第570話 戦闘終了後
亜空間から通常空間に戻ったら、早速ロマハの現状を確認しよう。彼女はいまもインベーダーの下半身を叩きのめしているのだろうか?
ロマハの位置を確認しようと思ったら彼女が私の眼前に移動して来た。相変わらず超高速移動だというのに周囲に影響はない。
『ん?もう終わってるよ。撫でて』
『早いね。助かったよ』
「ガアアア……」
首の周りを指で優しく撫でると、気持ちよさそうな表情をして頬を私の指にこすりつけてくる。
うん。やはりロマハはとても可愛い。叶うことならば魔王城で暮らしている間だけでも一緒にいたいぐらいだ。
しかし、いくら神の気配を隠蔽できるようになったとはいえ、隠蔽していられる時間は短時間だ。
それだけではない。気配を隠蔽している状態でも本体の姿をアリシアが見た場合、隠蔽の意味がなくなるのだとか。
それは即ちアリシアの死を意味する。そしてそれは他の
『姿を見た瞬間色んな許容量が限界を超えて死んじゃう』
「神に一番近い存在と言われている巫覡や巫女が神の姿を直接見れないなんて、随分と皮肉が効いているね」
『私達がそうしたわけじゃないもん…』
まぁ、それはそうなのだが…。それならば彼等が神々の姿を直視しても耐えられるような加護を与えてやっても良いんじゃないだろうか?
『止めた方が良い。人間にしろ魔族にしろ、これまでの根底が全否定されたら多分それだけで耐えられない』
そういうものか。
ならば無理に合わせる必要もないのだろう。
っと、ロマハと戯れている場合ではなかった。地上の様子を確認しなくては。
『ん、大丈夫。修業の甲斐もあって圧勝。みんな拍子抜けしてた』
なんと。
私の心配は取り越し苦労だったようだ。
ということは、地上の被害もゼロということか。
インベーダーの浸食能力はかなり厄介だと思ったのだが、皆良く対応できたものだ。
『そこは私から神託という形でアリシアに情報を伝えたからね。傍にルイーゼやあの子達がいたおかげで情報の伝達も速かった』
なるほど。ロマハだけでなくルグナツァリオもファインプレーを働いていたというわけか。コレは流石に感謝しないわけにはいかないな。
ああ、そうだ。既に脅威は去ったのだし、もう角や翼を出しておく必要もないか。先程まで着ていた服に着替えて魔力も二色に戻しておこう。
『助かったよルグナツァリオ。もう隠蔽を解除してくれて構わないよ』
『どういたしまして。そしてアレの相手をしてくれてありがとう。貴女がいなければ間違いなく世界は危険な状態になっていた』
それほどなのか。
上半身と下半身を均等に真っ二つにしたはずなのだが、ルグナツァリオが言うには下半身よりも上半身に力の大半が備わっていたらしい。
『下半身の方は全然大したことなかった。多分、魔力に意思を乗せることもできなかったと思う』
『そんな下半身から産み落とされた分体も、やはり大したことはなかったというわけさ』
それほどまで差があったとは。原因は何だ?
考えられるとしたら、やはりあの純白の翼か。
インベーダー自身が異質な存在ではあったが、背中から生えていたまるで毛色の違う翼が、余計に異質さを強めていた。
インベーダーがアレだけの力を付けていたのは、やはりあの翼が原因か?
後で『真理の眼』を使用して確認してみるが、あの翼からインベーダーに力が流れ込んでいるようにも、インベーダーの体からあの翼に侵食しているようにも見えた。
考えるのは、後にしよう。今はルイーゼ達の元へと向かうのだ。
今回はルグナツァリオとロマハに大いに助けられた。
が、そうなってくると少しだけ疑問が発生する。
他の神々は何をしていたのだろうか?
『いやいや、なんか凄く見損なわれそうな気がしたから先に言っとくけど、僕等も結構頑張ってたんだぜ!?』
『あの目玉の化け物は本来なら世界中の上空から雨のように地上に侵攻するつもりだったみてぇだぜ』
『流石にそのようなことをされては対応しきれなくなりますので、私達で空間を制御し、出現する場所を一ヶ所に纏めておいたのです』
大活躍じゃないか。疑って済まなかった。
そうか。神々がインベーダーの出現場所を私がすぐに対応できる場所に絞ってくれていたのだな。
これは五大神に感謝のしるしとして何かしなければならないな。
何をすれば彼等への礼になるだろうか?
