第577話 神々と戯れる

 意思を持ったエネルギーというのは、なにもキュピレキュピヌしか存在しないわけではない。

 魔物の中には実態を持たない者もいるし、精霊などもまた意思を持ったエネルギー体だ。彼もその類なのだろう。

 なぜ鳳の姿をしているかまでは分からないが。


 『おいおい、僕だって最初からこの状態だったわけじゃないんだぜ?言ったことあるだろ?僕等は最初から神様じゃなかったって』

 「それじゃあ、その姿も神になる前の姿を元に?」

 『そういうこと。その辺りは僕だけじゃなくて他の連中も同じだよ』


 つまり、神となる前は鳥型の魔物のような存在だったということか?

 彼等が最初にいた星の生体系も、この星とそう変わらないということなのだろうか?


 『まぁね。そもそも、遠く離れた星だろうと生物の設計素材が同じなんだから出来上がる生物のデザインってそう変わらないんだよねぇ。勿論、全部が全部同じってわけでもないけどさ』

 『少なくとも、今この星に生きてる生物の姿は私達が元いた星の生物の姿と似通ってる。それは私達が作った魔族の祖による影響も多少はあったりする』


 そういう事情があったのか。

 だとしたら、五大神には感謝をしたいところだな。


 私にとってこの世界に生きる生物達は、どれもこれも可愛らしく見えるのだ。特にモフモフした生き物。

 それに、きっと似通っているのは動物だけではない。植物もまた、彼等の母星と同じような造形をしているのだろう。

 オーカムヅミを始めとした様々な美味い果実に美しい花々。それらの元が彼等に少しでも影響があるというのなら、感謝しよう。おかげで私は幸せを謳歌している。


 『ノアちゃん…』『ノア…!』


 いつの間にかキュピレキュピヌのエネルギーは収まり、この場に来た時のような羽毛に包まれた姿に戻っていた。

 そしてロマハが私の頭に乗っかり角に頬擦りをしている。

 感謝の気持ちが伝わったようだ。この分だと他の神々にも感謝の気持ちが伝わっていそうだな。


 それはそうと、やはりキュピレキュピヌの抱き心地は素晴らしいいな。

 抱き着いた体が沈み込んでしまうほどフサフサで、羽毛そのものが暖かいから全身が暖かい。洗料も使っていないというのに毛質も良い。流石は神といったところか。しばらくはこのまま堪能させてもらいたい。


 「ところで、折角来たんだし今日は泊ってく?風呂には入る?」

 『ゴメンねー。お言葉に甘えて泊まりたいのは山々なんだけど、神様としての仕事をほっぽる訳にはいかないからねー。お風呂だけ楽しませてもらうよ』

 『お風呂入るの、いつぶりだろ…』


 泊っていけないのは残念だが、こうして会いに来てくれただけでも嬉しいのだ。贅沢は言えない。

 結界が無ければこの地にいてくれるのかもしれないが、空からの侵入の懸念がある以上、結界を解くつもりはない。


 とりあえず、風呂には入っていくようだ。

 ここは魔王国で購入した温泉の素の使いどころだろう。キュピレキュピヌにもロマハにも最大限気持ちよくなってもらおう。勿論、その体もしっかりと丁寧に洗わせてもらうとも。


 『何やらやる気だねー。僕等の体は洗う必要ないぜ?』

 『性格には洗っても洗わなくても同じ。すぐにこの状態に戻る』


 2柱共甘いな。

 確かに洗料を用いて洗っても効果がないのは残念だが、それで彼等を洗わない理由にはならない。


 洗うという行為自体を私が行いたいのだ!

 2柱共フサフサのモフモフだからな。洗っている時の感触もきっと気持ちが良いに違いない。

 『幻実影ファンタマイマス』を用いて同時に洗うことも視野に入れている。

 というか、このままではロマハを洗うのに少々てこずりそうなので新しい試みを行おうとも思っている。まぁ、方法自体は知っているのだが、今までは私がやる必要が無かったのでやらなかっただけだ。


 さて、風呂の話は風呂に入る時で良いだろう。

 風呂に入っていくということは夕食も食べてくれるということだ。

 それはつまり、夕食までの間の時間もこの地にいてくれるということではないだろうか?


