第571話 ご褒美タイム。一部苦行
インベーダーに関しては正式にインベーダーと呼称することに決まった。
特にこれといった理由はないが、私がそう呼んだのだからそれで良いと判断したようだ。
なぜインベーダーが出現したのか。インベーダーの正体は。インベーダーの目的は。そして再びインベーダーが現れた際の対策は。
会議の内容は大まかに分けてこの4つの議題が中心となった。
とはいえ、出現したインベーダーはすべて完全に消滅しているので、正確な理由や目的、目的などは分からずじまいなのだが。
会議に参加した魔族達には、私が魔法によって過去の映像を視聴できると伝えたうえで、この世界で暗躍する組織"女神の剣"、そしてその原点となるアグレイシアの情報を伝えておいた。
彼等にこの情報を伝えた理由は2つ。
1つは魔大陸には既に"女神の剣"が存在していないこと。
地上にも地下にも、既に奴等の拠点を含めその存在はすべて抹消させてもらった。ルグナツァリオとダンタラにも確認してもらっているため間違いはない。
そして連中が他大陸に連絡を取っていたような痕跡もなかった。念のため『真理の眼』によって過去にそういった行動をとっていなかったか確認してみたが、他大陸の"女神の剣"と連絡を取っていたのはアインモンドのみだったし、あの男が関わっていた"女神の剣"は私が直接始末した。
もう1つの理由が、贔屓になってしまうかもしれないが相手が魔族だからだ。
魔族達は基本的に人間達とあまり関わりを持とうとしない。
勿論、情報収集のために多少各国に諜報員を送ったり個人的な理由で旅行へ出かけたりもするようだが、積極的に国交を交わしたりといった行為を行っていないのだ。
それというのも魔王国に行くには300mを越える高さの崖を登るかごく少数の魔族とコンタクトを取りニアクリフの隠し港に案内してもらう必要があるからだ。
早い話、魔族達が連中の存在を知ったとしても、"女神の剣"には伝わらないと判断したから教えたのである。
で、今回の異界からの侵略行為。
私がアグレイシアの情報を提供したこともあり、魔族達はヤツが関わっている可能性が高いと判断した。
私もその線で見ているが、確証はなかったりする。
原因はジョージだ。
彼はアグレイシアによって異世界からこの世界に転生させられたわけだが、ジョージの魂をこの世界に送ってきた際に認識できたヤツの残滓とも呼べる異なる世界の気配。
その気配とインベーダーの翼から感じた気配が同じではなかったのだ。
ヤツがインベーダーに干渉したとなれば、あの翼からヤツの気配が感じ取れると思ったのだが、実際に認識できたのはインベーダーの気配のみだった。だからこそ、余計にあの翼は異質であり奇妙だったのだが…。
あの翼、やはりアグレイシアによるものとみて良いのだろうか?
では、何故翼からヤツの気配が伝わってこなかったのだろう?既に翼の力自体はインベーダーのものにしていたのだろうか?
駄目だな。判断材料が少なすぎる以上、考えれば考えるだけ混乱しそうだ。
後で『真理の眼』と『モスダンの魔法』を併用してしっかりと精査しておこう。
今やらない理由?決まっている。
折角祝勝ムードなのだ。ウチの子達にご褒美して、あの子達の幸せをかみしめた表情を見るのに集中したいのだ。
神々も空間の状態は安定していると言っていたし、すぐにまたインベーダーが侵略して来ることもないだろう。
今回この国を守るために頑張った皆を労うのだ。
「いや、アンタが一番頑張ったんでしょうが…。まぁ、くれるって言うなら貰うけどさぁ…」
「す、凄い…。オーカムヅミのスイーツだなんて…。た、食べてしまってよろしいのでしょうか…?」
「遠慮する必要はないよ。使用している果肉の量は少ないし、なんならお代わりもいいよ」
「いやはや、私は今回碌に役に立っていなかったのですがね。陛下の側近で本当に良かったと思います。…んー、実に美味です!ノア様自ら手掛けたということもあり幸せの絶頂ですね!」
オーカムヅミを用いたスイーツということでアリシアが尻込みしてしまっている。
彼女にとってはかなり特別な果物なのだろう。スイーツにして食べるという発想が無かったようだ。ルイーゼは以前思いっきり食べていたりするのだがな。伝えていなかったようだ。
そして宰相はアリシアとは正反対に遠慮なく口にしている。
私としてはそっちの方が嬉しいのだが、ルイーゼやアリシアとしてはあまり納得がいっていないようだ。
「遠慮なしね…。私だって初めて出された時は尻込みしたのに…」
「さ、宰相様…。も、もう少し味わって食べた方が…」
「さっきも言ったけど、遠慮なんていらないよ。宰相ぐらい思いっきり食べてくれた方が私も嬉しい」
今回用意したのはヘルムピクトでも味わったアイスクリーム入りのクレープだ。アイスクリームとホイップクリームにオーカムヅミの果汁を加え、少量だが一口サイズにカットしたオーカムヅミの果肉も入れてある。
リガロウにはあの子に合わせた特大サイズのクレープを用意したが、オーカムヅミの果肉の量はみんなと同じ量だ。
クレープの大きさに合わせて量を増やしたら、果肉がオーカムヅミ1個分を超えてしまうからな。
それでも、リガロウはとても美味そうにクレープを食べてくれている。
あの子はヘルムピクトで食べたクレープをとても気に入っていたようだからな。今回のクレープも大喜びのようだ。
勿論、他の子達に不評などというわけがない。クレープを食べるウチの子達からは強い喜色の感情と共に感謝の気持ちが伝わって来る。
皆のことを撫でまわしたいところだが、私もスイーツを食べたいので眺めるだけに留めておこう。
『
幻を出して皆を抱きかかえたり撫でまわしたりしたらこの場で気を失うぞ?
