恋する目盛りのキッチンスケール

@ramia294

第1話


 私の旦那さま、とてもイケメン。


 抱きしめられた、胸の温かさ、

 春の陽射しの中。

 私の身体、真夏のアイスクリーム。

 私の頬は、深まる秋の紅葉。

 私の頭の中は、降り積もる雪。


 新婚1年目まで、後少し。

 私は、飽きられていないかしら?


 彼の職場にも、女性の方々。

 後輩の可愛い女の子、

 その髪、その笑顔、春風に揺れる。


 賢い先輩の女性、

 秋に、憂う瞳。

 燃え立つ紅葉の紅に染まる唇。


 旦那さま

 誘惑の日々、

 耐える事、出来るのかしら?


 不安な買い物帰りの私、

 気がつけば、

 シャッター通り商店街。

 雑貨屋さんに声をかけられました。

 

 こんなところに、いつの間にお店?


 店主に勧められた、キッチンスケールとお弁当箱を買ってしまいました。

 恋の重さを量るキッチンスケール。

 説明する店主のお話。


「出来たてのお弁当の重さを量り、スケールに記録。旦那さんが持って帰ったお弁当箱の重さが、出来たて弁当と同じなら、それは旦那さんのあなたに、恋する気持ちの重さ」


 不安で押し潰されそうな私は、藁にも縋る気持ちで、キッチンスケールとお弁当箱を頂きました。スケールに、不都合が起きるといつでも交換してくれるそうです。


 翌朝から、早速お弁当作り。

 愛妻弁当1号、

 重さは、きっちり量りました。

 しっかり記録用のハリ合わせました。

 お弁当の重さのハリは、真上に。

 恋の重さのキッチンスケールは、アナログ。

 ハリが、示す恋の重さ。

 揺れるハリ。

 旦那さまの心?

 それとも、私、

 の不安?


 旦那さまの帰りを、

 待ちわびる、玄関マットの上の彼のスリッパに描かれた猫…

 と私。

 

 お日さまとお月さまが、西の空でハイタッチ。

 夜明けまでのしばらくの間、

 お日さまの光を独占するお月さま。


 旦那さまの心、私は独占出来ているでしょうか?


 持ち帰ったお弁当箱の重さ、

 朝と変わらず。

 私の恋する旦那さま。

 その気持ち、

 変わらず。

 ホッとする私。


 その日から、旦那さまのためのお弁当作り、楽しくて嬉しい。

 けれど、眠いひと時。

 楽しんでいるのに、アクビがひとつ。


 その日も次の日もキッチンスケールの恋する重さ、変わらず。

 私たち、いつまでも新婚。


 ところが、ある日から、

 目盛りに変化。

 徐々に少なくなり始めました。

 1年を待たず、

 私、飽きられてしまったかしら?


 心変わりのお相手は、

 春風に揺れる笑顔?

 それとも、夏の終わりを憂う瞳?


 お買い物。

 乗せたカゴが、空っぽのまま。

 グルグル回るカート。

 スーパーの磨かれた床。


 明日のお弁当、

 思いつけない私。

 グルグル回る頭の中、曇る心模様。

 

 気づけば、見慣れた石畳。

 シャッター通り商店街。

 雑貨屋さんに声をかけられました。


 キッチンスケールの目盛りは、そろそろ変化ありましたか?


 私の涙、重力に負ける。


 旦那さまが持ち帰ったお弁当を量ると目盛りが、ゼロになりましたと涙と共に訴える。


 では、これと交換してください。

 このキッチンスケールは、愛の重さ計るスケール。

 明日からこれを使用してください。


 急いで家から持ってきた恋する目盛りのキッチンスケールと愛の目盛りのキッチンスケールを交換。


 店主は、スケールを確認して、交換してくれました。


 翌朝、揺れる笑顔や憂う瞳に負けじとお弁当づくり、頑張りました。

 待ち遠しい、その夜。

 黄色い光が、私の家のキッチンまで、滑り込む。

 空の上の心配そうなお月さま。

 と、彼のスリッパの猫。


 愛の目盛りキッチンスケール。

 旦那さまの愛、記録用のハリと重なりました。

 目盛りは、真上を。

 出来たてのお弁当で合わせた、目盛りを示すキッチンスケール。

 旦那さまの恋は、愛へと形を変えて、私を包み込んでいました。


 喜ぶ私。

 有頂天で、翌日のお弁当の重さを計る時、気づきました。

 目盛りは、さらに続きます。

 クルマの回転計のレッドゾーンの様に、赤い円弧のライン。

 これは何?

 恋のスケールには、無かった赤のライン。

 謎のレッドゾーン。

 愛のレッドゾーン?

 振り切ると良くない事が、起きるのかしら?

 

 とりあえず、お弁当と同じ重さ維持を目標。


 結婚記念日まで、1週間。

 その日から、

 恐れていた事態発生。


 愛の目盛りが、レッドゾーンへ突入。

 赤の円弧のラインが、虹色へ。

 警告?

 あわてる私、

 シャッター通り商店街へ。

 店主に、相談。

 

 店主。


「おめでとうございます。これから先は、全てあなたたちで」


 愛のキッチンスケール、回収されました。

 お弁当箱は、そのまま。

 代わりに、デジタルのキッチンスケールと地図。

 店主は、帰る途中に行きなさいと、私は、その地図を頂きました。

 商店街を抜け左へ、

 坂道の、その先には…、


「えっ!」


 これって、私、もしかして?

 

 旦那さまの帰りを待ちわびる、

 私とスリッパ…

 の猫。

 と、窓から覗き込む月の光。


 帰宅する旦那さま。

 私、お昼の出来事伝えました。


 旦那さまの涙、

 重力に負け、

 私の手を握り、離さず。


 早く会いたいピカピカの笑顔。

 旦那さまと私、

 待ちわびる3人の楽しい時間。


 増える、私たちの家族。

 


            (⁠.⁠ ⁠❛⁠ ⁠ᴗ⁠ ⁠❛⁠.⁠)


  




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