 だとしたら、この機会を無駄にしたくはない。

 折角魔力以外の力のエキスパートがこうしてこの地に来てくれたのだからその力の扱い方を享受してもらわないでどうするというのだ。


 『えー。でもノアちゃんはもう十分に使いこなせてない?』

 『うんうん』

 「まだまだだよ。ルイーゼの"氣"と魔力を融合させる熟練度を考えれば、もっと上を目指せる筈だ。それに、教えて欲しいのは私に対してだけじゃない。この地にいる皆にも教えてあげて欲しい」


 そう。今のところルイーゼに稽古をつけてもらったラビックすらも満足に"氣"を扱えるようになったとは言えない状態だ。

 私もだが、私が本で伝え知った氣功術とやらにまでは至っていないだろう。


 いつかは氣功術を扱う徒党にも接触したいところだが、それまでに習得しないという選択肢は私の中では考えられない。

 教えてくれる存在がいるのだから、教えを請うのだ。


 『真面目だねぇ、ノアちゃんは…。インベーダーにも圧勝したみたいだし、もう少し余裕を持っても良いんじゃない?』

 「そう言うわけにもいかないさ。それに、インベーダーの大本は私でなければ対処できなかったみたいだからね。この機会だから私に"氣"や星の力を教えると同時に貴方達も自分を鍛えて欲しい」

 『『えっ…?』』


 [えっ?]ではないが?

 今回インベーダーによる侵略が失敗に終わり、それがヤツにとって癪に障るような出来事だとしたら、今度は更に厄介な相手をよこして来かねないからな。今以上に強くなろうとするのは当然である。


 「もしも力及ばずに敗北し、[あの時もっと真剣に鍛えておけばよかった]だなんて後悔はしたくないからね。私も可能な限り2柱を鍛えよう」

 「くえぇ…」「ガー…」


 そんな表情をしないでほしい。私は五大神に機体をしているし、頼りにもしているのだから。


 『まぁ、ノアちゃんに頼りにされちゃったら頑張らないわけにはいかないよねぇ』

 『頑張る!頑張ってノアに褒めてもらう!』


 その意気だ。

 それでは、皆を呼んでくるとしよう。2柱からそれぞれ直接"氣"や星の力の扱いをレクチャーしてもらうのだ。



 有意義な時間を過ごし、夕食も堪能して現在は風呂場。

 当初の予定通り『幻実影』を用いて2羽…ではなかった2柱の体を洗っているところだ。

 染料の効果もあるが、それ以上にどちらの体毛も毛質が良いのか少し洗うだけで泡立ちが凄いことになっている。

 口や目に泡が入ったりしていないだろうか?


 『大丈夫だよー。いやーしかしノアちゃんにこうして体中を洗ってもらえるとか幸せ過ぎるねー』

 『くふふふ…!自慢できる…!駄龍に自慢できる…!』「キュッ!?」

 「あまり煽り過ぎてケンカにならないようにね?」


 2柱共気持ちよさそうにしてくれて何よりだ。

 なにやらロマハがまたルグナツァリオを煽り倒しそうな様子だったので釘を刺しておいた。


 五大神達も思念によって他者に物理的干渉を行えるようになってきたためか、今までよりもケンカ腰になっている気がするのだ。

 まぁ、そこは思念鑑賞に一歩長けたダンタラが仲裁しているようなのだが、やはり手に負えなくなってきたら私も介入せざるを得なくなるのだろうか?


 『大丈夫大丈夫。確かに小競り合いは増えたけど、じゃれ合ってるだけだからね。深刻な事態にはならないよ。なんだかんだ言っても僕らは同僚で同志で、そして数少ない同郷の身なんだ』


 だったらまぁ、良いのだが…。

 いがみ合っているところを付け込まれて本気で敵対するような事態は御免だぞ?


 『いやいや、小説の読み過ぎだよ?そういった人間達の在り様は何度も目にしているし、僕等にもそういった態度を取って来た連中もいたけどね。だからこそ、ノアちゃんの懸念は杞憂だって言えるよ』

 『ん。ノアは心配しすぎ。でも、心配してくれるのは嬉しい。もし私達を陥れようとしてる連中がいたら助けてね?』


 体を洗い終え、湯を入れた小さな桶に浸かりながらロマハが首をかしげて私に訴える。

 小さな生き物というのはそれだけで可愛らしいから、狡いと思ってしまうのは仕方のないことである。


 『おー、あざといねー』

 『ふふん。これも私の武器』


 胸を逸らして自慢気にしている様子がまたあざとくも可愛らしい。


 『やー、それにしても、ノアちゃんって面白いこと考えるねぇ』

 「やり方自体は結構前に教えてもらっていたんだ。私には必要が無かったから実施していなかっただけでね。上手くいって良かったよ」

 『んふふ~♪幸せ~』


 キュピレキュピヌは良いとして、ロマハの小さな体を隅々まで洗うのは、私の身体では少し不備がある。

 ラフマンデーのように体毛が無ければ話は変わって来るのだが、ロマハはモフモフのフサフサだからな。私の指の太さでも洗いきれない場所が出てくるのだ。


 指が太くて満足に洗えないのならば指を捕捉すれば良い。つまりは、体の縮小化だ。

 方法はヨームズオームの体を小さくする際にヴィルガレッドから聞いているため試すこと自体は何時でも可能だったのだ。


 ぶっつけ本番で試してみたのだが、過去にも見ている経験が生きたのか、まるで問題無く望んだ大きさに体を縮小できた。

 おかげでロマハの小さな体に抱き着くという実に至福な体験もできた。あとで他の子達にも行うつもりだ。


 ところで、ホーディやゴドファンスは以前から縮小化の習得に励んでいた筈だが、彼等はもう習得できたのだろうか?

