第005話「襲撃」

 ◆ ◆ ◆ ◆


 弓を背に真弓は町の通りを走る。

 できるだけ気配を殺し、先ほど人影を見た通りに差しかかった。


(マモル!)


 角を曲がる――だが、マモルの姿はない。

 慌てて周囲を見回すがマモルどころかゾンビの姿すらない。


(気のせいだったのかな……)


 真弓がそう思ったその時だった。


 ピピッ!


 真弓の腕時計が小さく音を発する。

 夕刻の五時のアラームだ。


(そうだ。もう戻らないと)


 玄太郎を待たせている。【蘇生者】は襲われないといってもゾンビが近くにいると玄太郎たちは身体の動きが鈍り動けなくなってしまう。直接襲われる可能性は低いかもしれないがそのまま放置というわけにもいかない。

 真弓は踵を返した。

 目の前に人影があった。

 玄太郎ではない。


 ――それは虚ろな目をした彼女の弟――ゾンビのマモルだった。 


「マモル!」


 思わず声をかけてしまいハッとする。

 ゾンビは音に敏感だ。

 周囲がざわめきだした。

 このままではここにゾンビが集まってきてしまう。


(せめて、マモルだけでも)


 真弓は矢を取り出し弓を構える。矢の先には吉田が開発した特殊な矢じりが取り付けられていた。目標物に矢が当たると中の液体――三渓の湯――を目標に注入するように作られている。真弓たちはこれによってゾンビたちを【無効化】し、回収しているのだ。

 【無効化】されたゾンビは【蘇生者】達でも触ったり回収したりすることができる。


 マモルとの距離は五メートルほど、的は大きく弓道部の真弓にとって外す距離ではない。

 しかし――

 射る寸前に真弓のすぐ隣、美容室のドアが吹き飛んだ。

 中から現れたのは美容室を営んでいた二人の夫婦のゾンビ。虚ろな瞳が真弓を見つめる。見えていないはずの瞳に見据えられ真弓の足がすくむ。

 一瞬の隙をついてマモルが襲い掛かる。


「きゃっ!」


 弓を弾かれ真弓はその場に尻もちをついてしまった。


(しまった!)


 夕刻になるにつれゾンビたちは身体能力が向上する。二人のゾンビに気を取られマモルの接近に気づかなかったのだ。


(逃げないと!)


 迫るゾンビに恐怖を感じつつゆっくりと後退する。だが恐怖で足はもつれ思うように動けない。

 彼女の手に何かが当たった。

 空き缶だ。

 真弓は空き缶を道の反対側に放り投げた。


 カンカンカララン


 予想以上に大きな音を立てて空き缶がアスファルトの上を転がる。

 ゾンビたちがそちらに気を取られた一瞬の隙をついて真弓は立ち上がり走り出した!

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