第591話 次なる目的地へ

 ジオラマにも満足したようだし、私はココナナと共に彼女の魔導鎧機マギフレームの修理作業を行うとしよう。終わる頃にはヒローの子供達を迎えいに行く時間になっている筈だ。


 ココナナは焼き切れてしまった回路を修復するようなので、私は外装の修復に着手しよう。

 そうだ、どうせならただ修復するだけでなく改良もしてしまおうか?


 勝手にやるのは良くないだろうから、一応確認は取っておこう。


 「修復するうえで何か要望はある?どうせなら改良してしまわない?」

 「非常にありがたい申し出ですが、この子は私の手でのみ改良したいので…」


 ココナナは自分の魔導鎧機の改良は自分1人で行いたいらしい。

 名前を付けて呼ぶほどに愛着を持っているのだから、そのこだわりは人一倍どころではないのは言うまでもない。


 素直にココナナの魔導鎧機"サニー"の外装を元通りに修復しよう。勿論使用している素材もそのままだ。私の魔力を浸透させないように注意しないとだな。

 素材や形が同じでも私の魔力が浸透するだけで材質が変質して大幅に性能が向上してしまうからな。


 ううむ…。しかし、やはりサニーはカッコイイな。

 私もオーカドリアのボディの参考にしたいのだが、サニーの外見はオーカドリアの好みではないようなのだ。


 オーカドリアはどちらかというと線の細い外見を好んでいる。

 そうだな。リオリオン二世のマギモデルが私の好みに近く、グォビーのマギモデルがオーカドリアの好みに近いと言ったところか。体を動かしやすいボディを求めているのだろう。

 確かにサニーのような厳つい鎧姿ではどうしても動きが制限される部分が出てきてしまう。きっとオーカドリアはそれを避けたのだ。


 つまり、厳つい鎧姿でも問題無く人間と同じ…いや、それ以上の可動域を持つのならば、オーカドリアだって問題無いのでは?


