第503話 ミニサイズ
さて、話をマギバトルに戻すついでに、今回の大会で適用されているマギバトルのルールについて説明しておこう。
マギモデルは基本的に鎧を身に纏っているのだが、この鎧をマギモデルから剥がし、その状態でダウンを取ることで勝利となる。
ダウンの判定は背中と臀部、もしくは両膝と腹部と頭部がそれぞれ同時に地面に接触した状態とされる。
マギモデルの鎧には魔力が込められており、マギモデルを通して相手の鎧に魔力を流すことで鎧から魔力を取り除き、鎧に込められた魔力が無くなることでマギモデルから鎧が剥がされる。
また、あまり知られていないし使われていない機能ではある、マギモデルに鎧を身に纏わせている時に強制的に鎧から魔力を排出することで、勢いよく鎧を外すことが可能だ。
鎧に込められた魔力量が多ければ多いほど、排出する速度が速ければ速いほど、勢いよく鎧がマギモデルから弾け飛ぶように外される。
鎧に込められる魔力量は鎧の大きさに比例している。大きければ大量の魔力を込められて高い防御力を誇ることになるが、その分動きが阻害される。
反対に小さな鎧の場合、機敏な動きを取れはするが数度の攻撃、最悪の場合一回相手の攻撃を受けただけで鎧が剥がされてしまうだろう。
また、鎧に流す魔力は与える衝撃が強ければ強いほど、大量の魔力を流すことができる。ただ触れるだけでは殆ど鎧から魔力を取り除くことができないのだ。
ダウンを取られなければ、鎧を剥がされても試合を続行できる。そのため、一応は鎧を装備せずに参加することも可能だ。尤も、今回のトーナメントに参加する者達の中に鎧を装備しないマギモデルは無いようだが。
試合には制限時間が設けられており、最長で1時間。それでも決着がつかない場合は3人の審判による審議によって勝敗が決まる。そのため、引き分けは無い。
試合を行うバトルスタジアムは私が知っている物よりも遥かに大きく、直径5mの円状となっている。試合が開始されるとスタジアムの周囲に結界が展開され、場外という概念が無くなる。
ただし、基本的な役割は既存のバトルスタジアムと変わっていない。
スタジアムに取り付けられた制御盤に触れ、そこからスタジアムを経由して自身のマギモデルに魔力を送り操作する仕組みとなっているため、直にマギモデルを操作するよりもスムーズにマギモデルを操れるだろう。
それと、滅多に無いことではあるが、マギモデルが行動不能になるほど破損した場合も敗北となる。
品質の低いマギモデルならば試合中に壊れてしまうこともあるかもしれないが、トーナメントに参加できるようなマギモデルならば、その心配も必要ないだろう。
細かいルールは他にもあったりするが、大体これらのルールを覚えておけば問題無く試合を行える。
というか、トーナメントの参加者達もルールを全て把握している者は少数のではないだろうか?
「把握してないんじゃない?アタイだって全部のルールを知ってるわけじゃないし。大体そういうルールってのは、決着がつかなかった時の審議のために使われるからね」
マギモデルの開発者であるピリカがこれなのだ。殆どの者は大まかなルールしか知らないと思って良いだろう。
「しっかしナディクスも面白いモン手に入れたね!スタジアムの様子を拡大して見せる装置だなんて、アタイも思いつかなかったよ!」
「マギモデルで劇をやって大勢に見てもらう場合、そのままではまともに見れる人は少なくなるだろうからね。その解決策なんだろうね」
そう、バトルスタジアムでの試合内容はスタジアムの真上に拡大して表示される。私が使用している『
その場で起きている状況を、そのまま拡大して指定した位置に現像するだけのようだな。いや、人間からすれば、それだけでも非常に凄まじい技術なのは間違いない。むしろ、素直に称賛を送るべきなのだろうな。
「アタイも負けてらんないね!アンタからも色々と面白い話を聞けたし、今なら新しい玩具が作れそうだよ!」
「それは良かった。今度見せてもらうね?」
ピリカと会話をしながらも試合の内容からは目を離さない。世界中から集まってきたと言うだけあって、誰も彼もが良い動きをしている。見ているだけでも楽しくさせてくれる。おかげで私達に用意された軽食やドリンクが実に進む。
