第569話 双渦撃滅衝

 分断したインベーダーの下半身はロマハが。下半身から分裂して地上に落ちた分体はルイーゼとウチの子達に任せる。

 そうと決まれば私は上半身に集中できるわけだ。


 あまり時間を掛けるつもりはない。

 さっきのやり取りで分かったが、インベーダーはかなり学習能力が高い。時間を掛ければその分と良くなっていくだろう。


 最善はやはり最初の一撃で終わらせることだったが、生憎と耐えられてしまったからな。次善策を取る。

 そのためにはより強力な攻撃を行う必要がある訳だが、これ以上強力な攻撃を行えばこの星に少なからず影響が出てしまう。


 例えば『消滅』の意思を乗せた噴射孔とドラゴンブレスによる7つの奔流を浴びせれば確実に滅ぼすことは可能だ。だが同時に世界も滅んでしまうという話である。私はもう、この世界、この星で全力戦闘を行うことはできないだろう。この星では。


 ならば。


 『ルグナツァリオ、七色で行く!隠蔽を頼めるか!』

 『任せてくれ。その必要があると想定して準備はしていたんだ。それで、大丈夫なのかな?』


 神々も相手の戦力をある程度想定して私の存在を隠蔽する必要があると判断していたようだ。おかげですぐにでも存在の隠蔽が可能らしい。

 少しでもインベーダーに時間を与えたくないからな。非常に助かる。


 早速隠蔽の効果が表れたようだ。この状態ならば七色の魔力を使用しても人類にも魔族にも伝わらない。


 『では、後を頼んだよ』

 『ああ、すぐに終わらせる!』


 全力で噴射加速を行い、吹き飛んでいったインベーダーに追いつく。

 ヤツを尻尾カバーで吹き飛ばしてから数秒しか時間が経過していないが、尻尾カバーで与えたダメージは回復しているようだな。


 だが、体勢が整っていない。こちらの追撃を迎撃することは不可能だろう。

 "氣"と魔力を纏わせた手でインベーダーを掴み、吹き飛んでいた方向とは別方向に思いっきり投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた先には扉、『亜空部屋』への入り口が既に開いていた。


 そう。この星で全力戦闘ができないのなら、この星で戦わなければ良いだけの話である。


 とは言え、亜空間の耐久力も完璧ではない。

 インベーダーを亜空間に放り込んだら、攻撃以外にも亜空間が崩壊しないように空間の防護に集中する必要がある。

 地上に気を回していられなくなる。いざという時は私が動けばいい、という手段が取れないのだ。


 だからこそ、ルイーゼ達を信じる必要があるのだ。

 そして私は既に彼女達を信じると決めた。最早躊躇いはない。さっさとインベーダーを始末してロマハ達に加勢するのだ。


 亜空間内に入るわけだが、『幻実影ファンタマイマス』の幻をこちらの空間に残しておく。

 亜空間内でも防護はするが、外からも空間が崩壊しないように防護しておくのだ。


 今回用意した亜空間は、広さに特化した空間だ。この星と同等の広さを持っていると言って良い。七色の魔力を使用すればこのぐらいは可能だ。

 ここまで広大な空間を用意したのは、十分な威力の攻撃を放つためでもあり、同時にインベーダーの浸食対策でもある。


 インベーダーの浸食能力は空間そのものにも影響を与える。今回この世界に侵入してきたのも、空間に侵食してからの侵入だった。

 つまり、時間を与えると自力で亜空間から脱出してしまう可能性があるのだ。


 だからこその早期決着だ。一気に片を付ける。

 "氣"と魔力を融合させた球体を両手に発生させて高速回転し、それをさらに1つに融合させる。

 その間、幻を操作して投げ飛ばされて未だに吹き飛び続けているインベーダーに打撃を続けて回避の余裕を与えない。


 可能な限り消費を落とした魔力のみ、しかも二色の魔力で特に攻撃の意思も乗せずに放っただけでも魔王城が吹き飛びかねない威力だったのだ。

 七色の魔力に"氣"を融合させ、更に『消滅』の意思を乗せれば、如何にインベーダーだろうと確実に葬れる筈だ。


 というか、この亜空間にインベーダーを放り込んだ時点でヤツの戦力は大体把握できた。そして私は勝利を確信している。


 両手を突き出して融合させた球体を奔流として放出する。

 ちょうどインベーダーを上空(亜空間内のため上空と言って良いかどうかは微妙だが)から叩き落して地面に接触する直前でぶつかるタイミングだ。


 3㎞先に叩き落されたインベーダーに奔流が接触した瞬間、これまで経験したことのないようなエネルギーの暴風が吹き荒れた。


 相反する2つの回転の轟魔王旋撃を1つに融合させることで進化させた、正真正銘の新たな秘伝奥義だ。


 双渦撃滅衝。この奥義はそう名付けた。

 効果は御覧の通り、2つの渦となった奔流を同時に浴びせ続けて奔流内にいる者を完膚なきまでに捻じり、そして削り取る奥義だ。意思を乗せれば燃やすことも凍らせることも消滅させることもできる。