ルイーゼ達の元へ行く前にそれぐらいは聞いておこう。
『ノア。どちらかというと礼をしたいのは私達の方だだよ?』
『貴女のおかげでこの世界は救われたのですから、むしろ私達にして欲しいことを言ってほしいです』
『つっても、俺達が用意できるものでノアが欲しいモンってなんかあるか?』
五大神に謝礼を払おうとしたら逆に謝礼をされそうになっているな。
こういう時は、下手に断ろうとしても拗れるだけだし、くれるというのなら素直に受け取っておくとしよう。
しかし、望みを言ってほしいと言われても、私が五大神に求めるものはあってないようなものだ。
一応、無いことはないのだが、それでは贔屓になってしまうしなぁ…。
『何か要望があるなら聞くぜ?言ってみなよ』
まぁ、そう言ってくるのなら、遠慮する必要はないか。
『キュピレキュピヌ、私が魔王国から"楽園"に帰ったら、家に遊びに来てくれない?』
『へ?僕だけ?』
『貴方だけ。というか、他の神々は来れそうにないでしょ?』
ルグナツァリオは勿論、ズウノシャディオンもダンタラも私の家の広場に収まりきらないほどの大きさがあるだろうからな。
『私は行けるよ!』
ロマハは自分も遊びに来れると申告してくれるが、彼女は私の家にいると結界の影響で仕事ができなくなるらしいからなぁ…。
それに、彼女は既にこうして謝礼をしているようなものだし…。
私がキュピレキュピヌに望んでいることも今とそう変わらないのだ。
そう、つまり彼のこともモフモフしてみたいのである!
…もふもふかどうかはまだ分からないが。
この際だから聞いてみるか。
『ノアちゃんってば僕をモフりたいっての!?お礼として!?しょーがないなぁ…まぁ、僕もロマハと一緒であんま長くは君の家にお邪魔することはできないんだけど…』
ロマハが仕事で私の広場にいられないのならば、キュピレキュピヌも同じく私の広場にいられないのか。
だったら無理に来てもらうのは悪いな。
『そうなの?じゃあ別に無理してこなくても』
『行きます行きます!遊びに行きます!思う存分モフって良いよ!』
来てくれるらしい。そしてモフれるのか。
つまりフサフサなんだな?フワフワなんだな?フカフカなんだな?
『メラメラだったりする』
『え…。じゃあモフれないの…?』
『コラコラー。意図的に情報隠すのは良くないよー』
「ガアアア……」
ロマハからキュピレキュピヌがメラメラだと説明されたが、どうやらその情報は正確ではないらしい。
しらを切るように私の指に顔をこすりつけている。
キュピレキュピヌはモフって良いと言っていたのだから、きっとモフれるのだろう。ならば、後は実際に遊びに来た時のお楽しみとしておこう。
さて、神々と戯れるのはこのぐらいにしておこう。地上に戻ってルイーゼ達の様子を確認するのだ。
角と翼を体内に仕舞い、表彰台があった場所まで降りてくれば、非常に大きな歓声で迎え入れられた。私を称える魔族達の声が聞こえてくる。
特に何も言わずに上空へと飛び去ってしまったのだが、ルイーゼ辺りが魔族達に事情を説明してくれたのだろう。
ルイーゼの姿を確認したので彼女の傍に着陸するとしよう。ウチの子達も軒並み一緒だ。ルイーゼもウチの子達も目立った外傷はない。
大勢の魔族達に迎えられながらルイーゼの傍に降り立ち、彼女に片付いたことを報告する。
「ただいま。コッチは片付いたよ」
「お疲れ様。コッチも見ての通りよ。人的にも建物的にも被害はほぼ皆無と言って良いわね」
ほぼ?つまり、極少とは言え被害は出たということだろか?
「ちょっと建物や地面が破損したぐらいよ。人的被害はゼロ。アンタとモフモフちゃん達のおかげね」
〈頑張ったわ!ぶちのめしてやったわ!〉〈けちょんけちょんなのよ!ご褒美が欲しいのよ!〉
〈他の村とか街とかも問題無かったよ!落ちてくる前にやっつけたから!〉
〈アリシア様を通して神々から対処法を教わっておりましたので、問題ありませんでした〉
どうやらウチの子達も大活躍していたらしい。称賛の声はウチの子達にも送られている。
みんな頑張ったようだし、レイブランとヤタールの要望通り、ご褒美が必要だな。後でオーカムヅミを使用したスイーツでも振る舞うとしよう。
…フレミー達に自慢しないようにね?
