第7話 最果ての少年


 北朝の軍が迎え撃ってためだ。


 まだ、少年だった爵松丸はこんな人里離れた山奥で天満月をご覧になりながら、どんな種類の物思いに耽られたのだろうか。


 台詞には爵松丸が深夜に森の中で彷徨するシーンがあった。


 懐かしい京の都の春の夜の夢の如し、繁栄を思い出し、人知れず、少年は山林に閉ざした秋月の下で、烏の濡れ羽色の御髪をはらはらと揺らめかせながら、その血の涙を流す。




『――父上は悔しくはないのですか。私にはこの世とは無常なだけです。北朝の者と戦い、疲れ、ここまで来た西の果てが斯様な隠れ里に逃れるしかないとは。都の月も此方で見る月も斯様に美しき栄耀であるのに』




 初嵐に遭った、秋霖の中で父に会えぬ、天涯孤独の少年は何を思い巡らしたのだろう。


 僕は何度も悪者の手下に縋るように朗読した。


 幾度ともなく震えてくる。


 目頭が熱くなって台本を置き、夜更けの秋風の星の外へ出た。


 


 二人の役を演じるのは思ったよりも難しく、それなりに戸惑いを覚えた。


 こんな小さく纏まっている僕はやってのけるだろうか、と不安感が燻ぶる。


 


 森へ行きたい、太古の森の闇の息吹を感じたい、と思い立って、小走りで僕は裏山の無造作に彼岸花が木陰で咲き乱れる木立へ向かった。


 秋の些少な星々の帳を見上げながら、そして、いつまでも時間が止まってしまえばいい、と小さな星の感想を述べた。


 


 こんな禍々しい、妖霊星のような妄執も消えてしまえばいい、とじれったく焦がれながら。


 どうして、あの人の死命を呪詛する毎夜があるのか、その淫らな反応に拒絶する僕もまた、本能的に存在している。


 目を閉じて思い続けるだけで、秋口の夜風と密着した下着が少年の情動によって清らかに汚れ、その星の結合によって足先がじりじりと熱くなるまで夜長の褥で塞ぎ込む。


 

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