあるよ」
「何もかけねえよ。これはこのまま、プレーンのまま食べるんだ。それが最高で至高なんだ。何かかけるくらいなら食わねぇ! わかったら邪魔すんな!」
「はいはい、ご勝手に~」
とうとうこの時が来た。椅子に深く座り、姿勢を正してプリンに向き合う。蓋を開け、一口スプーンで
「いただきます」
……俺は声をかけた。
完
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【代表作です】
・ジュラシック・ティル ~猫耳転生と恐竜少女~(イラスト有り)
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