第006話「逃走」

 暗がりの道を真弓は懸命に走った。動きやすい服装とはいえ女子の体力ではそれほど走れない。

 通りを抜け商店街に出る。慌てて走った先は玄太郎の待つ方向とは逆であった。


(早く、戻らないと!)


 焦るばかりでうまく頭が働かない。

 真弓は泣きそうになりながら道路を走る。

 何度も足がもつれ何度も転んだ。

 見つからないようにと狭い路地を走ったりもしたから体中擦り傷だらけだ。

 目の前にゾンビが現れた。

 手元に武器はない。

 今、真弓にできるのは逃げることだけだ。

 ゾンビたちが走り向かってくる。昼の動きから想像もできないスピードだった。

 飛び掛かってくる。

 とっさに身をかがめるとゾンビはそのままショーウインドーと激突。

 ゆらりと何事もなかったかのように立ち上がった。


「ひいっ!」


 ゾンビとはいえ身体の強度は普通の人間と変わらない。皮膚がズタズタに裂け肉が飛び出している。血が流れていないのが不思議なぐらいだった。

 真弓は気が遠くなりかけながらも気力を振り絞って立ち上がる。

 

 ガシャン!


 右側から音がした。

 振り向くと店のシャッターを突き破ってゾンビが現れた。

 真弓は声を失いつつ後ずさる。

 逃げ道は後方のみ、しかし急いで走りだせば奴らはすぐに真弓に襲い掛かるだろう。


 ドクンドクン!


 鼓動が高鳴り、鼓動で何も聞こえなくなる。


 ズルリズルリ


 何かを引きずる音。見れば後方から足をひき引きずり近づいてくるゾンビがあった。

 退路を絶たれた。

 このままではゾンビたちの餌食になってしまう。

 夜のゾンビたちは凶暴だ。昼間のゾンビはかじられるだけで済むかもしれないが、夜のゾンビたちは肉を食いちぎる。もし仮にゾンビ化してしまった場合、身体の欠損が四割を超えてしまうと【蘇生】の時に支障をきたしてしまう。

 それだけではない。世界を救うために三人しかいない人員が二人になってしまうのだ。

 こういった状況になった場合、救出は行わないというのがみんなで決めたことだった。

 一人を救うために他の二人を危険な目に合わせるわけにはいかない。

 【蘇生者】だけでは人類復活はあり得ない。世界を元の状態にするためには真弓たちの存在は不可欠のなのだ。

 ゾンビたちが目の前に迫る。

 真弓は目をそらさずゾンビを見据える。

 すでに逃げ場はない。

 それでも諦めたくはなかった。

 一体のゾンビが近づいてくる。

 マモルだった。


(ごめんねマモル。お姉ちゃん約束守れなかったよ)


 マモルの手がゆっくりと真弓の肩に迫っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る