第20話 山村の暇、冬夕焼
伯父さんの気迫は神懸っている、と僕は山村の暇で沸々と思う。
今でも、山には何かいるような、気配を察する夕暮れも多い。
遠い彼方の御代の神話で活躍された神々が降臨され、まだその神々の末裔が息を潜めてらっしゃるような気がするからだ。
伯父さんが深呼吸して力を目一杯、入れて猪の頭の部分に大型ナイフを取り出す。
その前に猪の身体は炬火で炙って綺麗に毛皮を削ぎ落とされ、丸裸になっていた。
切り取った体毛は一か所に集められ、それを僕は律儀に片付ける。
「今から声を出してはいけないよ」
伯父さんは猪の頭を切り出した。
見る見るうちに生命の証である血が流れ出す。
血潮が地面いっぱいに広がり、生々しい肉片が見え出した。
僕はその不吉な光景をうっとりと見張っていた。
その血の鮮やかさのこと。
その真紅の血はまるで冥界の女神が流した血の涙のように一切衆生を拒絶していた。
僕は続々と煮え出すような淫靡且つ、腐臭に満ちた興奮に支配された。
図書館で借りてきた古びた本で、真紅の雛罌粟の写真を初めて見たときの、うっとりした甘美さもこうして、また味わえるように僕は正論のない威信を求めた。
生贄となった純真無垢な乙女が狡猾な罠に落ち、籠城で囲い者に深く、熱く、抱かれた際の涙の代わりに流す血の涙のようにそれは、深々と地底深くまで流れ落ちていく。
このありふれたこの俗世からその一つしかない琴線が、プツリと傲慢なナイフで、僕の心にたかる蜉蝣の天鵞絨のような羽が切り裂かれると焦心は穏やかになった。
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