第531話 感謝しては感謝され礼を返して返される
返礼として披露した織物を使用した舞の反応は、大体昨日ジービリエで披露した歌と同じような反応になった。つまるところ、大盛況だったわけだな。
当然、今回も舞の映像を結晶体に収めて街の代表に渡しておいた。その際の反応もまた、大体ジービリエの時と同じだった。
昨日約束したこともあり、移動の途中でルイーゼがラビックとリガロウに稽古をつけている間に、私はスイーツを用意することにした。
勿論、ルイーゼの分だけでなく、他の子達の分も作る。
ルイーゼが美味そうにスイーツを食べているところをただ見ているだけと言うのは、一種の拷問のような物だろうからな。そんな真似が、私にできるわけがない。
用意するスイーツは3つ。どれもオーカムヅミを使用したスイーツだ。
1つはパルフェ。1つはショートケーキ。そして残りの1つは果肉を入れたゼリーにしよう。
ウチのハチミツも使おうかと考えたが、こちらはまた別の機会にしておこう。
魔王城に到着する頃にルイーゼの誕生パーティーが開かれる訳だし、その時にでも私の方から提供させてもらおう。
勿論、パーティーに出す場合、ハチミツは魔力が宿っていない方だ。
ラフマンデーのハチミツを用いたスイーツは周囲の目が届かないところで提供させてもらうとしよう。
スイーツを作る傍ら、私は稽古を行っていないレイブランとヤタール、ウルミラに囲まれながら新聞に目を通す。
やはり私に関する記事が多いわけだが、少し気になったことがある。
新聞に載っている私の写真、妙にルイーゼも一緒に写っているものが多いのだ。
単純にルイーゼも人気が高いのが理由なのか、それとも私と仲がいいことをアピールする、政治的な理由なのか。
どちらにせよ、意図的にこうなっているのは間違いない。
そう言えば、訪れた魔族の街では私の姿絵をいくつか見かけていた。
絵描きに描かせたものもあれば、写真を拡大させたものもあった。
そして、そういった姿絵には決まって傍にルイーゼの姿絵も一緒に設置されていたのだ。
こうまであからさまに一緒になっている絵面を出したいのなら、やはり政治的な理由だろうか?ルイーゼにもスイーツを振る舞っている間に聞かせてもらおう。
さて、稽古も終り移動を開始する前に今回はスイーツタイムとしゃれ込もう。
ウチの子達は移動する前にスイーツが出るとは思っていなかったようでやや興奮気味だ。
〈オーカムヅミだわ!オーカムヅミのスイーツよ!〉〈素敵なのよ!このスイーツ大好きなのよ!〉
〈ご主人どうしちゃったの!?食べちゃっていいの!?〉
〈これも姫様の旅行に同行できた者の特権とでもいうべきでしょうか?ホーディ達には悪いですが、遠慮なくいただきましょう〉
まぁ、広場に残してきたメンバーには悪いとは思うが、あの子達には今度また埋め合わせをしておくとしよう。
「姫様、この果実…俺も食べていいんですか?」
「大丈夫だよ。リガロウのは、皆のよりも果実の量を減らしているからね。それ全部でも1個分の果実にはならないんだ」
加えて、リガロウ用に使用した果実は魔力量と密度が平均よりも少ない物を使用している。大きな影響を及ぼすことはないだろう。
「稽古中からチラチラと目に映ってたのよねぇ~。集中を途切れないようにさせるのに必死だったわよ!あ~ん!どれも美味しそ~う!」
ルイーゼからの評価も上々だな。どれも自信作だ。存分に味わってくれ。勿論、私も味わわせてもらう。
うんうん。我ながら上出来な味だ。皆も美味そうに食べてくれているな。幸せそうな表情だ。作った甲斐があるというものだ。
「ところでルイーゼ」
「ん?」
すっかり機嫌が良くなったことだし、今なら大抵のことを答えてくれるだろう。先程疑問に思ったことを尋ねてみるとしよう。
「新聞もそうだけど、街のあちこちで私とルイーゼが一緒になってる絵を見かけたのって、アレは意図的なもの?」
「あー…アレ、ね…」
スプーンを銜えながら遠くを見つめだしてしまった。ルイーゼとしてはあまり納得していないのだろうか?