「姫様ー!」
ルイーゼ達だけでなく魔族達の無事も確かめていると、魔王城の方角から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
言わずもがな、リガロウである。
ご機嫌といった表情をしている。あの子も戦ったりしたのだろうか?
「リガロウ、ただいま。特に問題無かったようだね」
「はい!言われた通りみんなを守りました!」
リガロウもしっかりと活躍したようだ。顔や首筋を撫でて褒めてあげよう。
「よくやったね。偉いよ」
「グキュルゥー!」
リガロウはアリシア達と魔王城に避難していたようだが、その間彼女達を守ってくれていたようだ。アリシアが頬を染めてリガロウを見つめている。
「はうぅ…。とっても可愛くて、でも同じぐらいかっこよくて…。どうしましょう…!わたし、恋を知ったのかもしれません…!」
おや。リガロウも罪作りな子だ。
アリシアを守った際に彼女から恋慕の感情を向けられるようになったようだ。
護衛達が狼狽えている様子を見るに、やや問題があるのかもしれない。
私が知る限り、ドラゴンは他種族と番うことができ、番う相手と同じ種族に変身できる筈だ。つまり、リガロウと番うことも可能なのである。
とはいえ、リガロウはまだ幼竜だ。そういった話はこの子がもう少し成長するまで待ってもらいたい。
ところで、ルイーゼは今のアリシアのリガロウに向けている感情を知っているのだろうか?
それに、一番大事なのはリガロウの気持ちだ。
アリシアはリガロウにとって番う相手として見れるのだろうか?
「きゅ?姫様、どうしました?」
「ん、リガロウは今日も可愛いなって思ってね」
首をかしげながら尋ねてくるリガロウは相変わらず可愛らしい。
果たしてこの子はアリシアから向けられている感情を読み取れているのだろうか?
アリシアは私を前にすると少々取り乱すところがある女性ではあるが、基本的に落ち着きがあって思慮深い女性だとルイーゼから聞かされている。
リガロウがもしもアリシアの気持ちを受け止めるのならば、私は両者の仲を応援しよう。
この場合、リガロウには住まいを
まぁ、流石に気が早すぎるか。
こういった考えはリガロウが成竜になってからでも遅くはないだろう。
異界からの侵略者を排除したは良いが、折角の表彰式が台無しとなってしまった。
それも、よりにもよってこの国に貴重な資料を多数無償で提供してくれたヒューイに対する表彰のタイミングでだ。
ヒューイの表彰は後日改めて行うこととなり、そのタイミングで今回の騒動で活躍した者達も表彰されるらしい。
つまるところ、私やウチの子達、それからリガロウも表彰されることになったわけだ。
「特にアンタは大活躍だったからね。空が割れたように見えたわよ?何やらかしたの?」
「ちょっと必殺技を全力でね…」
ルイーゼにはドゥームディザスターを放った際の様子を見られていたようだ。
ファングダム上空での様子から、彼女の能力だとあの高度の様子を確認できなかった筈だが…。
「舐めないでよね?私は成長する魔王なの」
なるほど。あの時とは違うらしい。
というよりも、あの時にできなかったからまた同じようなことがあっても良いようにできるようにした、といったところか。
ルイーゼの向上心には目を見張るものがあるな。流石私の親友だ。
そんなルイーゼが、真面目な表情で私を真っ直ぐに見つめている。
「さて、と。この後のことだけど、一応何が起きたのか、アレは一体何だったのか。その辺りのことを話し合いましょ。次が無いとも限らないし、対策は必要でしょ?」
「そうだね。そうしようか。私としてもアレのことを報告しようと思っていたからね」
かなりあっさり片付きはしたが、この世界の危機だったのは間違いないのだ。そして次も今回のようにうまくいくとは限らない。
そんな状況を回避するためにも、今回の騒動について会議を行うようだ。
当然、私も参加である。
私の正体まで話すつもりはないが、可能な限りインベーダーの情報を提供しよう。
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