第506話 いざ、魔王国へ!!
アクレイン王国を全体的に龍脈を伝って探ってみれば、ソレを見つけるのにそれほど手間はかからなかった。
巧妙に隠蔽してはいるが、『
ハイネルが使用したであろう、飛行船とも呼ぶべき乗り物が確認できた。
やはり"ヘンなの"を参考に作られているようだな。
だがアレのように周囲の魔力を回収したりする機能は搭載されていないようだ。その代わりに、内外ともに"ヘンなの"よりも頑丈になっている。
しかも、人が搭乗して操縦可能となっているため、"ヘンなの"よりも臨機応変な動きが可能となっている。
動いているところを見てみたいし、実際にコレに乗って空を移動してみたいという気持ちが無いわけではないが、それはまたいずれの話にしよう。
コレに私が乗りたいと言い出したら、リガロウが拗ねてしまいそうだ。
この世界の空には、ドラゴンを始めとした非常に強力な魔物や魔獣が多数生息している。
中には空中で生まれ、一度も地上に降りることなくその生涯を空で過ごし続けるような魔物さえも存在する。
そういった魔物や魔獣の強さは並大抵の強さではない。
飛行が得意でないハイ・ドラゴンならば一方的に嬲り殺しにされるぐらいの戦闘力がある。
彼等は空であればどのような場所でも生息している。それこそ、陸地がまったく存在ない海上だろうとだ。むしろそういった環境の方が多く生息しているまである。
そんな海上を空を飛ぶ乗り物に乗って移動してきたのだから、ヴィシュテングリンの技術力は本当に大したものだ。
そもそもの話、防御力で劣る"ヘンなの"が大陸を渡ってこれたのだ。人を乗せて大陸を渡れない道理は無い、ということだな。
あの"ヘンなの"にはしてやられた部分もあるが、アレのおかげで私達は魔術具に対して深い理解を得られたのだ。影響を受けた"楽園浅部"も結局は無事だったのだし、むしろ礼を言わせてもらいたいぐらいである。
仮にあの国が何らかの問題を抱えているのならば、多少は協力しても良いぐらいには、私達はあの"ヘンなの"から大量の知識を得られた。
どの程度の知識を得られたかと聞かれれば、"ヘンなの"を一から作り直すことが可能なほどの知識を得られたのだ。
素材の心配は必要ない。錬金術と『
だから、勝手な意見ではあることは承知の上だが、"ヘンなの"はヴィシュテングリンから"楽園"に向けて届けられた贈り物だと判断することにした。
なかなか良い土産話ができたものだ。家の皆には勿論、ルイーゼにもヴィシュテングリンから空を経由して人が来たことを教えてあげよう。
翌日、私はボルテシモの城門でピリカと別れてリガロウに跨り"楽園"へと還ることにした。
なお、パーティが終わった後にマフカノン侯爵から例の板に関して質問された。可能であれば製法や販売権利を売ってもらえないかと打診があったのだ。
私からしてみれば大したものではないので、製法も販売権利を譲ることも吝かではない。そもそも、私の正体を知ったうえでなおも願い出るようなら要望に応えると決めていたからな。
しかし、昨晩ピリカに注意されてしまった。ただ与えるだけじゃなく、ちゃんと対価を受け取っておけと。
そんなわけで、私はマフカノン侯爵に対価に何を差し出せるかを尋ねたのだ。
最初は金貨500枚を提示されたのだが、金に困っているわけではないので、それは断らせてもらった。
私が求めたのは2つ。
ボノピラーの肉をボノピラー1体分と、今後マギモデルの劇場が建設されて劇が披露されるようになったら、連れを含めて優先して席を用意してもらうこと。この2つを要求した。
ボノピラーのステーキは家の皆にも食べて欲しかったが、今回は魔境に足を踏み入れる予定は無かったのだ。
いずれは魔境に入り直接ボノピラーを捕獲、飼育する予定はあるが、今は皆で1日中食べ続けられる程度の量があれば十分だ。
