第502話 マギバトルトーナメント開催!
3人のやり取りはまだ続くらしい。
いいぞ、もっとやってくれ!美味い物を食べながらその間近で心躍るやり取りを眺める…。実に素晴らしい!食が進む!おかわり!
ああ、そうだな。チヒロードでも美味い物を口にしながら演劇を楽しんでいたが、アレに近い感覚がある。ピリカも今の状況をとても楽しんでいるようだ。
3人共、自分が負けるなどとは微塵にも思っていない。リアスエクの発言に対してグォビーもリオリオン二世も強気な言葉を返している。
「どれだけ操作技量が高くなろうとも、扱うマギモデルが凡庸ではのぅ?それに、ワシのマギモデルが去年と同じだとは思っとらんじゃろうな?」
「フッ、珍しく意見が合うじゃないか。今回は俺も自作のマギモデルを用意しています。操作技量も製作技術も、始祖に最も近いのはこの俺だと言うことを、照明してみせましょう」
マギバトルにおいて、マギモデルの操作技量は非常に重要な要素だろう。
どれだけマギモデル自体の性能が良くても、満足に動かせなくては意味がない。宝の持ち腐れというヤツである。
ピリカも言っていたな。マクシミリアンとグリューナを模ったマギモデルを購入た者達がそのマギモデルでトーナメント参加者に挑んだとしても勝てないと。
「お待たせしましたー」
つまり、トーナメント参加者はここにいる3人に限らず卓越した操作技術を持っていると言うことになる。
ならば、勝敗の決め手は何になるか。センスや駆け引きも含まれるが、最も勝敗が左右される要因は、やはりマギモデルの性能になるのだろう。
今しがた満足に動かせなければ意味がないと言ったが、逆を言えば満足に動かせられるのならば戦力の決定的な差となり得るのだ。
そして、リオリオン二世は勿論、グォビーも優秀なマギモデル技術者らしい。ピリカの作品には及ばずとも、自作のマギモデルの性能に自信があるようだ。
リオリオン二世は言わずもがなだろう。何ヶ月も屋敷に引き籠って研究を続けている者のマギモデルの性能が、低い筈がないのだ。彼も、自分のマギモデルの性能がピリカの作品に次いで高いと自負しているのだろう。おかわり!
しかし、2人の宣言にリアスエクが動じている様子はない。つまり、彼もマギモデルの性能に自信があるのだろう。
リアスエクも優秀な技術者だ、と言う話は聞いたことがない。しかし彼は私財で多額の買い物を平気で行うような人物だ。
国中から技術者を募い、アクレイン王国最強のマギモデルを完成させたと言い出したとしても、私は驚かない。
「フッフッフッ…!自分で作れなければ、他人に作ってもらえばいいのだよ。私は国王だよ?そのぐらいの金は出せるのさ」
「え…。流石にそれはちょと引きます…」
「此奴…国税を自分のために使いおったか…!」
自慢気に語るリアスエクの態度に、2人が引いてしまい、冷たい視線を送っている。
半分は冗談で半分は本気のようだ。彼ならばやりかねない。2人共そう思っているようだ。
「そんなわけがあるか!ちゃんと私財を使ってに決まっているだろう!」
そんな2人の態度に強く反発するリアスエク。その言葉を聞いて2人が意地の悪い笑みを浮かべている。ボケに対するツッコミだろうか?
「お待たせしましたー」
リオリオン二世がリアスエクの肩を組み、小声で訪ねてきた。
「で?いくら使ったんじゃ?」
「…煌貨1枚分」
「おまっ!?ちょっ!?マギモデルに使って良い金額ではなかろう!?」
「…別の意味でドン引きです、陛下」
小声で話していた筈なのだが、リアスエクとリオリオン二世のやり取りはグォビーにも聞こえていたようだ。まるで恐ろしいものを見ているかのような視線をリアスエクに送っている。
「仕方がないだろう!?このために国中の技師を集めたのだぞ!?全員に報酬を払おうとしたらこれぐらいは掛かるのだ!」
「そもそも、国中の技師を集めてる時点でのぉ…」
「ええ、我々にはできない発想です…」
伊達に国王をやってはいないな。そして彼の要望がまかり通ったと言うことは、国民達や集められた技師達も悪いことだとは思っていないのだろう。
それにしても、マギモデルのために煌貨1枚使ってしまうとは…。思い切りの良さは相変わらずのようだ。
いやしかし、本当に楽しいな。彼等のやり取りを見ながら食べるボノピラーのステーキが実に美味い!もう一皿おかわりを頼ませてもらおう!
