第25話 その夜、無感情


 ここ二、三日、――それで僕は此岸と彼岸を静止するため、希望と腐敗し、流れ出た血を観賞している。


 血に慣れるためだ。


 


 この残酷な戒律で縛られた世界を征伐するためには血で怖がっちゃ駄目だから、と僕は僕に唆している。


 試しに手首を切ると薄い皮膚からは血が滲んで、止まらなく流れ出した。


 


 僕はその夜、無感情だった。


 


 それも、嗚咽もドロドロに溶けるような泥仕合の無感情。


 視線への処置もとりあえず施し、今では腕が絆創膏だらけで、ちょっとおかしいのだが、確かに僕は周囲から心配されている。


 それでも傷が小さく塞いだら、定期的に切っていた。


 あの人も僕の手首の荒傷に気づいて、あまり息子の心配なんかしないあの人が悲痛を含めた眼差しで言った。



「どうしたの? その傷」


 焦って、包帯を持ってきたときはちょっと驚いた。


 母さんから介護され、何となくこそばゆかった。


 そんな優しさがあったから、あんな忌まわしい淫夢を見たのだろうか。


 僕は僕を懺悔するために血に慣れよう、と思えた。



「それを世間ではリストカットというの。辰一君って女の子みたい」


 それをむやみに教え込んだのはあの清羅さんで、全然そういった、カルチャーを知らなかった僕は清羅さんの顔をいつの間にか、強く睨んでいたように目線が上回っていた。


「僕は弱くない」


 夕日影の最中、がむしゃらに向きになって言い返し、その場は波紋が大きくならなかったけれど、押し寄せる不誠実な気まずさが手に取るように覚えた。


 

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