「やー…実を言うと、アンタに貰ったあの時計カバーがユン…私の側近に見つかっちゃってねぇ…」
「?その側近は、私の正体やルイーゼとどんなことをしたのか大体知ってるんでしょ?何か問題があったの?」
事情を知っているのなら私が渡した時計カバーのことも知っているだろうし、何の問題もないと思うのだが…。
「説明する前にバレちゃったのよ…。で、咄嗟に自作だって言っちゃったの」
「…つまり?」
「私が自作の時計カバーを作っちゃうぐらいノアのファンだって話が、物凄い速さで国中に広まっちゃってね…」
おおう。それに加えて国民がルイーゼを慕っていることで、今のような状況になっているのか…。
「私のことが大好きなルイーゼのために、国民が気を利かせてくれた、と…。慕われていなければできないことだね。良かったじゃないか」
「~~~っ!」
顔を赤くして私を叩かないでほしいのだが?そんなに恥ずかしがることでもないだろうに。
自惚れでなければルイーゼは私に友人として強い好意を抱いてくれているし、それは私も変わらない。なにせ親友だからな。
私個人の意見を言わせてもらえば、魔王国民達にはもっとやってくれて構わないと言いたいぐらいだ。
「私としてはルイーゼと仲がいいと判断してもらえてるのが嬉しいよ。ドンドン仲がいい様子を見せつけてああいった絵を増やしてもらいたいぐらいだ」
「アンタ…。よくもそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるわね…。その言葉を聞いたら国中で私とアンタのツーショットで溢れて埋め尽くされるわよ?」
良いじゃないか。少々異質な光景になってしまうかもだが、埋め尽くしてしまえばいい。盛り上がること間違いなしだ。
「随分と余裕ね…。私が聞いた報告だと、称えられたり崇められたりするのってあまり好きじゃないって聞いたんだけど?」
「称えるのはともかくとして崇められてるわけではないからね。それにね、ルイーゼ。良いことを教えてあげよう」
確かに、私は不特定多数から称えられたり慕われたりするのがあまり好きではなかった。だが、それも今は過去の話だ。
受け売りの言葉ではあるが、私にとっては魔法の言葉だ。この言葉のおかげで、私は大勢から称えられようが崇められようが影で何かを言われようが気にしなくなったのだ。
「慣れてしまえば、どうと言うことは無いよ」
「…慣れでどうにかなる問題じゃないでしょ…」
なるのだ。少なくとも私は。
結局のところ、他者からどう思われようが何と言われようが、私が私であることに変わりはないのだ。
しかも、私の場合は五大神達から自由にしていいというお墨付きまでもらっているのだ。
当然、ルイーゼはそんなことを知る由もないのだし、いい機会だから教えておこう。
「そう言えばアンタって普通に五大神と会話ができてたのよね…。はぁー…。そこまでブッ飛んでるならもうそれで良いわ…」
「ルイーゼだって相手の感情を読み取れるのだから、堂々としてればいいんじゃないの?恥ずかしがる理由はないと思うけど?」
「簡単に言ってくれるわねぇ…」
ルイーゼの場合は私のように開き直るのは難しいようだ。違いは何だろうか?
「経験、もしくは教養の差って奴かもしれないわね。私は世間一般の常識を知ってから数十年を生きてるけど、アンタの場合は一般常識を知ってもまだ1年も経ってないでしょ?知識として頭に入ってても認識ができてないんでしょ」
なるほど。言われてみればその通りかもしれないな。
一般常識が頭の中には入ってはいたが、私はそれを自分の常識としてではなく、あくまでも人間の常識として考えて自分に当てはめていなかった。
対して、ルイーゼの場合は自分に関する常識として最初から頭に入れていたのだろう。しかもそのまま長い年月が経過しているから、今更その常識が覆ることが無いのかもしれないな。
しかし、何事も経験と言う言葉もある。
例え周囲から盛大に称えられることが恥ずかしいと認識していても、何度もその状況を経験して慣れてしまえば、やはり耐性が付くのでは?
というか、ルイーゼの人気ぶりから考えて、既にある程度耐性が付いているのでは?つまり少しは慣れているのでは?
「どうなの?慣れてるんじゃないの?」
「いや、ここまで称えられるようになったのはヴィルガレッド様の騒動が起きた後からだし…。それまで私が魔王になってからは魔王国は平和だったし…」
何処か引っかかる良い方だな?その言い方は、まるでルイーゼが魔王になる前は平和では無かったかのような言い方だ。
詳しく聞いてみても良いだろうか?
