第21話 死別の旅路


 こうやって、僕が死の欲動へ歯向かえば……、僕の壊れた身体は尺取虫が背中や臀部に這うようだった。


 ふふふ、その血の鮮やかさのこと。


 また、僕は不都合なまでの死生の禁句を呟いている。


 


 ああ、死別の旅路へ向かうのならなら、春夏秋冬のどの時期が適格だろう。


 どうせ、死命を掌握し、諸悪の根源のあの世へ逝くならば真夏の残暑厳しい、天の川が見事に咲く熱帯夜がいい。


 


 こんな冬枯れ厳しい、霜降月に死にゆくのは何となく、みっともない気がする。


 天心満ちた小糠星瞬く、満天の夏の晦日の夜がいい。


 旧暦の七夕の日、星合にその相手がいない相対死の真似事を実行すればいいんだ。


 その頃は秋口に立つ、赤蜻蛉が空を泳ぐ晩夏だろうから、ちょうど手ごろな時期だろうし。


 


 来年は受験生だが、そんな無謀な非道を行う暇があるのか、皆目、見当も付かなかったけれど、どうせ、僕は市井の監獄にぶち込まれるんだ。


 知った話じゃない。


 猪の剛毛が冬風になびく頭は伯父さんが手慣れているからか、綺麗に切断できたようだった。


 その血が付着した頭を伯父さんはトラックの上に乗せ、晴れ晴れとした表情でようやく言えた。



「もういいから、話していいよ。山の暮らしに慣れとかないと。これから、銀鏡神社大祭に奉納するから」


 僕はまだ猪の頭を、命の欠片を失った御贄を大きく眦を決して、見張っていた。


 

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