第9話 プルシャンブルー、秋晴れ


 千切れ雲さえもない、プルシャンブルブルーを溶かしたような、完璧な秋晴れになった、文化祭の当日に、あの人は身体的にも精神的にも調子を崩し、絵に描いたように参観しなかった。


 その日は勇一たちと学校へ登校し、僕もまた落ち込んだ、ブルーな気分を切り替えた。


 文化祭は小学校の体育館で、合同で行われ、午前の部と午後の部に分かれ、午後からマラソン大会があり、昼食には来訪者にカレーライスが振る舞われる。


 ギリギリになった本番前も念入りに調整し、ラストの部分も調整した。



「へえ、磐長姫が嫉妬で狂うんじゃないんですね。瓊瓊杵尊を許すんですか。よく考えましたね」


 清羅さんにこの前の不義の件をそれとなく、尋ねたら本人はからっきし、覚えていなかった。


 そもそも、その日はみんなと演劇の練習をしていたから図書室には行ってもいない、と真顔で彼女は言う。


 その真顔の彼女の発言を耳に挟んで、僕はしょうもない、とある悪夢でも見たんだろうか、と恐る恐る周りをぎこちなく窺った。


 僕が隠した父親の件で疎ましく見るような視線の人はいなかった。


 どうしようもない、大きな勘違いをしていただけ、ああ、疲れが貯まっているんだ、と僕は奮い立たせる。


 とにかく気にするな。


「辰一君は二枚目役だね。俺は殿さまだよ。誰でもできるし」


 後輩の一人が直前まで不満げに呟いていて清羅さんたちが笑っていた。


 いよいよ、本番近くになり、衣装に着替え、長友先生が渡した古代衣装を身に纏う。



「西都原の博物館から借りたんだよ。ほら」


 下に薄着を着用し、上から貫頭衣を羽織り、腰紐で結べば完成だ。


 水浅葱色の勾玉も首から下げ、美豆良風に予め、長めに伸ばした髪の毛を結んだ。


 結び目にはまたもや、瑪瑙の勾玉をぶら下げ、その頭上からさらに翡翠の勾玉をあしらった金色の冠をつけた。


 結構、本格的なレプリカだと気付かされる。


「辰一君はすぐに着替えないといけないから大変だろうけれども、練習したとおりにやればいいさ。最後まで頑張りなさい」


 長友先生からもう一枚渡され、それは爵松丸役の甚平だった。


 水縹色の安物だ。


 さすがに烏帽子や狩衣は手に入らなかったからだろう。


 


 螢ちゃんはどうなんだろう、と辺りをキョロキョロと探していると物置部屋から桜の姫を演じた君はお出ましになった。


 君は桔梗色の喪のスカートを着け、撫子色の打掛をその細見の体躯に身を纏っていた。


 同じように瑠璃色と若苗色の勾玉をふんだんにあしらった金色の冠を被っていた。


「辰一君、似合うかな?」


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