捕獲に関しては問題無い。私ならば例え暴れられても強引に連れて帰ることができるからな。飼育の方は虫の魔物だし、ラフマンデーに任せれば多分大丈夫だろう。
ボノピラーをそのまま家の周辺に連れて来たら魔力濃度の影響で危ないかもしれないが、事前にボノピラーを飼育するための魔力濃度が薄い空間を作っておけば、それで解決である。
"楽園中部"に生息している、知能がある種族の集落に預けるでもいいかもしれないが、それはボノピラーの飼育に成功してボノピラーが大人しくなってからでも良い気がするのだ。
上手く飼育できれば、ドライドン帝国のドラゴンステーキを提供しているドラゴンのように、自分の肉を自分から永続的に差し出してくれる魔物になってくれるかもしれない。
何にせよすぐに行うわけではないのだから、ひとまずは皆にボノピラーの美味さを知ってもらうところからだ。
もう一つの劇場ができた際の優遇に関してだが、私はマギモデルの劇場がこのボルテシモに建設されることを信じて疑っていない。
そしてマギモデルによる演劇は、間違いなく成功する。マギバトルですら昨日のような盛り上がりを見せたのだ。
私が感動したような演劇をマギモデルで披露してみせれば、確実に多くの人々を魅了するだろう。
そうなれば、劇場の席の予約などあっという間に埋まってしまうのは想像に難くないのである。
そこで、まだマギモデルの演劇に注目が集まっていない内に優遇してもらうことを確約しておくのだ。
この約束を取り付けることで、私は見たい時にいつでもマギモデルによる劇を楽しめるというわけだな。
連れを含めて優遇させてもらうようにしたのは、勿論リガロウや家の皆と一緒に遊びに来た時のためである。
全員ではないが、この後魔王国へ行く際には家の皆を連れて行くことになるのだ。今後は人間達の国にも連れて行くことになる機会が増えるだろう。
細かい説明は抜きに2つの対価を要求したら、驚くほどあっさりと要求が通ってしまった。
マフカノン侯爵としては、その程度のことならば喜んで、といった反応だったな。手放しで喜んでいるのが丸分かりだった。
取引が終われば、例の板の原理と製法を記した紙をマフカノン侯爵に譲り、実際に完成させられるかを確認した。
マフカノン侯爵が雇っている魔術具師も優秀だったようで、1時間も掛けずに例の板は私が作った物と遜色ない形で完成した。
板の名前は"クイックボード"。名前を尋ねられたのだが、私は特に決めていなかったのでマフカノン侯爵の方で決めて良いと言ったら、そういう名前となった。
"クイックボード"の取引が終了したら、早速冒険者ギルドへと足を運び、ボノピラーの肉を1体分受け取らせてもらった。
領主であるマフカノン侯爵を連れての訪問だったのでかなり驚かれたが、それだけだ。特に問題無く肉は受け取った。リガロウや家の皆にはやくボノピラーの肉を披露してやるのだ。
当然のようにこの街の図書館から本の複製依頼がでていたので、手早く片付ける。それが終われば、未訪問の国を見て回るという今回の旅行も終わりを告げる。
家に帰って竜の月までゆっくりと過ごさせてもらうとしよう。
そして、時は流れて兎の月29日の夜。
家の寝床の周りに並べられた、大量のお土産やプレゼントに不備がないかを指差し確認をする。
〈ノア様、そろそろ寝たら?確認するの、もう5回目だよね?〉
〈楽しみだわ!いよいよ"楽園"の外へいくのね!?〉〈初めてなのよ!楽しみなのよ!〉
〈姫様は、ルイーゼ陛下に会うのが楽しみで仕方がないのですね〉
〈魔王陛下と会話をして尚のこと楽しみになったのだろうな〉
それはそうだろう。なにせ、私とルイーゼが公の場で出会う初めての機会なのだ。これまで私達の関係は内密なものだったが、これでようやく彼女と堂々と一緒に居られるのだ。この事実が嬉しくなくて何だというのだ。
ルイーゼにも『
何やら私を盛大に歓迎する準備をしてくれていたようだが、私も彼女を盛大にもてなすつもりだ。私の配下達のモフモフでな!