 あの子達が問題無く縮小化を使用できるようになっているのならば、どちらか今度の旅行に連れて行きたいのだが…。


 風呂から上がり、既に体を乾かし終わった2体に聞いてみよう。


 「そのところ、どうなの?2体共。縮小化できるようになった?」

 〈うむ。実を言うと、料理の際に我の体のサイズでは扱い辛い食材があったりしたからな。そういった食材にも対応できるようにと思って励んだら、割と簡単に習得できたぞ?〉

 〈儂も似たようなものですな。儂の体のサイズでは少々土の成形に手間取りましてな。しかも『補助腕サブアーム』だけを小さくしても感覚が掴み辛かったものですから、満足のいく作品を完成させるためにも体の縮小化は必須でしたぞ?今では…御覧の通りでございます〉


 なんと。ゴドファンスの体が目の前で縮小化し、ラビック程度の大きさにまでなってしまった!

 非常に可愛い!抱っこして良いだろうか!?


 と思ったらすぐに元のサイズに戻ってしまった。残念だ。


 〈ほっほっ、おひいさまに可愛がられるのも悪くはありませぬが、儂もそれなりに年を重ねておりますからな。赤子のように扱われるのは抵抗がありますぞ〉


 嫌がる相手を無理矢理抱きかかえるのは良くないからな。無理に抱きかかえるつもりはない。

 ところで、ゴドファンスは縮小化したところを見せてくれたが、ホーディはどうだろうか?この場で縮小化してくれないのだろうか?


 〈む?我もか?まぁ、構わんぞ?〉


 おお!ホーディもラビックと同じぐらいのサイズにまで縮小化した!コッチも物凄く可愛い!

 ホーディは抱っこさせてくれるだろうか!?


 〈まぁ、我は構わん。ゴドファンスほど年も取っていないからな。好きにしてくれ〉


 やったー!小さなホーディだー!

 いや、思った以上に可愛いな!これは堪らん!ルイーゼに見せたら絶対歓喜する奴だ!今のこの記憶、後で絵にしてラビックの絵と共にルイーゼに渡しておこう。


 〈楽しそうだな、主よ…〉

 〈何よりなことでございます〉


 実に至福な時間である!体を洗いたてだからか、はたまた縮小化したことによって毛の1本1本が細くなっているのか、普段以上に体毛が滑らかでサラサラだし柔らかい。触れていてとても気持ちいい!良くぞ縮小化を体得してくれた!


 『ご満悦だねぇ、ノアちゃん。僕等はそろそろお暇させてもらうよ?』

 『今日はね、すっごく楽しかった!また来ても良い!?』

 「勿論。いつでも遊びに来ていいよ。また私達に色々と教えて欲しい」

 『『が、頑張りまーす』』


 なぜそこで固くなってしまうのだ。

 確かに2柱が這う這うの体になるまで鍛えさせてもらいはしたが、そこまで嫌だったのだろうか?


 『できれば今度はもうちょっと優しくしてほしいかなぁ…?』

 『うんうん!神々で力の差が付きすぎるのは良くない!』


 そういうことなら、次の旅行に行く前に一度ルグナツァリオの所に顔を出しておくか。

 彼の実力も知っておきたいし、良い修業になるかもしれない。


 『う、うん。お手柔らかにね?』

 『駄龍、ちょっと同情する…』


 2柱を見送り、夜も遅いので今日は眠るとしよう。

 ホーディは縮小化したままで問題無いそうなので、今日はこのまま抱きしめて寝かせてもらうとしよう。



 翌日。

 レイブランとヤタールに起こされて2羽にオーカムヅミを与えていると、リガロウから『通話コール』が掛かって来た。


 〈姫様!今日はコチラに赴くことはできますか!?グラナイドが目覚めそうです!〉


 ほう。意外と早かったな。

 "楽園"に戻りリガロウを預けた際にグラナイドにはオーカムヅミを丸々1つ与えたのだが、その際にリガロウと同様に光り輝く繭に覆われてしまったのだ。


 リガロウの時と違い、繭が解除されるまで時間が掛かると思い家に戻ってきたのだが、進化が完了して光の繭が解除されそうだと言うのだ。

 ならば、今日は蜥蜴人達の集落へと赴くとしよう。


 グラナイドの進化した姿、見せてもらうとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る