「ねぇ、コッチに気を失っちゃってんのが2名ほどいるんですけど?」
「折角特訓したのに台無しだね」
「いやぁ、不意打ちは卑怯でしょうよ…」
私の表情を攻撃みたいに言うのはやめてもらえないだろうか?クレープの美味さに顔がほころんだだけなのだが?
「はいはい無自覚無自覚。何度も経験してることでしょーが。スメリン茶用意しといて」
「ん」
軽く流されてしまった。
まぁ、私の表情に衝撃を受けて固まってしまうという事態は今に始まったことではない。ルイーゼの反応も当然か。
それよりも、アリシアも宰相も声を掛けるだけでは起きそうにないので、ルイーゼの指示通りスメリン茶を用意しておこう。今回もボトルで必要になりそうだ。
なお、スメリン茶の在庫は問題無い。表彰式までの間に城下街で購入しておいたからだ。
たっぷりと購入しておいたから、いくらでも気を失ってくれて構わないぞ!
「私が家に帰るまでに、問題無く一緒に風呂に入れるかな…」
「今の調子じゃ難しいわよねぇ…」
アリシアとはあれから一緒に風呂に入りはしているのだが、例の装備をしたままで入っている。
というか、彼女の住まいは魔王城ではなく五大神を祀る神殿なので、わざわざ魔王城で風呂に入る必要はないのだが、どうしても私と一緒に風呂に入りたいのだとか。
「ついこの間まで私もアリシアと一緒にお風呂に入る機会なんてそんなになかったのにねぇ…」
「がぼっ!?ぼぼぼがっ!?ふがーーーっ!」
「あばばばばば!ぼごごばーっ!」
酷い絵面だ。
ルイーゼもすっかりスメリン茶を強制的に飲ませるのが板についてしまった。
2人共スメリン茶を注がれている際に抵抗しているというのに、まるで周囲に零れていない。宰相に至っては相も変わらず鼻からである。
ウチの子達やリガロウがクレープを食べ終わる頃には、アリシアも宰相もぐったりとした様子で机に突っ伏していた。
あれからもスメリン茶による気付けは数度にわたって行われたのだ。
「あの…目が覚めた直後に尊いご尊顔が目に入るの、どうにかならないでしょうか…」
「せめて、せめて心の準備をさせて…」
「何言ってんのよ。心の準備をしないと耐えられないんじゃこの先ノアと一緒に出掛けたりなんてできないわよ?この子、初めて会った時よりも結構表情が変わるようになってきてるから、ちょっとしたことでも不意打ち喰らうことになるわよ?」
そんなに表情変わっているだろうか?自分の顔を自分で見る機会などあまりないから分からないな。
「ルイーゼが言うほど、表情変わってる?」
〈ヘルムピクトで遊んでる時は変わってたよ!〉
〈さっきも優しそうに笑ってたわ!〉〈でもいつものことなのよ!〉
〈私達と触れ合っている時の姫様は私達と出会っていた時から変わらず笑顔が多いです〉
「姫様、俺の事撫でてくれる時はいつも笑ってますよね?」
とのことらしい。
つまり、ウチの子達を連れて来て触れ合う機会が増えているから表情が綻んだりする機会が増えているというだけの話だな。
「でも、今後は旅行にモフモフちゃん達を連れてくつもりなんでしょ?だったら、今まで以上にアンタの自然体の笑顔を見せる機会も多くなるだろうし、やっぱり特訓が必要じゃない!」
そうだな。今回の旅行で皆問題無く魔力の制御ができると分かったし、次の旅行にもウチの子を連れて行こうと思っている。
今度は誰を連れて行こうか?
また今回のメンバーで旅行に行くのも良いし、ホーディやゴドファンスも肉体の縮小化ができるようになっているみたいだし、あの子達を連れて行っても良い。
フレミーは、一緒に来てくれるだろうか?もしもついて来てくれるのなら、あの娘をフウカに合わせたいという私の願望を叶えられる。
ただ、ホーディはともかくゴドファンスとフレミーはあまり"楽園"の外に興味が無さそうなんだよなぁ…。
それに、ホーディは"楽園"の外に興味がないわけではないけど、私が不在の間の広場の守護を自分の務めだと思っているようだし。
ラフマンデー?あの娘はそもそも広場を"聖域"と呼んで外に出たがらない。
まぁ、無理強いするつもりはないし、あの子達が"楽園"の外に行く気が無いのなら次回もまた今回と同じメンバーになりそうだ。
誰も連れて行かないという選択肢は既に私の中には無い。
旅行中に好きな時にモフモフを堪能できるこの喜びを知ってしまった今、それを失うのは耐えがたいのだ。
ルイーゼがくれたブローチのおかげで今の私は大国の姫どころか魔王と対等という扱いになる。
そんな私につまらないちょっかいを仕掛けてくるような人間には、容赦をする必要などないだろう。少し予定よりも早くなるが、多少自重せず好きに活動させてもらうとしよう。
さて、スイーツを堪能し、至福のひと時を終えたら夕食まで修業を行うとしよう。
結局のところ、現状のインベーダーへの対策は強力な魔力や"氣"によって浸食する暇もないままに消滅させるしかないのだ。
ならばやることは単純だ。修業をして強くなる。
それだけである。
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