今回家の皆、レイブランとヤタール、ラビック、そしてウルミラを連れて行くことはルイーゼには伝えていない。サプライズというヤツだ。きっと驚くだろうし喜んでくれるだろう。
ラビックとウルミラは勿論のこと、レイブランとヤタールも既に魔力の隠蔽が十全に可能となっているのだ。これで周囲に不安や恐れを与えることなくこの子達と一緒に色々な場所へ赴くことができる。
ウルミラは一度ファングダムに訪れたことがあるため少し落ち着いているが、他の3体はとても楽しみそうにしている。
冷静そうに私の心境を語っていたラビックでさえ、普段は寝る時間だというのに落ち着きを隠せていないのだ。その様子がとても可愛らしいので、私は現在彼を抱きかかえたまま荷物の確認を続けている。レイブランとヤタールは私の両肩から離れていない。フワフワした羽毛が両頬に当たってとても気持ちいい。
なお、リガロウとヴァスターには蜥蜴人の集落で分かれた際に、次の旅行先が魔王国で家の子達も一緒に旅行に行くと伝えている。
その際の驚きようはとても可愛らしくも面白く、その場で絵を描いてしまったほどだ。あの子にはそれが恥ずかしかったようなので、機嫌を取るためにも、カッコよくグラナイドと訓練をしている様子も絵に描かせてもらった。
そちらの絵はリガロウだけでなくグラナイドからも好評だったようだ。家に飾るだけでなく、複製してリガロウとグラナイドにも渡すことにした。
量が少なくなってしまうので少し迷ったのだが、このタイミングでリガロウにボノピラーのステーキを振る舞うことにした。
蜥蜴人の集落で振る舞うのだから、当然蜥蜴人達にも振る舞った。
彼等は元から虫を含めて何でも食べる種族だったため、ボノピラーの味も大変気に入ったようだ。勿論、リガロウも気に入ってくれた。
お代わりも要求されたため振る舞ったのだが、こんなことならば1体分と言わず2,3体分要求すればよかったと後悔したところだ。
まぁ、コレ以降は再びティゼム王国に訪れた際にマフカノン領にある魔境に足を運べばいいだけの話だ。ついでに領域の主に挨拶もしておこう。
ボノピラーのステーキは家の皆からも非常に好評だった。ラフマンデーなど、必ず食用に適した形に躾て見せると息巻いていたほどだ。
頼りになるのは確かなのだが、最近彼女に頼り過ぎているような気がする。
そんなことを口走ったところで、彼女は私に頼られることを喜びにしているため、休もうとはしてくれないのだが…。
そう思っていたのだが、私が信仰エネルギーを用いて生み出した精霊達が思いのほか優秀だったらしい。最近はかなり暇をしていて仕事が欲しいと言われてしまったのが記憶に新しい。
驚くべきことに、最上位のハチミツの生産量が倍以上に増えたのだ。それ以外のハチミツは更に採取量が多くなっている。
おかげでホーディは大喜びだし、ハチミツ酒の生産量も大幅に増えた。ルイーゼへのお土産に多めに包めるほどには大量に生産できたのだ。彼女の喜ぶ姿が目に浮かぶ。
飴玉も大量に作ってあるので、ルイーゼに食べさせてあげようと思う。きっと気に入ってくれる筈だ。
ハチミツが大量に採取できると言うことはつまり、花が大量に咲き乱れているというわけで、花弁を利用した香水も作ってみた。
が、これはちょっと上手くいかなかった。濃縮させすぎたせいで匂いが強くなり過ぎたのだ。
ウルミラやホーディには刺激が強すぎたようで、花弁から香り成分を抽出した途端、広場を抜けて森の中へと一目散に逃げだしてしまった。
香水が上手くいったら洗料に混ぜたりしてルイーゼへのプレゼントの一つにしたのだが、今回は断念することにした。
それに、あくまでも今回は、である。失敗は今後に生かし、次の機会の糧にすれば良いのだ。
ちなみに、私の作った洗料もプレゼントには入っている。そしてファングダムで初めてルイーゼと会話した時に、彼女が使用していた洗料を紹介してもらうと約束していたのを、私は忘れていない。
ルイーゼには私の洗料を使ってもらい、私は魔王国の洗料を使うのだ。洗料の交換である。
魔王国でルイーゼとやってみたいことが次々と頭に浮かんできて、いつもならば寝る時間だというのにまるで眠くならない。
見かねたフレミーが皆に私の元に集まるように指示をしだした。
全身がモフモフに包まれる。フレミー、それはズルいよ。
そんなことをされたら…我慢なんて……でき………。
レイブランとヤタールが『通話』を用いて私を起こしてくれる。どうやら朝を迎えたようだ。
まだまだ確認を続けたかったが、時間が来た以上は切り替えよう。
寝床の周りに並べられたままのプレゼントとお土産を『収納』に仕舞い、家の外へ出る。皆家の扉の前で待機してくれている。
「それじゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
〈楽しんできてね〉
〈"楽園"のことは我等に任せよ〉
それでは、オーカドリア達に見送られ、いよいよ魔王国へ出発だ!
ラビックを抱え、レイブランとヤタールを私の両肩に乗せ、私の体に密着したウルミラと共に、私は蜥蜴人の集落へと転移した。
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