私の行動を見てピリカが机に突っ伏し、腹を押さえて必死に笑いを堪えている。
3人のやり取りに異を解さずに食事を続ける私の態度が、彼女の笑いのツボにはまってしまったようだ。
「お待たせしましたー」
3人共それぞれに意識を集中しているため、私達の様子に気付いてはいなかった。が、彼等の注目は店員が三度追加の料理を運んできた際に私に集まってしまう。
「…シャマスタ…。お前一体どれだけ食べる気だ?」
「ワシ等のことなど、至極どうでもいいと言った様子じゃのぅ…」
「始祖ピリカにスカウトされただけ、あって随分と余裕なものだね」
まぁ、こうも頻繁に料理を運んでくる店員が現れては、気にならないわけがないだろうからな。
なお、食べ終わった皿はおかわりが来るたびに回収されているため、机は綺麗なままだ。
それはともかくとして、3人共私に相手にされていないと思うとともに、格下扱いされているようで気分を悪くしたようだ。
実際には無視しているどころか3人のやり取りに夢中になって食事が進んだわけだが、それを言う必要はないだろう。
喋るわけにもいかないので、例の板に[どうせここにいる誰かと試合をするのだから、気にしていても仕方がない。そしてボノピラーのステーキはとても美味い]と記入して彼等に見せてあげよう。
「アッハ!アハハハハハ!!もーダメ!アンタ最高だよ!面白過ぎるっ!」
遂に我慢の限界が来たようで、ピリカが腹を抱えたまま盛大に笑い出した。彼女も板に記入下文字を目に入ったらしい。そしてその様子に、3人も絆されたようだ。
「フッ…確かにその通りだ。我々ができるのは、互いに最善を尽くすことだけだな。良し!俺ももう一皿食べるぞ!」
「随分と珍しい魔術具を持っておるのぅ。ひょっとして自作かの?ああっ!?待つのじゃ!も、もう少し!まだ仕舞わんでくれ!」
「ううむ…彼女ほどではないとは言え、なんと見事な『格納』なのだ…。これほどの『格納』が使える魔術師が、この世界にどれだけいることか…」
私に対する感想は三者三様だな。
グォビーは先に私の板と『収納』を見ていたこともあり、改めてトーナメントに対する意気込みを高めている。そして私がボノピラーのステーキを食べているところを見て自分も食べたくなったのか、追加で料理を注文し始めた。
マギモデルに限らず魔術具が好きなリオリオン二世は、私が取り出した板に興味を持ったようだ。
じっくりと観察をしていたようだが、これ以上見せてやる理由はない。さっさと『収納』に仕舞ってしまおう。
そしてリアスエクは、私の『収納』に興味が言ったようだ。
人間にとって『格納』という魔術は、使用できるだけでも一流の魔術師と判断されるような魔術だ。
それを自然な動作で、しかもスムーズに行えるような術者など、世界中を探してもなかなか見つからない。
彼は私の魔術の技量から、マギモデルの技量も高いと判断したのだろう。
ちなみに、私はかつてリアスエクのトレーニングに付き合った際に『収納』を披露しているのだが、今回彼等に披露している『収納』は私基準でゆっくりと発動している。そのため、私の正体を見抜けないでいた。
私ならばもっとスムーズに格納空間から物を出し入れできると知っているからだ。その辺りは抜かりない。
「お待たせしましたー」
さて、話も終りそうなので、もう一皿食べ終わったらこの店を出るとしよう。
いや、実に良い体験をさせてもらった!
街の散策が終わって屋敷に戻ると、屋敷の庭で大規模な工事が行われていた。トーナメント会場や観客席を建設しているのだ。
マギバトルトーナメントの会場がこの屋敷だからな。
マフカノン侯爵の屋敷は非常に広いが、この屋敷の庭の広さは屋敷の2倍以上の広さがある。階段状の観客席を建築すれば、非常に多くの観客を迎えられるだろう。
建築には主に魔術を使用している。腕の良い魔術師を複数人雇い、基礎や土台等を手早く製作しているのだ。
私も手伝うべきかと一瞬考えたが、余計な手出しは不要だろう。それに、こんなところで正体がバレかねない行動などとる物ではない。ここは自重をするべきだ。
「ふぃーっ!いつ見ても迫力のある光景だねー。やっぱさ、アンタもあれぐらいのことできちゃったりするの?」
観客席や会場の建設は毎年恒例の景色らしく、ピリカは何度か目にしたことがあるようだ。
「そうだね。ティゼミアの王城ぐらいなら訳もなく建設できるよ」
「はえーっ!やっぱアンタはブッ飛んでるなー!」
私には『
尤も、今も会場や観客席を建築している彼等と同じ方法を行っても、そう時間を掛けずに建築できる自信はある。
なお、庭と言うだけあって建設前は手入れの行き届いた草木や花が植えられていたし、庭の中心には巨大な噴水も設置されてもいた。
だが、それらは別の場所に移動されている。これもまた魔術による運搬のようだ。
「どうせなら、移動しているところを見てみたかったね」
「なら、トーナメントが終わった後もちょっと厄介になるか?アンタが正体を明かした後なら、大喜びで歓迎すると思うぞ?」
だろうな。しかし、遠慮しておこう。早く家に帰って皆にマギモデルトーナメントの様子を見せてあげるのだ。勿論、私の新たなマギモデルやエキシビジョンマッチでの活躍もな!