ピリカも試合を観戦しながら用意された軽食を口に運んでいる。
「おお!グォビーのヤツ、今度はあの王様とやるのか!?なぁ、アンタはどっちが勝つと思う!?」
「さっきまでの試合を見たうえで言わせてもらうと、グォビーの方が勝率が高いだろうね」
「そうなの?ちょっととは言え、アンタがトレーニングをつけてやったんだろ?」
次の試合はグォビーとリアスエクだ。リアスエクも前の試合では私と特訓していた時以上の動きを見せていたし、周りからも優勝候補と言われるだけの実力を披露していた。
しかし、それだけで実力差を覆せたら世話はない、と言うことだ。それに、グォビーは言うだけあって面白いマギモデルを用意してきた。
そして、優勝候補と言われるだけの実力を有していたのは、グォビーも変わらなかった。それどころか、彼はこれまで誰も実現できなかった装備である蛇腹剣を装備しての参加だ。
直剣形態と鞭形態の変形機構も完全に再現されている。そしてそれを問題無く扱えているのだ。
彼と対戦した選手は変幻自在の動きに翻弄され、彼と対戦した相手はこれまで全員30秒以内に敗北してしまっている。
「グォビーもやるよなぁ!アタイじゃあの武器は上手く扱えないから作ろうと思わなかったけど、実際にあの武器を使われると相当厄介みたいだな!」
「おそらく、本人も蛇腹剣の扱いに長けているのだろうね。大した技量だよ」
自作でマギモデルを製作できてかつ鍛えられた肉体を持つ辺り、グォビーは高位の貴族か、もしくは高ランクの冒険者だろう。
その両方と言う可能性も考えられる。貴族が冒険者になるのも、別段珍しいことではないからな。
いずれにせよ、グォビー自身がかなりの手練れなのは間違いないだろう。
それに対し、リアスエクはあまり自分自身が戦闘を経験したことがないのだろう。動きは非常に堅実でブレが無いが、型にはまり過ぎている。
以前特訓を行った時も動きが綺麗すぎると指摘したし、多少は改善されているようだが、とっさの判断が遅れることが多い。グォビーはその隙を逃さない。
「クッ…!何とやり辛い…!」
「国王と言う多忙な身でありながら、よくぞそこまでの技量を身に付けられました。貴方のたゆまぬ努力に敬意を表し、最高の技で仕留めさせていただきます!」
「勝った気になるのは、まだ早いのではないかな…っ!?」
強力な技には、必ず隙が生じる。リアスエクはその隙を見逃さなかった。
グォビーのマギモデルが技の構えを取った瞬間、リアスエクは自身のマギモデルを全速力で突っ込ませ相手の間合いに潜り込んだのである。
「ここまで距離を詰めれば…っ!」
「お見事!ですが…甘い!」
懐に潜り込まれるのも計算の内だったようだ。最高速で突っ込んで来たリアスエクのマギモデルに、グォビーの腕に装着された鎧が勢い良く射出される。鎧に込められた魔力を自分で排出したのだ。
射出された腕の鎧がリアスエクのマギモデルにぶつかり、大きな隙となる。それは、グォビーが技を当てる最適の位置とタイミングとなった。
相手を切り上げてからの空中で鞭形態にさせた蛇腹剣の乱撃を浴びせていく。更にはトドメとばかりに足首に蛇腹が巻き付き、そのままリアスエクのマギモデルを地面に叩きつけるように投げてしまった。
足首を掴まれているため体勢を立て直すこともできず、リアスエクのマギモデルはダウン判定となった。
「勝者!グォビー=プラムフィールドォーーーッ!!」
試合の決着がつき、観客席から歓声が沸き上がる。巨大な映像によって何が起きているかハッキリと理解できるため、観客達も大いに試合の内容に満足できたようだ。
勿論、それは私達も変わらない。これまでのどの試合よりも見どころがあった。おかげで提供された軽食やドリンクが良く進んだ。
「流石だね、これまでエキシビジョンマッチの選手を務め続けていただけのことはあるよ」
「いえ、陛下も見事な操作技術でした。今までの対戦相手の中では、最も美しい動きでしたよ」
互いを褒め合って固い握手を交わしている。
リアスエクはともかく、グォビーが今のような態度を取ったのは今回が初めてだ。それだけリアスエクの実力を認めているのだろう。
先程の試合を見て理解したが、私がエキシビジョンマッチで戦うのは、グォビーになりそうだな。
残念なことに、リオリオン二世は決勝に上がる前に敗退してしまっているのだ。
相手は魔大陸の人間ではない。かなり若い
顔の造形が非常に整っているため、あまり多くは無いが観戦しに来た女性客達から、黄色い声援を送られている。
驚くべきことに、彼は射撃兵装を実現させてあっという間にリオリオン二世に勝利してしまったのである。
初見だったということもあるが、射撃兵装の威力が凄まじかったのが大きな理由だな。
リオリオン二世のマギモデルが装備していた鎧は、トーナメントに参加しているマギモデルの中でも特に重装甲だ。本来ならば、圧倒的な防御力で相手の攻撃を受けながらも構わずに強力な攻撃を叩きこむ戦闘スタイルだったし、その戦法によってトーナメントを勝ち進んでいたのだが…。
そんな重装甲を誇る鎧が、一撃である。
しかも弾速も非常に速い。リオリオン二世のマギモデルは重装甲が仇となり、碌に回避もできずに射撃兵装の前に敗北を喫した。
射撃兵装の正体は、リアスエクとの試合でグォビーが見せた鎧の射出機能を利用した兵装である。
両腕の鎧が排出を前提とした作りとなっている。
かなり細かくパーツ分けされているうえに射出する方向がぶれないように、4本の棒のようなパーツで射出するためのバーツを囲っていた。
「アイツ、面白いこと考えるな~!そうか、そういう方法があるのか…。クゥ~!コレだからこのトーナメントは好きなんだ!」
ピリカが射撃兵装を見て興奮している。創作意欲を大いに刺激されているらしい。
確かに面白い機能だとは思うが、それ以上に鎧の形状の方が私は興味があるな。
リオリオン二世を下したマギモデルの鎧の意匠に、既視感を覚えたのだ。
既視感の正体は、私が魔術具を学ぶ際に大いに貢献してくれた、あの"ヘンなの"である。アレと意匠が似通っているのだ。
つまり、あの青年はヴィシュテングリンの人間と判断して良いだろう。
彼がトーナメント終了後のパーティに参加するのなら、面白い話を聞かせてもらえるかもしれない。期待しておこう。
「あの射撃兵装を使う選手、去年も参加してた?」
「んー?…うんにゃ、初めて見るヤツだね。メッチャ顔が良いし、一度見たらアレは忘れないよ?」
技術が飛び抜けて発展しているヴィシュテングリンからの参戦は、今回が初めてと言うことか。
しかし、あの国の人間達がこうしてこの催しに参加すると言うことは、あの国にもマギモデルはピリカが開発するまで存在していなかったと言うことだろうか?
ただ、確かに驚異的な技術ではあるが、それでもグォビーの勝利はゆるぎないものだと私は判断した。
理由の一つは、既に射撃兵装が初見の攻撃ではないこと。
初見で、しかも不意打ちで使用されればグォビーでも対処ができなかっただろう。
だが、一度目にした以上、その威力と弾速を警戒しないわけがない。そして注意していれば、彼は問題無く対処可能なのだけの実力がある。
理由はもう一つあり、マギモデルの性能はともかく選手である青年の操作技量だ。彼の純粋な技量ではグォビーは勿論、リオリオン二世やリアスエクにも劣る程度だったのだ。
グォビーには複数の勝ち筋がある。
弾数に限りがあるのだから弾切れになるまで凌ぎ続けても良いし、接近戦に持ち込んで射撃兵装を封じてしまっても良い。彼ならばそれが可能だし、それだけの実力差があるのだ。
決勝戦は私の予想通り、グォビーとヴィシュテングリンの青年となり、結果も予想通りの形となった。
「なんとっ!?この攻撃を弾くのか!?」
「魔大陸は初めてか?"楽園"や"ドラゴンズホール"といった大魔境を平然と出入りできるようになれば、これぐらいは可能になる」
グォビーは射出された弾丸を弾くどころか蛇腹剣で絡め取り、投げ返して次弾を防ぐという芸当までやってのけたのだ。
伊達にエキシビジョンマッチの選手を務めていたわけではないと言うことだな。
「さて、そろそろ決着もつく頃だろうし、私も準備しておくよ」
「あ!それならアタイも!」
私は、エキシビションマッチの入場で少し格好をつけて入場するつもりなのだが、何らかの演出をしたいのはピリカも同じらしい。
お互いのやりたいことを改めて確認し合い、それぞれの要望が満たせる案を採用して観戦室から退出した。
目的の場所に移動中、グォビーの勝利を告げる司会の声が聞こえてくる。
15分ほどの小休憩が終わった後、エキシビションマッチが開始される。その時がようやく私の出番と言うわけだ。
今頃観戦室にスタッフが私達を呼びに来ているのだろうが、室内はもぬけの殻だ。慌てさせてしまわないように、置手紙を置いて来た。
私達がどこにいるのか、何をしようとしているのかを記入してある。これで心配されるようなことはない筈だ。
そして小休憩も終り、遂に私達の出番であるエキシビジョンマッチが始まる。
「さぁ!輝かしい勝利を収め、遂にこの時がやってきたぁーーー!!!このマギバトルトーナメント開催から去年まで、始祖ピリカのマギモデルを操る栄誉はこの男のものだった!しかぁし!なにやら始祖はとんでもないマギバトラーをスカウトした模様!突然の契約破棄!一からトーナメントを勝ち上がり、今!挑戦者としてかつての栄光を取り戻しにやって来たぁ!グォビーーー=プラムフィーーーーールド!!!」
司会がグォビーの紹介をすると、薄暗くなり始めた会場に光が当てられ、入場口からグォビーが入ってくる。
観客からの声援に、グォビーが手を上げて応えている。その目には、強い闘志が宿っていた。
「対するはぁ!!顔も!性別も!年齢も!声すらも!その一切が不明!分かっているのは、ボノピラーのステーキが大好きで大食いと言うことだけだぁ!!!今日まで頑なに正体を明かさず、意地の悪い笑みを浮かべ続ける始祖ピリカの隣に立つ、謎のマギバトラー!おそらく偽名!謎のローブ!シャマスターーー!!!」
微妙に貶されているような気がしないでもないが、観客は大いに盛り上がっているし、まぁ良いだろう。
司会が私が本来入場する筈だった入場口に手を差し出すが、そこからは誰も出てこない。何故ならば、私もピリカも別の場所にいるからだ。
何の反応も無いため司会やグォビーが困惑し、観客達もどよめいている。
「はーーーっはっはっはぁっ!!!よくここまで勝ち進んで来たね、グォビー!流石だよ!」
そんな会場に、ピリカの笑い声が降り注いできた。
私達は現在、会場の屋根の上にいる。とにかく派手な登場がしたかったという、ピリカの要望だ。
なお、彼女の声は司会と同じく魔術具によって拡声化されているため、問題無く全員に届いている。
「あーーーっとぉ!?始祖ピリカだ!始祖ピリカが会場の屋根の上に、シャマスタと共に立ち並んでいるぅーーー!!!」
屋根と言っても、真下に観客席がある訳ではない。雨や日差しをよけるためのものではなく、あくまでも装飾の一部だからな。だから、観客も司会もグォビーも、私達の姿を確認できるのだ。
「アンタのマギモデルも大した出来だったよ!だけど、今回は流石に相手が悪い!悪すぎる!!アタイは最強のマギモデルを作っちまったし、最強のマギバトラーをスカウトしちまったからねぇ!!」
自信満々にピリカが宣言する。自分のマギモデルが絶対の強さを持っていると、信じて疑っていないのだ。
まぁ、その点は私も信じて疑っていない。私達の持てる知識と技術、そしてピリカが所持する最高の素材を用いて完成させたマギモデルは、間違いなく現存するどのマギモデルよりも高性能だ。
「見せてやろう!そしてその目に焼き付けな!誰もが認める、史上最強のマギモデルの姿をっ!」
ピリカがそう言ってのけた後、私は『収納』からマギモデルを出現させて手のひらの上に立たせ、そこからバトルスタジアムまで跳躍させる。
この時点では観客の視線からは見えないように私の体でマギモデルを隠していたので、私の背後から何かがバトルスタジアムに飛び込んできたように見えただろう。
彼等がマギモデルの正体を理解するのは、バトルスタジアムの真上に投影される映像を目にした時だ。
腕を組んだまま仁王立ちの姿勢で着地し、
バトルスタジアム真上にその姿が映し出された瞬間、会場からは驚愕の悲鳴が巻き起こった。
「な…なななな、なんとぉーーーーーっ!!!?こ、これはぁ!まさかこのマギモデルはぁーーーっ!!!」
「…ホントに史上最強のマギモデルを用意する奴があるか…っ!」
誰もがバトルスタジアムに降り立ったマギモデルに驚愕している。
何故ならば、そのマギモデルの造形は、私の姿そのものだったのだ。
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