 「ノア様?何かお悩みで?」

 「ん?ああ、私の好みのデザインと友達の好みが合わなくてね。多分可動域が問題だと思うんだ…」

 「詳しく聞かせていただいても?」


 修復を行いながらも、かなり悩んでいるように見えたのだろう。ココナナから声を掛けられた。

 折角なのでいい案が無いか相談したのだが、一通り事情を伝えるとココナナは腕を組んで渋い表情をしだしてしまった。


 そして非常に言い辛そうな表情でこちらを見つめている。


 「大丈夫だよ。どんな内容であれ、貴女のアドバイスは素直に受け入れるとも」

 「はぁ…。で、では、僭越ながら…。その御方は、恐らく機能性よりも単純にデザインがスマートな外観を好んでいるように思えます」


 遠慮せずに思ったことを伝えて欲しいと願い出れば、ココナナの口からショッキングな内容を伝えられてしまった。

 いや、私もその可能性が高いとは思っているのだ。

 だが、確定していない以上小さな希望を持っていても良いんじゃないかと思ってだな…。


 「ノア様。悪いことは言いません。ご友人に喜んでいただきたいのであれば、ご友人が望む造形にするのが1番です。少なくとも、最初に渡すのであれば」


 やっぱりかぁ…。

 そうだよなぁ。見た目は大事だものなぁ…。

 良し、少なくとも3号機の外観はオーカドリアが望むような外観にしておこう。


 だが、私は諦めたわけではない。3号機の製作と並行して私好みのボディを作ってみようと思うのだ。

 それでオーカドリアが気に入ってくれれば万々歳だ。気に入らないなら気に入らないでラフマンデー辺りが使用できるように改造してしまおう。



 サニーの修復も無事終わり、その後は紅茶を飲みながら談笑して時間を潰して時刻は午後5時前。ヒローの子供達を迎えに行く時間となった。


 「それじゃあ、そろそろお暇させてもらうよ」

 「はい!どうもごちそうさまでした!」

 「サニーの修復、本当にありがとうございました!」

 「なに、サニーは私が壊してしまったようなものだからね。次に会う時を楽しみにしてるよ」

 「「「はい!」」」〈ピヨヨー!おたっしゃで~!〉


 今回の別れは随分とあっさりした分かれとなった。

 まぁ、会いたくなったらいつでも会いに行けるだろう。それに、近い内にまた会いに行くかもしれない。


 ヒローの子供達を迎えにまずは騎士舎へと向かわせてもらった。

 理由は単純。騎士の方が時間に厳しいからだ。

 錬金術師に限った話ではないが、研究を行うものというのは、何かと時間を忘れがちである。私も人のことを言えたものではないが。

 ヒローの娘達もまた、錬金術に夢中になり時間になっても表に出てこなかったことがあるのだ。というか、遅くなった時の方が多い。


 そんなわけで騎士舎に向かってみれば、ヒローの長男・ケーンは既に騎士舎の入り口で迎えが来るのを待っていた。

 顔を出せば信じられないものを見たかのような表情をしていたのは…まぁ、何の連絡もなかったのだから仕方がないだろう。

 リガロウが私の隣にいるのも喜んでいる理由かもしれない。ヒローの子供達は3人共リガロウが大好きだったからな。


 「久しぶりだね。今日は私の写真集を受け取りにこの街に来てね。ヒローの屋敷で一晩泊ることになってるんだ」


 私がこの街にいる理由と今日の宿をどうするか伝えれば、長男は非常に喜んでいた。 

 ヒローの私兵や騎士達にはヒローから話が伝わっていたようで、彼等は私の姿を見てもあまり驚いた様子はなかった。


 「それで騎士の方々がみなさん今日は嬉しそうな表情をしていたんですね!」


 錬金術ギルドに向かう途中、ケーンに騎士達が私の姿を見て驚いていない理由を訪ねられて理由を告げれば、とても納得した表所をしていた。

 私のことを秘密にされていたことに腹を立てるでもなく、小さく笑っている辺り、この子には騎士達が自分を驚かせてあげたいという感情が理解できたのだろう。とても利発的な子だ。親に似たのだろうか?

 少なくとも、次期党首としての人柄は申し分なさそうだ。


 錬金術ギルドに到着すれば、ヒローの娘達である長女・チカと次女・ロナがちょうどギルドの入り口から顔を出してきたところだった。

 彼女達が迎えの騎士を探そうと首を動かした直後、リガロウの姿を確認してやはりケーンと同じくとても驚いた表情をした。


 そしてすぐにリガロウの隣にいた私の姿も確認する。

 チカとロナはケーンのように固まらずに一目散に私の元まで駆け出してきた。ケーンも一緒だから私が迎えだと理解したのだろう。


 「お久しぶりです!こんなに早く会えるだなんてとっても嬉しいです!」

 「中央広場にはいってみましたか!?ノア様の絵がかざってあるんです!」

 「うん。見せてもらったよ。良いパビリオンを建てたね」


 娘達を抱きとめて頭を撫でてあげよう。

 なお、ケーンも抱きしめて頭を撫でようかと思ったが、顔を真っ赤にされて遠慮されてしまった。もう異性を意識してしまう年頃らしい。人の成長とは早いものだ。それとも、気になる相手でも見つけたのだろうか?


 まぁ、その辺りを聞くのは野暮というものだな。子供達と合流できたのだから街を出て屋敷に戻るとしよう。


 今回は前回と違い、子供達をリガロウに乗せて移動しよう。

 とは言え、3人を抱きかかえるのは変わりないのだが。

 ケーンを一番前に。チカ、ロナの準に並んでもらい一番後ろに私がリガロウの背に座る。子供達の体は『成形モーディング』による魔力ロープで固定だ。


 「「背中に乗っても良いの(良いんですか)!?」」「いいのー!?」

 「………俺も大人になったからな…。乗せてやる…」


 うんうん。前回の旅行で散々ウチの子達に説教をされたからな。流石に今回は子供達を背中に乗せてあげるようだ。

 ドラゴンの背中に乗れると知ってチカ達も嬉しそうにしているな。

 ただ、リガロウの背中は硬い。この子達にとって座り心地は快適とは間違っても言えないだろう。


 しかし子供達はそんなことなどお構いなしといった様子だ。このままではヒローの屋敷に到着する頃には臀部を痛めてしまうだろう。


 〈リガロウ、なるべく上下に揺れないように走ってもらって良い?〉

 〈ぐきゅ~…。姫様がそう仰るのであれば…〉


 ただでさえ私以外の、それも自分よりも遥かに力の劣る者を背中に乗せることに渋々と言った様子なことに加え、そんな人物達に気を遣うように指示を出されてしまったのだ。

 いくら私の願いと言えど、リガロウとしては面白くないのだろうな。


 しかしここは我慢だ。後で沢山可愛がってあげるから、今は耐えて欲しい。なに、リガロウの足ならばすぐに終わるさ。


 要望通り、上下に揺れることなくリガロウはヒローの屋敷まで到着した。時間も5分と掛かっていない。チカ達はリガロウの背中で大はしゃぎしていた。


 屋敷に入ると、リガロウも一緒に屋敷に入ってきたことに子供達が驚いている。

 前回はリガロウは一緒ではなかったからな。今回も祖手で寝泊まりするものだと思っていたのだろう。

 なお、一緒に家の中でリガロウと過ごせることにチカ達は大喜びしている。

 3人共リガロウのことは大好きなようだが、話をする機会などほとんどなかったから、話をする機会を得られて嬉しいのだろう。私も会話に混ぜてもらうとしよう。



 食事の時間になるまでの間、リガロウと共にチカ達と雑談をして時間を潰し、夕食だ。要望通り、始まりのカレーライスと同じ香りが漂っている


 ウチの子達もカレーライスは大好きだからな。周囲の匂いに、全員釣られて透明な状態のままカレーライスの方向に顔を向けている。

 この子達には今食べさせるわけにはいかないから、後で人気のいないところへと連れて行って好きなだけカレーライスを食べさせてあげるとしよう。


 夕食が終わったら風呂までの時間に少し余裕がある。ヒローはなかなか耳が早いようで、私がミニア・トゥガーテンへ送るジオラマの話を何処かから聞き入れていた。

 当然、どのような内容なのか気になったようで、口で言わずとも目力だけで[是非見せて欲しい!]と語っていた。

 私も見せることに抵抗が無いので遠慮なく見せた。

 反応は上々で、風呂に入る時間になっても誰も風呂に入ろうとしなくなってしまったほどに好評だった。


 明日になってしまえばジオラマはミニア・トゥガーテンへ届けられてしまうため、しっかりと目に焼き付けておきたかったのだろう。

 その気持ちは理解できるが、ヒローならばその気になれば見せてもらうことができる筈なのだ。あまり必死になって目に焼き付けておく必要もないだろう。

 私の知る限り、ミニア・トゥガーテンの人柄は善良だ。ヒローが頼めば無償で見せてくれるだろう。


 ジオラマを『収納』に仕舞い風呂に入ってリガロウをたっぷりと可愛がったら、本日の行動はここまでである。

 明日に備えて寝るとしよう。


 なお、リガロウと一緒に寝たくはあったが、流石にベッドの大きさからして一緒に寝るのは不可能だったため、リガロウには床で寝てもらうことにした


 そして翌日。

 劇場を訪ねて支配人にジオラマを渡したらいよいよアクレイン王国のモーダンへ移動だ。


 ここから先はウチの子達も透明化を解除する。

 人間達にウチの子達の初公開だ。


 盛大に驚いてもらうとしよう。

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