まぁ、マフカノン侯爵が例の板に対して質問や取引を持ち掛けてきたら、その話がまとまるまでは厄介になろうとは思っている。
その時に庭を元の状態に戻す様子が見られれば御の字だな。
屋敷の中に戻ると、再びエントランスでマフカノン侯爵に出迎えられた。
今の私達は、彼にとって非常に大事な客なのだろう。特に、私が見せた板に強い商機を見出したようで、私の正体に関わらず私の機嫌を取ろうとしている。
「シャマスタ君、我が領都ボルテシモはどうだったかね!?ピリカの案内ならば、アレを食べたのではないかな!?」
マフカノン侯爵は、最初からピリカが私にどのように案内するか知っていたのだろう。ボノピラーの感想を訪ねてくる。
すかさず板を取り出し、[非常に美味かった。マギモデルトーナメントだけでなく、アレのためにこの街を訪れても良いと思ったほどには]と記入して見せておく。
文字を読んだマフカノン侯爵が嬉しそうに笑っている。
「ハッハッハッ!そうかね、気に入ってくれたかね!どうやら賭けは私の負けのようだな!」
「ニシシ!無謀な賭けだったと言わせてもらうよ!」
この2人、私がボノピラーの料理を受け入れるかどうかで賭けをしていたらしい。しかも提案したのはなんとマフカノン侯爵の方からだ。
私の正体を知っているピリカは、意気揚々と賭けに乗っただろうな。
私が料理の見た目や元の魔物の見た目で食事を拒否するような性格ではないと知っているのだから。
そもそも、マフカノン侯爵も私の正体を知っていたのなら、そんな結果の分かり切っている賭けなどしなかったのではないだろうか?
尤も、賭けに負けても清々しい表情で笑っている辺り、単純に賭けを楽しんでいただけのようだ。
「存分に楽しんでくれて何よりだよ。トーナメントの開催までもう少し時間がある。引き続き、我が領都を楽しんでくれ」
「ヘッヘーン!晩メシは期待させてもらうからな!」
「任せたまえ。最近開発が完了した魔術具を用いて、素晴らしいデザートを披露してあげよう」
マフカノン侯爵の返答にピリカが喜んでいる。
彼女も甘いものは好きだからな。貴族のデザートに興味があるのだ。
魔術具を用いた料理か。
一般的な飲食店にも魔術具を利用した調理器具はあるが、その大体が加熱用だ。
偶に皮むきやスライス、みじん切りなどの包丁による作業を行ってくれる魔術具もある。
しかし、既存の魔術具を利用した料理と言うことはないだろう。しかもマフカノン侯爵はデザートを披露すると言ったのだ。
おおよその予想はつくが、何が出るかはピリカに伝えないでおこう。
私も『
夕食の時間までは、ピリカと色々と魔術具について話をして時間を潰させてもらうとしよう。彼女とは、マギモデル以外にも話したいことが沢山あるのだ。
そうしてボルテシモの街を堪能しながら日々を過ごし、兎の月の14日。
遂にマギモデルトーナメントの開催日がやって来た。
完成したトーナメント会場と観客席に大勢の観客が集まっている。この日のために他大陸から足を運んで来た者すらいるようだ。
なお、私達は特別待遇を受けており、チヒロードの劇場の時と似たような待遇を受けている。要は、個室に案内されているのだ。
「世界中のマギモデル愛好家の皆様ーっ!大変長らくお待たせいたしましたぁ!!これより、マギバトルトーナメントを開催いたします!!!」
「「「「「ウォオオオオオーーーッ!!!」」」」」
司会の宣言と共に、観客席に着いた観客達が大きな歓声を上げている。
私が耳にしたことのあるどの歓声にも引けを取らない勢いだ。ここに集まっている者達は、皆マギモデルやマギバトルが大好きなのだろう。
試合会場にトーナメント参加者が入場していく。
一目見るだけでも、誰も彼もが高い魔力操作能力を持っていると分かる。それはつまり、全員がマギモデルを意のままに操れると言うことだ。
さぞ見ごたえのある試合となるだろう。私の出番が来るまで、楽しませてもらうとしよう。
ああ、そうそう。
マフカノン侯爵が用意してくれたデザートは、魔術具で冷凍させたフルーツを利用したシャーベットで、とても美味かった。
トーナメント終了後にパーティを開催して参加者に振る舞うのだそうだ。
そう。私が正体を明かした後でのパーティである。
周囲がどのような態度を取るのか、見ものだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます