第32話 お粗末な笛

梅の木学問

 読んでいるうちに僕の中に籠っていたわだかまり、上気した悪性の腫瘍が稀少ながらも溶解し、堕ちた雫が花となり、その悪の華が乱れ咲いたような心地がする。


 こんなどうでもいい青い過ちで思い悩むのも年頃のせいなのか、少年期の羞恥心の静止画として、知った羽目じゃないけれど、咆哮をともに携えられる本が見つかって良かった、と満足した。


 なかなか、難解な語句がたくさんあって読みづらいけれど、読んでいる僕自身が高められたような、そんな経過は如何わしい結果なのに、勝手に自惚れて、本当に馬鹿みたい。


 


 紅梅の花の香りが儚げに零れる梅月夜、コソコソと隠れて読む本に出会えて本望だと思えた。


 僕が最近、凝って読むような本は大人には隠したいような淫靡で耽美且つ、不吉な悪魔の招待状のような内容の本も古今東西構わず、多々あった。


 夢見心地になり、甘酸っぱい恍惚感に浸りながら秘密のノートを抽斗から取り出し、地獄の季節の一節を写経してみる。


 ここ数年でこの世界に一つだけ通用する、少年による、少年への詩想ノートもだいぶ分厚くなった。


 


 まだまだ、梅の木学問には程遠いよ、僕だけの秘密のノートなんて、古臭いな。


 伸びる息遣いに、デガダンス気取りの世紀末に取り残されたのかもしれない、僕は、とナイフにこびり付いた血を見ながら薄暗い、宮廷の梅園にも似た、淡い照明の中でぼんやりと過ごした。





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