 まるで破壊の権化とでも言わんばかりの勢いだ。


 意思を乗せずに最小の威力で放った際にプリズマイトの円柱が跡形もなく消えたのだ。

 全力で使用すればルイーゼは勿論、ヴィルガレッドですら余波を受けただけで命を脅かされてしまうほどだ。

 この奥義が完成した時、通常空間、この星で使用してはならない技だと容易に理解できた。


 先程までインベーダーに打撃を浴びせ続けていた幻は既に亜空間を崩壊させないように空間そのものを防護している。


 どうせやるなら徹底的にだ。

 跡形もなく消失したうえでなおも力を注ぎ続けて入念にインベーダーに奔流を浴びせ続けてやる。


 インベーダーの魔力塊を跳ね返した際に分かったことだが、ヤツは既に『消滅』の意思を乗せた魔力に耐性を持ち始めている。それ故にすぐに始末できるとは思っていない。


 現在インベーダーを中心に発生しているエネルギーの暴風は"氣"であれ魔力であれ私を由来としたエネルギーだ。

 そのため、このエネルギーに意識を浸透させていけばこの暴風の中心部がどのようになっているかも問題無く把握できる。


 インベーダーは奔流に身を削られながらもこのエネルギーを取り込もうとしているようだ。というか実際に少しづつではあるがエネルギーを取り込んでいる。

 私が跳ね返した魔力塊を飲み込んだ時も体を崩壊させていたし、今回もまた体が崩壊してしまっている。

 だが、それと同時に取り込んだエネルギーで再生と増殖も恐るべき速度で行っている。


 インベーダーには明確な意思があるようだが、知能は低い。

 取り込めるものがあれば、それが強力なものであればあるほど率先して取り込もうとする傾向があるようだ。その際に自分の体が傷つくリスクを無視している。

 だが、それで良いのだろう。傷付きながらでも、エネルギーを取り込めば再生も増殖もできるし、耐性も少しづつつくのだ。

 実際、インベーダーの肉体の崩壊がわずかではあるが少なくなっている。


 「ーーー…!」


 声は出ていないというのに、インベーダーから喜色の感情が伝わって来る。

 力を取り込み、自身を傷付ける要因に対して耐性を付けて行けば少しづつ、自分が有利になっていき最終的には勝利できる。そんな算段だったのだろう。


 だが、見くびってもらっては困る。私が扱える力は"氣"と魔力だけではないのだ。

 このまま奔流を浴びせ続けても相手を滅ぼせるが、今も送り続けている"氣"と魔力に加えて、更に追加で星の力を上乗せさせる。


 「っ!!?!?!?ーーーーーっ!!!!?!!」


 今まで取り込めていた力が、自傷しながらも自分の力に変換できていた力が急に異質な力に変わったのだ。

 突如変わったエネルギーの質にインベーダーが戸惑い、エネルギーの変化に対して怒気を放ったその時だ。

 浸食を行うには、ある程度意識を集中させる必要があったのだろう。決壊が始まったのだ。


 これまでは取り込んでいたエネルギーを増殖と再生に集中して使用していたから滅びずに済んでいたが、エネルギーを取り込めなくなってしまったのだ。


 「ーーーっ!!!……っ!!………っ!……………」


 再生も増殖もできなくなり、瞬く間にインベーダーの肉体が消滅していき、遂には完全にその存在を抹消できた。


 作戦通りだ。

 この手段を取ったのは、インベーダーが『消滅』の意思を乗せた魔力塊を取り込み肉体を崩壊させながらも再生と増殖を繰り返して最終的に自信を回復、成長させてしまったからだ。


 私はインベーダーに対して初手で"氣"と魔力を融合させた力を使用していたため、その時点で耐性を持たれていたのではないかと懸念していた。

 だが、『消滅』の意思を乗せただけの魔力塊を飲み込んだ際にも肉体を崩壊させていたため、完全に耐性を付けるのにも時間が掛かると判断した。


 それと同時に、最初から3つの力を融合していた場合、消滅しきる前に耐性を得られてしまう懸念があったのだ。

 そこで、急激な変化には対応できないと踏んで最初から"氣"と魔力、そして星の力の3つの力を融合して新奥義を放てるにも関わらず"氣"と魔力だけを融合させて双渦撃滅衝を放ったのだ。


 その結果、読み通りインベーダーは急激なエネルギーの変化に対応できずに身を滅ぼすこととなったのだ。


 星の力を使用していたからか、インベーダーの魂すらもまとめて消滅させられたようだ。

 最初からインベーダーの魂を私達の星に還すつもりはなかった。

 この星から生まれた魂でも無かったし、下手をしたら魂を解して星の力に侵食しかねなかったからな。

 そうなってしまえば手の付けようがなくなっていたかもしれない。

 その時は星の力を管理するロマハが何とかしてくれるかもしれないが、どう考えても面倒事だからな。回避できたようでなによりである。


 手間は掛かったが、結果的に見れば最善の結果だと言えるだろう。

 亜空間の内外で全力の防護を行っていたこともあり、奥義による余波が通常空間に漏れ出すようなこともなかった。


 力の大半だった上半身は始末した。残りはロマハが今も相手をしているであろう下半身と、その下半身から零れ落ちて地上に侵攻を開始している分体達だ。


 ロマハが言うには分体は大したことが無いという話だったが、やはり心配だ。


 亜空間から出て状況を確認するとしよう。

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