「構わないけど、そろそろ移動を再開しましょうか。次の街の住民達も、アンタが来るのを心待ちにしてる筈よ?」
露骨に話題を変えてきたな…。あまり話したくないことなのかもしれない。
だとしたら、無理に聞く必要はないな。今の魔王国は平和なのだから、ルイーゼが話してくれるのを待てばいいのだ。
では、スイーツも食べ終わったことだし移動を再開するとしよう。
次の街はどのような街かな?
それから2日後。
2つの街を訪れ、次の街へと移動中だ。
相変わらずの盛大な歓迎に加え、街の中は私とルイーゼのツーショットがそれまでに訪れた街よりも増えていた。
既に結晶体についての情報も新聞を通して伝わっていたためか、これまでの住民達以上に羨望の視線を向けられることになっていた。
そして、それに呼応するかのように歓迎も盛大なものとなっていったのだ。
構いはしない。彼等からは下心を感じられなかった。それどころか、彼等からは私に対しての感謝と尊敬の念を新たに感じられたのだ。
自分達の街のことではないというのに、よほど嬉しかったのだろう。そして彼等は私の行為に対して更なる返礼をしたいと考えているのだ。
当然、私は彼等のその気持ちに感銘を受けた。彼等の歓迎にとても気分が良くなった。
つまり、返礼を行ったわけだ。
とは言え、私もすぐに真新しい返礼ができるほど多芸ではない。
2日前の街では絵画を彼等の前で描いて見せ、それを街に譲ることにした。昨日の街では歌いながらの舞を披露した。どちらも結晶体に映像を治めている。
二番煎じとなるためあまり喜ばれないかと思ったのだが、そういうわけでも無かったようで、ひとまずは安心した。
そしてこれから向かう街は新聞にも記載されていた、近くで魔物の大量発生が起きた街だ。ルイーゼが言っていた通り、まだ魔物を片付け切れていないらしい。
当然、三魔将であるエクレーナも街に滞在中だ。
正直、ルイーゼが私に似ていると言っていたので会うのが楽しみだった人物だ。
街の入り口に到着すれば、新聞に載っていた写真通りの非常に露出の高い装備を身に纏った女性を筆頭に、街の住民達が私達を歓迎してくれた。
「御来訪を心待ちにしておりました。タンバックへようこそ。歓迎いたします!」
「現在は少々立て込んでおりますが、街の外のことは我等に任せ、陛下もノア様もどうぞお気になさらずこの街をお楽しみください」
歓迎の言葉を送ってくれたのは街の代表だ。そしてエクレーナは私達に魔物の相手をさせるつもりはないらしい。
侮りや嫉妬などの感情はない。どちらかと言うと、私達の手を煩わせたくないと考えているようだ。
「お勤めご苦労様、エクレーナ。基本的に魔物は貴女を筆頭に任せるけど、ノアは貴女のことにも興味があるみたいなの。活躍ぶりを見学させてもらうわね?」
「何と!?」
本来ならば魔物の大量発生は想定になかったようで、街の案内にエクレーナの戦いぶりを見学することは無かったのだろう。
しかし、折角の三魔将の実力が間近で見れる機会だ。逃す手はない。
私がエクレーナの戦っているところが見たいとルイーゼに相談したところ、こうして私の要望が通ったということだな。
自分の活躍を見てもらえると聞いたエクレーナは、目を輝かせて感激している。
全身が細かく震え、今にもルイーゼを抱きしめそうな気配だ。
と思ったら実際に抱きしめだした。
「ああ!陛下!どうして陛下はそんなにも私を喜ばせてくれるのですか!このエクレーナ!感激でどうにかなってしまいそうです!」
「だぁーーーっ!!こうなるとは思ってたけど、いちいち抱き着かないの!こんっ…のぉ…っ!こういう時ばっかり馬鹿力になるんだからぁーーーっ!!」
感極まっているせいか、周囲の目も気にせずエクレーナはルイーゼに抱き着いている。頬擦りまでしているな。
ルイーゼの方が身体能力が勝っているので抜け出すこと自体はできる筈なのだが、無理に抜け出そうとすればエクレーナを傷付けてしまう可能性が高いためか、引きはがせずにいる。
なかなか面白い女性だ。ルイーゼから離れたら、今度は私がエクレーナを抱きしめてあげよう。
ところでルイーゼ?
彼女のどこが私に似ているの?
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